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613話 副団長奮戦する

 リオは副団長と目が合った。


「お前、このクズ傭兵団のクズ副団長だったな」

「は、はい」


 副団長はクズクズ言われてもリオが恐ろしくて反論できない。


「考え直せって言うくらいだ。何か案はあるんだろ。聞いてやるから言ってみろ」

「そ、それは……」

「ないなら今すぐ考えろ。お前の答えでアズズ樹海の運命が決まるかもしれないぞ」


 副団長は頭をフル回転させる。

 人をその気にさせる方法として次のことが思い浮かんだ。

 脅す、

 挑発する、

 誘導する、

 煽てる

 

 脅す、挑発するの二つは問題外だ。

 使った時点で死ぬ。

 傭兵団全員が今度こそ間違いなく死ぬ。

 よってそれ以外を試してみる。


「その、アズズ街道を開放すればギルドから大金が入るんじゃ?」

「金には困ってない」

「な……」

「それで終わりか?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ」


 副団長はリオを思いっきり煽てることにした。


「あんた達がこの件をあっさり解決すれば更に名声が上がります!伝説の魔物を倒すんだ!あの六英雄に並ぶかもしれない!」


 サラ達はリオが名声など欲していない事を知っている。

 だから彼の煽てにリオは乗ってこないと思った。

 しかし、


「なるほど英雄か」


 リオはそう言うと優しい笑顔を見せた。

 その顔には全く悪意がないように見えた。


「お前の案を一部修正して採用しよう」


 リオの言葉を聞き、副団長はほっとしたのも束の間、サラの表情が先ほどより更に厳しいものに変わっているのを見て自分は何か間違ったのではないかと不安になる。

 そして、その考えが正しかったとすぐ知ることになる。


「ところで、物語の英雄だが大抵味方が絶体絶命の時に現れるよな」


 そう言ったリオの表情が冷やかな笑みに変わる。

 背筋が凍るような笑みだ。


「まずお前達が行け」

「え?」


 団員達はリオが何を言ったのか最初理解できなかった。

 副団長が確認する。


「お、俺らですか?」

「そうだ」

「い、いや、その、俺らは魔物が出て来た時のためにここで待機してなきゃならないんです。それに相手にするのはAランクの魔物なんですよね?今の俺らじゃ勝てる気がしないです」


 副団長は自分を含む団員達の今の精神状態では格下相手にもまともに戦えるか不安だった。

 しかし、リオがそんなことを気にするはずもない。

 いや、彼らの命自体気にしていなかった。


「安心しろ。全滅しそうになったら俺達が戦ってやる」

「ぜ、全滅って……」

「具体的にはお前達が最後の一人になったところで俺達が参戦する」


「その最後の一人ってどういう意味だよ!?」と団員達は思った。

 その意味はすぐにリオが続きを話したので明らかになった。


「それで俺達が魔物を倒したのを見届けてそいつ“も”息を引き取るんだ」


 リオの筋書きに従うのであれば傭兵団員全員死ぬということだ。

 団員達が皆恐怖に顔を歪める。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!いえ、待ってください!」

「よしっ、決まったな」


 リオはクズのセリフを真似て言った。

 リオの言葉に団員達が怯える。

 そんな彼らの心情を気にすることなくアリスが笑顔で言った。


「流石ですねっ、リオさんっ」

「ぐふ、悪くない」


 リサヴィの二人がリオの案に賛成した。

 

「ほらさっさと行け」

「ちょ、ちょっと待ってくださ……」


 リオの目がすっと細まる。


「今死ぬか?」


 リサヴィ最後の一人であるサラに団員達はすがるような目を向けるがサラは厳しい表情をして沈黙していた。


 死神パーティ。

 彼らの頭にその言葉が浮かんだ。

 リサヴィに関わったクズ達が次々と死んでいくことからクズ達が名づけたリサヴィの二つ名だ。


(リオは俺達をクズだと判断してるから殺す気だ!)

(殺される!殺されちまう!俺ら全員リオに殺されちまう!!)



 副団長はリオが本当にリサヴィのリーダーであることを理解した。

 今までは名ばかりのリーダーで実質サラがリーダーだという噂が流れており彼もそれを信じていた。

 だが、今の怒り狂ったリオをサラは鎮めることができない。

 どうにか押し止めているという状況だ。

 もしサラが抑えに回らなければとっくに傭兵達は死んでいただろう。



 傭兵団絶対絶命ともいえるその時、リオが視線を街道へ向けた。

 そこに一台の馬車がやって来るのが見えた。

 馬車から四人組の女パーティが姿を現すと巻き添いを食っては敵わないとずっと我関せずを貫いていたギルド警備員達に彼女達が許可証か何かを見せてリオ達の前までやって来た。


「やっと見つけたわよリサヴィ!」


 ヴィヴィは彼女達に見覚えがあった。


「ぐふ、黒歴史、だったか」


 ヴィヴィの言葉にアリスが同意する。


「ああっ、ほんとですっ。黒歴史の皆さんですっ」

「「「「誰がよ!?」」」」

「カレンよカレン!ちゃんと覚えてなさいよ!」


 そう、彼女達はベルダで出会った男運の悪いBランクパーティ、黒歴史、ではなくカレンであった。


「話はギルドで聞いたわ。相手は伝説の魔物、ザブワックだってね」

「パワーアップした私達の腕試しの相手に丁度いいわ!」

「私のライトニングプラズマで葬ってあげるわ!」

「待ちなよ。私の分も残しておいてよ!」


 そう言って女リーダーは自慢げに新調したばかりの剣を天に掲げる。

 「私の分もね!」と女戦士が続き、これまた新調した剣を掲げた。


「リオ、あなたが言ってた鍛冶屋のフォリオッドから手に入れたのよ……って、そうよっ。何がフォロよ!フォリオッドじゃない!」

「そうなんだ」

「『そうなんだ』じゃないわよ!セユウで探し回ったのよ!!」

「フォリオッドも怒ってたわよ。『変なあだ名で宣伝するな』って」

「そうなんだ」


 カレンのメンバーと話しているリオから先ほどまで発していた恐ろしい気配が消えていた。


「その魔法、ライトニングプラズマだっけ、興味があるな」

「でしょ!今度こそ私の真の力を見せてあげるわ!」


 女魔術士はとても嬉しそうな顔でリオに答えた。

 そこでおやっとした顔をする。


「……リオ、あなたなんか変わった?」

「どうだろう」

「なんかさ、前会った時よりリオンに似てるような、あ、でもそっくりってわけでも、ない?」

「どうだろう」


 女魔術士が疑問形で投げかけて来るがリオは首を傾げるのみ。

 

「昔過ぎて記憶が曖昧になってるのかなぁ」


 女魔術士は自信なげに呟いた。


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