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62話 ストーカーの追跡 その3

「サラ!」


 サラが声がした方へ顔を向けると相手は予想通りストーカーのカリスだった。

 カリスは満面の笑みで手を振りながらやって来る。

 サラは内心ウンザリしながら頭を下げて挨拶をした。



 サラの希望でリサヴィはヴェインから歩いて半日ほどの距離にある街へ活動拠点を移した。

 あのいけ好かないヴェインギルドの受付嬢の話に乗った形になったが理由はそれだけではない。

 確かに受付嬢の言う通りヴェインでは低ランクの依頼が少なかったが、それ以外にも冒険者達のサラへの勧誘がしつこく、そしてカリスのストーカー行為が一番キツかった。

 カリスは宿を変えてもすぐに嗅ぎつけてやって来てはサラにオレオレアピール、隙あらば部屋にまで入って来ようとしたりとサラの精神力を削り続け、遂に限界に達した。

 それを見てサラが可哀想になったのか、単純に依頼がないからか、恐らく後者であろうが、ヴェインから離れる事に難色を示していたリオが拠点を移すことに同意したのだ。

 いつもサラが困ってる姿を楽しそうに眺めているヴィヴィもカリスには思うところがあるらしく、反対しなかった。



 今の街では低ランクの依頼が豊富であり順調に依頼をこなしていた。

 ここにはサラの素顔を知る者もいないようで冒険者からの誘いもぱったりとなくなっていた。

 そんな折に、サラは聞きたくなかったストーカーの声を再び聞く事になったのだった。

 サラが今、依頼で来ている場所は新しく拠点とした街から徒歩で一日、ヴェインからだと休憩を挟んで約二日ほどの距離にある村だった。


「どうしましたカリス。もしかして金色のガルザヘッサの情報が入ったのですか?」

「違う違う。そんな事じゃない。お前が俺に会いたいと思ってなっ」


 ウィンドの最重要案件を“そんな事”と軽く笑い飛ばし、意味不明な事を言ってキメ顔をする。

 カリスにとって金色のガルザヘッサはベルフィやリオのように仇ではなく、ただの懸賞金対象に過ぎない。

 サラは内心で深いため息をつく。


「”そんな思い込みで““こんなところまで”“わざわざ“やって来たんですか?」


 サラは嫌味っぽく言った後、言い過ぎたと思ったが、


「はははっ、気にするなっ。後輩をフォローするのは先輩の役目だ」


 とカリスには全く嫌味が通じていないどころか笑顔で返され、サラは言いすぎたと思った事を後悔した。

 ヴィヴィがカリスに皮肉っぽく言う。


「ぐふ。その必要はない」

「お前なんか気にしてねえ!」


 カリスは即、ヴィヴィに言い返す。


「僕も大丈夫だよ」


 空気が読めない事には定評のあるリオも続く。


「うるせえ!お前も気にしてねえ!俺とサラの会話の邪魔すんじゃねえ!」


 カリスがリオを怒鳴りつける。

 リオが手の届く距離にいたら間違いなく殴っていただろう。


「つまり、この中で私が一番頼りないと言う事ですか」


 サラは憮然とした表情で言い、カリスが慌てた。


「そ、そうじゃねえ!お前が怪我してないか心配でな」

「ご心配なく。私は神官です。怪我しても自分で治せます」

「そ、そりゃそうだろうけどよ。大怪我したら自分じゃ治せないだろ?」

「ぐふ。お前は治療魔法が使えたのか。知らなかったぞ」

「うるせえ!棺桶持ちは黙ってろ!」

「ぐふ」

「私の事は心配無用です。それより、あなたは”こんなところ“に来ていていいのですか?ウィンドは依頼を受けていないのですか?」

「おうっ、心配するなっ。ちょうど一息ついたところでな。しばらく休みだ。と言ってもすぐ戻らないといけないがな」


 カリスは一人笑う。


「カリス、冒険者は体が資本です。休める時に休んだほうがいいですよ」

「俺を心配してくれるんだな」


 サラは遠回しに「さっさと帰れっ」と言ってるのだが、カリスは言葉をそのまま受け取り感動したような表情を見せる。

 それをサラは冷ややか表情で見つめていた。


「だが、大丈夫だ!俺の事は気にするな。この程度の苦労どって事ないぜ!」


「ストーカーの事など全く気にしていませんが!」とサラは心の中で叫ぶ。


「サラ、俺は明日の朝にはここを出なきゃ行けねえ。だから夕飯を食いながら今までの事を聞かせてくれ。いいだろ?なんなら朝までだっていいぜっ」


 カリスがキメ顔で言うが、サラは首を横に振る。

 

「何故だ!?」


 サラはため息をついてから言った。


「あなたはここに遊びに来たのかもしれませんが、私達は依頼を受けてここに来ているのです」

「あ……」


 カリスが呆けた顔をする。

 サラに会う事に夢中でまったく頭になかったようだった。


「私達はこれから朝にかけて畑の警備があります。あなたは食事をとってゆっくり休んで明日の朝帰ってください」


 それだけ言うとサラは歩き出し、リオとヴィヴィが続く。

 カリスはその後ろ姿をしばらく見つめていた。

 

 

 そしてカリスは夕食をとりゆっくり休養をとって翌朝、村を去っていた。

 わけはなかった。

 サラのストーカーランク一位の座は伊達ではないのだ。

 

 

 サラ達が畑を警備しているところに一人の冒険者がやって来た。

 言うまでもなく、ストーカーのカリスである。

 サラはウンザリした表情を隠しもせずカリスに尋ねる。

 

「もう旅立つのですか。お気をつけて」


 サラの冷たい言葉に堪える事なくカリスは笑顔で首を横に振る。

 

「ははは。そんなわけないだろう。相変わらず素直じゃないなサラは」


 「思いっきり素直な気持ちですが!」と喉まで出かかったがどうにかその言葉を飲み込む。

 

「ではどうしたのですか?」

「おう、せっかく来たのに何もせずに帰るのもなんだしな。依頼を手伝ってやろうと思ってな」

「ぐふ。不要だ」

「うるせえ棺桶持ち!お前には言ってねえ!」


 カリスは会話に割って入ってきたヴィヴィを殴りつけようとするが、うっかり盾を殴れば自分の方が怪我するとわかる程度には理性が残っていたので自重する。

 

「以前に手助けは不要と言いましたよ」

「まあ、そうなんだがよ、高ランク冒険者の実力を目の前で見るのも勉強になるだろう?見せてやるぜ経験の差ってやつをよ!」


 カリスがウインクをするが、サラはスルー。

 サラの背後で「ぐふっ」とバカにしたような呟きがしたが、幸いにもカリスは気づかなかったようだ。

 サラは無駄だとは思いながらも反論する。


「それでしたら旅の途中で見せていただきました」

「あれは本気じゃないぜ。そこまでの敵もいなかったからな!」


 サラは何度目かのため息をつく。


「あの、この依頼内容を知っていますか?」

「畑を荒らす魔物退治だろ?」

「ええ。相手はリッキーです」


 そこでカリスは「ああ、」とつぶやき、何か思い当たったらしい。

 

「報酬の事を気にしてんのか。安心しろ、サービスだ。俺の取り分はなしでいい」


 カリスは全くの見当違いを口にし、サラは頭痛で頭を押さえる。


「……言いにくいですが、接近戦が得意なカリスには不向きかと思います」

「はははっ、何言ってんだ。俺がリッキーに遅れをとるなんて思うのか?」


 カリスはサラの言葉を軽く笑い飛ばす。

 

「ぐふ。好きにさせればいい」

「てめっ、さっきから生意気だぞ!」

「ぐふ」

「カリス、静かに」

「お、おお、悪い。でもよ、今のは棺桶持ちが……」

「どうしても手伝うと言うのでしたら止めませんが、二つ約束してください」

「おう、なんだっ?」

「その前にカリスは畑の警備をしたことがありますか?」

「あるぜっ。低ランクの時だがな。あっと言う間にBまで駆け上がったから経験は少ないが安心していいぜ!」


 カリスは自信満々に答えるがそれがサラを不安にさせる。

 つまり、畑を警備する際の注意点などを綺麗さっぱり忘れている可能性が高いと言うことだ。


「そうですか。では約束の一つめですが、何があっても畑を踏み荒らさないでください。私達が畑に被害を出したら元も子もありません」

「おう、当然だな。二つ目はなんだ?」

「これは私達が受けた依頼です。私の指示に従って下さい」

「確かにランクは俺が上だが、場合によっては自分よりランクが上の者に指示することもあるかもしれないからな!いいだだろう!俺がその訓練付き合ってやるぜ!」


 そう言ってカリスは二つの約束を快諾した。


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