622話 魔術士ギルドの魔装士達
リオの行動に呆気に取られていた女リーダーが気を取り直して話しかける。
「私達は街道の魔物退治及び結界の復旧のために来ました。あなたは冒険者ですか?」
『い、いえ……』
「では魔術士ギルドの方ですか?」
『は、はい』
「そうですか。無事でなによりです。出来れば協力していただけますか?もちろん、私達が出来る限り守ります」
『……』
沈黙する魔術士ギルドの者をヴィヴィが脅す。
「ぐふ、このまま復旧するのを待っててもいいがそれがいつになるかわからんぞ」
「外から開けられない?」
女盗賊がヴィヴィに尋ねる。
「ぐふ、無理やり開けることも出来るが面倒だ」
「面倒って……」
話している途中でリムーバルバインダーがゆっくりと開き、魔装士の姿が現れる。
仮面を外すと不安そうな表情をした若い男の顔が現れた。
女リーダーが笑顔で手を差し伸べる。
「無事でよかったわ」
「あ、はい。ありがとうございます……」
女リーダーと握手してから魔術士ギルドの者はリムーバルバインダーから出て周囲を見渡し驚愕の表情をする。
辺りにガルザヘッサの死体が散乱し、その数はざっと数えただけでも軽く二十を超えていたからだ。
(ここにいる八人で倒した!?リバース体もいるのに!俺達が同行したパーティよりも少ない人数で!?)
彼は血の跡が樹海に続いているのを見て、ここで起きた事を思い出し顔が青くなる。
「あの、俺達と一緒に来た冒険者の方達は……」
尋ねられた女リーダーは正直に答える。
「私達は見ていません。恐らく生きてはいないでしょう」
「……そうですか」
カレンの女戦士が彼に尋ねる。
「ところで魔術士ギルドの生存者はあなただけ?って、言ってもわかるわけないか」
「魔術士ギルドの者は俺と同じ魔装士の姿をしていて俺のようにリムーバルバインダーに避難したはずですが……」
彼が話している途中で悲鳴が聞こえた。
『いやっ!そばに来ないで!開けないで!』
その声は若い女性のものでリムーバルバインダーの中から聞こえた。
彼女は長時間恐怖に晒されて精神状態が普通ではないようだった。
アリスが彼女の入っているリムーバルバインダーに向かってリラックスの魔法を発動すると静かになった。
「もう出て来て大丈夫ですよっ」
リムーバルバインダーが微かに開いたが出てくる様子はない。
まだ不安で中から出て来れないようだった。
彼女のことはとりあえず放っておくことにした。
「二人ですか?」
「いえ、もう一人いるはずなんですが……」
「でもリムーバルバインダーは四つしかないわよ」
「ま、まさか…」
魔装士ギルドの者が怯えた表情をする中、リオの淡々とした声が聞こえる。
「あれじゃない」
リオが指差した先、街道脇の樹海からリムーバルバインダーの一部が覗いていた。
「ぐふ、あと一つは見つからないな。樹海の奥へ運ばれたか」
そのリムーバルバインダーは外傷はあるがフタが開いた様子はない。
キャンプスペースまで運び、耳を当てていた女盗賊が小さく首を横に振る。
「そんな……じゃあ消えたもう一つのほうに……」
落胆した彼の耳に女盗賊の呆れた声が聞こえた。
「寝てるみたい」
「……は?」
「いびきが微かに聞こえた」
魔術士ギルドの技術者がそのリムーバルバインダーを乱暴に叩くと中からゴンっと何かがぶつかる音とともに悲鳴が聞こえた。
目覚めた拍子に体を起こそうとしてリムーバルバインダーに頭をぶつけたようだ。
魔術士ギルドの者達は全員無事だった。
ちなみに見つからないリムーバルバインダーだが、寝ていた者が囮として樹海の奥へ飛ばしたとの事だった。
その樹海の奥へ飛ばしたリムーバルバインダーだが、コントロールする魔道具が壊れたらしく反応がなく回収出来なかった。




