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625話 そんなことないですよっ

 リオが食事を作った。

 魔術士ギルドの者達は久しぶりの、それも温かい食事だった。

 サラの指示でリオは彼らの分は消化の良いものを作った。

 彼らがお代わりしようとするのをサラが止める。

 

「それくらいにしておいた方がいいです。しばらく食事を摂っていなかったのでしょう」

「そうですね」

「そうします」

「……オレはもう少し……いや、なんでもない」


 リムーバルバインダーの中で熟睡していた魔術士ギルドの男Bは最後までまだ食べたそうにしていた。



 安全になり考える時間が出来たからだろう、魔術士ギルドの男Aが冒険者達が全滅した事を悔やみ始めた。


「俺達がもっと早く対応できていれば……」

「ぐふ、それは冒険者が予め指示しておくべきだ」

「ええ。だからあなた達が気にする必要はありません」

「そ、そうですけど……」


 サラが話を変えるため疑問を口にする。


「しかし、流石に三人多すぎませんか?」

「最初は俺達二人だったんだ」


 彼の言葉に魔術士ギルドの男Bが頷く。


「私は無理矢理参加させられたんです!」


 紅一点の魔術士ギルドの女が叫ぶ。

 彼らが選ばれた理由は元冒険者だったからだ。

 冒険者(や旅する商人など)は専用の薬を用いて体を旅に適応させる。

 個人差はあるが、少なくとも三、四日程度ならば排泄しなくても問題なくなり、作戦行動中の邪魔をしなくて済む。

 その点を考慮されての人選だった。


「無理矢理とは?」

「私、自分では言いにくいんですけど美人じゃないですか」

「そうなんですねっ」


 皆が沈黙する中、アリスだけが反応する。

 彼女は周りの反応が期待したものと異なったことに内心腹を立て頬をぴくぴくさせながら続ける。


「今回、討伐に出かけたパーティの中に私が冒険者だった頃から言い寄っていた人がいたんですけど、その人が私を指名して来たんです。恐らくカッコいいところを見せようと考えてなんでしょうけどタイプじゃないし何度も断ってるのにほんといい迷惑でした!」

「そうなんですねっ」


 心のこもっていない返事をしたアリスを彼女は睨むが当人は気付いた様子もなくのほほんとした顔をしていた。


「そんな要求が通ったのですか?」


 サラの問いに彼女が答える。


「私、魔術士ギルドでも結構モテてて、上司に告られたことがあったんです。でもタイプじゃなかったのでお断りしたんです。きっとその事を根に持ってたんだと思うんです!」

「そうなんですねっ」


 魔術士ギルドの女はさっきからなんか癇に障る相槌を打つアリスを睨む。

 そこではっとなる。

 確かに彼女は美人だった。

 だが、今この場にいる女性陣は皆美人でその中では埋もれてしまうことに今更ながらに気づいたのだ。

 アリスは恐怖に陥っていた彼女に神聖魔法リラックスをかけて落ち着かせた恩人であるはずだが感謝の思いは既にない。

 彼女はアリスのにこにこ顔が自分を馬鹿にしているように思えて腹が立って来た。


「……あなた、なんかムカつくわね」

「そんなことないですよっ」

「本人が言っても説得力ないから」

「そんなことないですよっ」

「よく言われない?」

「そんなことないですよっ」


 その言葉にカレンの女リーダーは異論があった。

 しかし、口に出すことはなかった。

 アリスは優れた神官である。

 先程の戦闘で怪我を治してもらった。

 彼女の回復魔法は今後も必要なので下手に揉めて治療を拒否されるのを恐れてのことだ。

 もちろん、そうなる可能性は限りなくゼロだし神官はサラもいるが、不安要素は取り除くに越したことはない。

 女リーダーはその事をパーティメンバーに視線で知らせた。

 サラはそれらのやり取りに気づかないふりをして先を促す。


「それで三名になったのですね?」

「はい、そうなんです」


 魔術士ギルドの女はアリスを睨むのをやめてサラの問いに答えた。


「ぐふ、冒険者もだが、その上司とやらも事態の深刻さを全く理解していなかったのだな」

「そうですね」


 カレンの女魔術士が別の疑問を口にする。


「でもみんなよく魔装具扱えたわね。魔術士ギルドに所属するくらいだから魔力は問題ないとしても“魔装士酔い”ってのがあるんでしょ。大丈夫なの?」

「確かにあなた達のは廉価版じゃなく普通の、でいいのかな、ともかく戦闘用の魔装具よね?」

「問題ありません。オッフルはフェランが近いでしょ。だから新型魔装具の試験をよく手伝ってるんです」

「なるほど」

「オレ達は結界復旧用の道具運搬のために魔装士の格好したんだが、冒険者達の荷物も運ばされたんだよな」

「私達は魔術士ギルドの者なのにあの、荷物運ぶしか能のない廉価版と同じ扱いを受けたのよ!ほんと失礼しちゃうわ!」

「いや、お前はいいよ。彼らの荷物はほとんど運んでないだろ」

「オレらなんか完全下っ端扱いだぜ。冒険者だった頃ならともかく、今は所属が違うってのによ」

「その分、事あるごとに言い寄られて迷惑だったわ」

「ぐふ、そう言ってやるな」

「でもっ」

「ぐふ、もういないのだからな」

「……そうね」


「でも、最初からいなければ私はこんな目に遭ってないんだけど」と呟くのが聞こえたが皆聞こえないふりをした。


「けっこう性格悪いですねっ」


 いや、一人を除く。


「……あなた、ほんとムカつくわね」

「そんなことないですよっ」



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