623話 討伐隊に起きたこと
落ち着きを取り戻した魔術士ギルドの女がリムーバルバインダーから出てきた。
魔術士ギルドの者達は全員無事だったことを喜び合う。
カレンの女リーダーにここで起こったことを尋ねられ、最初に救出されたギルドの男Aが話し始めた。
このキャンプスペースに来るまでは順調だった。
結界装置は故障しておらずプリミティブを交換するだけで結界は作動した。
そしてこのキャンプスペースにやってきたときにガルザヘッサの群れの襲撃にあった。
戦闘開始当初、冒険者達が優勢に戦いを進めていた。
しかし、倒しても倒してもガルザヘッサは樹海から姿を現わし、ついにはリバース体も出現し状況は不利になっていった。
彼ら魔術士ギルドの者達は戦闘用の魔装具を身につけていたが、あくまで荷物を運ためで戦闘能力は皆無だった。
魔術士ギルドに所属しているくらいなので魔法は使えるがガルザヘッサに対抗できるような攻撃魔法は持っていなかった。
そのため、一組のCランクパーティが彼らを守っていたが、その余裕がなくなりその者達も戦いに参加することになった。
それは突然の事だった。
冒険者達の何人かが戦いを放棄して逃げ出した。
今回のメインであるBランクパーティだった。
彼らは今まで依頼を失敗したことがなかった。
危機らしい危機に遭うことなくトントン拍子にBランクにまで駆け上がったため死の恐怖を味わったことがなかった。
確かに彼らはそれだけの実力を持った者達だった。
しかし、今回は敵にBランク相当の強さを持つガルザヘッサが何体もいた。
更に倒しても倒しても樹海から増援が現れてきりがなかった。
もし、同行しているCランクパーティが旧知の仲で連携をとることが出来たならまた話は違っていたかもしれない。
しかし、そのCランクパーティとは今回初めて一緒に行動する者達ばかりだった。
指示を飛ばしてもその通りに動かない。
その彼らはBランクパーティの命令を無視するつもりはないのだが目の前の敵を相手にするので手一杯だった。
理由はともかく、命令しても言う通りに動かず連携が取れない。
一方、ガルザヘッサは見事な連携で攻撃を仕掛けてくる。
そうこうするうちにCランク冒険者が数名倒れ、更に状況は苦しくなった。
Bランクパーティはこの時初めて死を身近に感じた。
冒険者になって初めて恐怖を感じた。
結果、パニックに陥り、逃げ出したのだ。
Bランクパーティが逃げ出すのを見てCランクパーティも逃げ出し、魔術士ギルドの者達は置いてけぼりにされた。
絶体絶命の中で最初にサラ達に救助された者がリムーバルバインダーの中に隠れることを思いつく。
「リムーバルバインダーだ!リムーバルバインダーの中に隠れろ!そのまま助けが来るまでじっとしているんだ!」
言った本人が手本を見せるとでもいうように両方のリムーバルバインダーをパージし、その一つに素早く入り込んでフタを閉じた。
それを見て残りも者達も続く。
最後の一人がフタを閉じる直前、それに気づいた冒険者が「自分達だけずりいぞ!卑怯者が!!」と自分達の行動を棚に上げて怒鳴りながらやって来るのが見えたが、辿り着く前にガルザヘッサに倒された。
それが彼が見たその冒険者の最後だった。
今回依頼を受けた冒険者達の中にクズは一人もいなかった。
暴言を吐いた彼もそんなことを言う者ではなかった。
ただ、余裕のなさから思わずそのような言葉が出ただけだ。




