626話 魔術士ギルドの者達の選択
カレンの女リーダーが今後の事について魔術士ギルドの者達に尋ねる。
「あなた達はこの後どうするつもりですか?」
「え?」
「私達は明日の朝、フェランに向けて出発します。この先にも結界が消えている可能性がありますから故障をしていた場合を考えると可能ならついて来て欲しいのですが」
三人がお互いの顔を見回す。
魔術士ギルドの男Aが代表で尋ねる。
「もし、帰りたいといったら?」
「無理強いはしないわ」
「でもそのときはあなた達だけで帰ってもらうことになるわね」
「え!?送ってくれないのですか!?」
魔術士ギルドの女にカレンの女リーダーが答える。
「悪いけどね」
「あなた達は出会っていないみたいだけど、ここにはAランクの魔物ザブワックがいるのよ。その退治も依頼に含まれてるわ」
「あなた達の護衛に人数を割くことはできないわ」
「ガルザヘッサだって油断できない相手よ。さっき私達はあっさり倒したように見えたかもしれないけどこの戦力があったからよ」
「隊形が崩されたらあっさり全滅もありうる。あなた達は目にしたばかりでしょ」
「そ、それはそうですけど……」
「ただ、ここに来るまで街道にいた魔物は全て倒してきたので危険度は以前のアズズ街道並みに戻ってるはずよ」
「そうですね。運悪く結界の隙間から侵入して来た魔物と遭遇しない限り戦闘になることはないでしょう」
「入口には傭兵団が待機してるからそこまでくれば助けてくれるかもね」
カレンの女戦士の言葉にサラは何も言わなかったが、内心では「それはどうかしら」と思っていた。
傭兵達は冒険者を嫌っていた。
魔装士の姿をしている魔術士ギルドの者達を見たら冒険者と思い魔物に襲われていても助けないのではないだろうか。
いや、冒険者でないとわかっていても助けに“行けない”かもしれない。
彼らはリオ一人にボコられて心に酷い傷を負ったように見えた。
今後傭兵を続けられるのかも疑問だった。
そこまで言われても魔術士ギルドの女は諦めきれず、リオの前にやって来た。
「リオさん!」
「ん?」
「私をオッフルまで送ってくれませんか?」
魔術士ギルドの女が上目遣いでリオを見つめる。
「させませんっ」
さっとアリスがリオと彼女との間に割り込む。
「……ほんとムカつくわね」
「そんなことないですよっ」
「だから説得力ないから」
「そんなことないですよっ」
「「……」」
二人のやり取りを面倒くさそうに見ていたサラがリオに念の為確認する。
「どうしますか?」
「何が?」
「いえ、なんでもないです」
サラはリオが話を聞いていなかったと察してリオの代わりに魔術士ギルドの女に言った。
「リオはザブワックに興味があるので無理です。私達リサヴィはリーダーに従いますので私達も無理です」
「そんなあ。どうしてもダメですかあリオさん」
彼女は今まで何人もの男達を落として来た必殺のお願いポーズをリオに向ける。
「ダメですっ」
「……」
アリスが盾になった効果があったかはともかく、リオの心を動かすことはできなかった。
魔術士ギルドの女の行動を見ていたカレンの女盗賊が呟く。
「……嫌がらせ受けてたって言ってたけど自分から揉め事作ってたんじゃないの?」
皆同意したものの態度には表さなかった。
魔術士ギルドの者達は皆行動を共にする事にした。
元冒険者とはいえ、戦い向きの性格ではないと察して冒険者ギルドを退会したのだ。
限りなく安全に近いとわかっていても自分達だけでアズズ街道を進むのは恐かったのである。
三人とも行動を共にすると聞いてヴィヴィが面倒臭そうに言った。
「ぐふ、三人ともついてくるのか。一人で十分なのだがな」
その言葉に自己評価の高い魔術士ギルドの女が噛み付いた。
リオに自分の魅力が通じなかった八つ当たりも含まれていた。
九十パーセントくらい。
「あなたに言われたくないわ!」
「ぐふ?」
「『ぐふ?』じゃないわよ!あなたも守られる側でしょうが!」
すかさずアリスが頼まれてもいないのにヴィヴィのフォローをする。
「ヴィヴィさんは戦い得意ですよっ。口喧嘩はもっと得意ですけどっ……って、痛いですっ」
アリスはヴィヴィにど突かれ頭を抱える。
「アリスの言う通りよ。あなた達は魔装具に詳しいんでしょ。ヴィヴィがカルハンの魔装具使ってる時点で気づきなさいよ」
カレンの女リーダーに指摘に魔術士ギルドの女はうっと唸る。
「そ、そう。まあ、そういう事にしてあげるわ!」
皆がヴィヴィの強さを認めるのを見て魔術士ギルドの女はなんか偉そうに言った。
カレンの女盗賊が魔術士ギルドの男Aにこっそり尋ねる。
「あの人、ホントにモテるの?」
彼は顔を引き攣らせながら答えた。
「ほ、本当ですよ……特に自己評価高い人に」
「だな」
話が聞こえていた魔術士ギルドの男Bが同意する。
「なるほど。似た者同士引き合うのかな」




