615話 副団長の憂鬱
リサヴィの姿から見えなくなって傭兵団はほっと息をついた。
しかし、副団長だけはこれからのことを考えて頭が痛くなった。
団長は自分の世界に引き籠ったままいつ戻ってくるかわからない。
(このまま永遠に戻ってこないなんてことはないよな?)
彼に団長になるという野心があれば絶好の機会であるが、その気はまったくなかった。
そしてもう一人、不思議な踊りを踊り続ける傭兵の頭の怪我も回復の目処は立っていない。
(お前は団長に拾われて人一倍団長へ恩を感じてたんだよな。だからお前の行動は理解できるがそれにしたって短絡的過ぎだろうが!お前はもうすぐ父親になるんだぞ!)
その傭兵が突然、ぱたんと倒れた。
慌てて駆け寄るといびきをかいて寝ていた。
踊り疲れたようだ。
「ったく。驚かせやがって」
一瞬安堵するがすぐに現実に引き戻される。
(このままお前の頭が治らなかったらお前の嫁にどう説明すんだよ。ってか、このままいくとその説明は俺がする事になるのか!?勘弁してくれよ!!)
厳しい顔をして考えていた副団長に一人の傭兵が近づいて来た。
「なあ副団長、今のうちに逃げちまわねえか?」
「なに?」
「俺、あいつらとはもう関わりたくねえ」
副団長が団員達の顔を見渡すとそう思っている者は彼だけではないようだった。
副団長は提案してきた傭兵を怒鳴りつける。
「馬鹿野郎!そんなことできるか!」
「で、でもよ……」
「よく考えてもの言えよ!もし商隊の依頼を放棄してみろ。俺らが今まで築いてきた信用が吹き飛ぶぞ!」
うっ、と唸る声があちこちで聞こえる。
「それにあの隊長、正気じゃなかったから何するかわからん」
更にこっちが本命だと言わんばかりに声を大きくして続ける。
「それ以上にだ、リサヴィにこれ以上、悪い印象を与えるのはまずい!次は本当に殺されるぞ!!」
リオにボコられたのを思い出したのか「ひっ」と顔を強張らせる者達が何人もいた。
特に女傭兵だ。
リオは男も女も構わずボコった。
幸いサラは女性だけはきちんと治療したので顔だけでなく体の怪我も跡が残るような傷は残っていないが心の傷は癒すことはできない。
「リサヴィの影に怯えて生きたくはないだろう」
「そ、そうだよな。わかったぜ副団長」
「わかればいい。みんなもいいな?」
心あらずの団長と踊り疲れて眠っている傭兵以外が頷いた。
「俺達がすべき事はただ一つだ。商隊の依頼をきっちりこなすこと。今はそれ以外のことは何も考えるな!」
「おう!」と皆が返事をした。
心の中でほっと息をつく副団長の元に今度は女傭兵がやって来た。
「どうした?」
「ねえ副団長、私の顔、もとに戻ってる?なんか違和感があるの。本当に私の顔、元の綺麗な私に戻ってる?」
「……ああ、安心しろ。元通りだ」
副団長は正直に事実だけ伝えた。




