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611話 リオの制裁

 サラが団員達に最低限の治療をした。

 全快させなかったのは魔力消費を抑えるためだ。

 本来の目的、ザブワックとの戦いは始まってすらいないのだ。

 リオに戦う意志がなくてもザブワックと遭遇したら戦いになるとサラは確信していた。

 なのでこんな想定外のことで無駄に魔力を消費したくなかった。

 範囲回復魔法エリアヒールを使えば魔力をもっと温存できたであろうが、サラはその魔法を授かっておらず、その魔法を授かったアリスは傭兵団のリオへの態度が許せず回復魔法を使うこと自体を拒否した。

 だからサラ一人で全員を回復させなくてはならなかったのだ。


「あひゃ、あははっ」


 おかしなことを口にしたのは先ほど短剣で片目をつぶされた傭兵だ。

 短剣は脳にまで達していたらしく、治療魔法で目は見えるようになったが頭は治らなかったのだ。

 だが、誰も文句は言わなかった。

 リオの圧倒的な力の前に傭兵達は皆なす術なく敗れて心を折られており人の心配をする余裕がなかったのだ。

 それは無理もないことだった。

 この傭兵団はそれなりに有名で団員達は皆プライドも高かった。

 それが、たった一人に全員が一度も反撃できず倒されたのだ。

 それも武器を持っていない相手にである。

 彼らのプライドは一瞬で粉々にされた。

 もし、リオが本気で、剣を抜いていたら全員死んでいただろう。

 この場にサラがいなければやはり全員死んでいたであろうほどの重傷を負った。

 半数はこの場で息絶え、残りも負った怪我がもとで街にたどり着く前にやはり死んでいたはずだ。

 それほどまでにリオの力は圧倒的だった。



 先ほど団員達は皆心が折れたと言ったが一人だけ例外がいた。

 団長である。

 かつて団長はBランク冒険者と決闘を行ったことがあり、そのときは圧倒的な力の差を見せつけて勝った。

 そのため団長を含め団員達も団長はAランク冒険者以上の力を持っていると思っていた。

 その団長がリオには手も足も出ず敗れた。

 それも蹴りだけでだ。

 蹴りだけで呆気なく倒された。

 団長はその事実を認めたくなかった。

 冒険者なんかに負けたことを認めたくなかった。

 団長が貴重な上級ポーションを飲んで傷を全回復させる。

 そして彼は憎しみを込めた目でリオを睨むと剣を抜いて斬りかかった。


「俺はまだ負けてねえ!!」


 リオはその斬撃をかわした。

 団長はリオの動きが先ほどよりも遅いと感じた。

 それは団員全員の相手をしたことで疲れが出たのだと思った。

 副団長もリオの動きが遅いと思ったが団長とは違い疲れとは思わなかった。

 理由はわからないが嫌な予感がした。

 団長は自分の考えを疑わず再びリオに斬りかかった。

 団長の振り下ろした剣をリオは今度もかわすと蹴りを放つ。

 剣を握る手に命中して指を砕いた。

 悲鳴を上げる団長の手から剣が落ちた。


「!!」


 副団長はリオの動きが遅い理由を思いついた。

 リオの動きが遅くなった本当の理由、それは団長に恐怖を植え付けるためではないかと。

 先程は一瞬で倒してしまったので団長の心には恐怖より団員達の前で恥をかかされた屈辱と怒りが上回ったのだ。

 だからリオは少しずつ着実にじっくりと団長に恐怖を植え付けようと考えたのではないか。

 副団長は自分の考えが間違っていることを期待したが、それは叶わなかった。

 団長が砕けた手を押さえたところにリオの蹴りが放たれ右足の膝関節を砕いた。

 団長が再び悲鳴を上げて跪いたところにリオがその腹に蹴りを入れる。

 団長が血を吐いた。

 内臓が破裂したようだ。

 団長が砕けた手の方で腹を押さえると砕けていない方の手で降参の合図をしようとするが、リオは構わずその腕の肘関節を蹴り砕いた。

 団長から屈辱と怒りの感情は消え失せ、涙と鼻水そして血を吐きながら情けない顔でリオに許しを乞おうとするがリオの攻撃は止まらない。

 じっくりゆっくりと粘着質に団長の体を壊していく。

 両手両足の骨が砕かれ身動き出来なくなった団長の顔を止めとばかりに蹴り飛ばした。


「あははっ、だんちょ、とんでるっ!」


 脳を損傷した傭兵が宙を舞う団長を指差して楽しそうに言った。



 団長の怪我はサラによって再び最低限の治療がされた。

 団長のその顔にはもう敵意はなかった。

 あるのはリオへの恐怖だけで完全に心が折られていた。

 そんな団長に向かってリオが再び蹴りを放つ。

 情けない声を上げて団長が転げ回る。


「リ、リオさん!もう許してください!」


 副団長の声はリオには届かない。

 副団長は辺りを見回しサラと目が合い助けを求める。

 

「リオ!もう十分でしょう」

「まだだ。このクズはまだわかっていない。誰を敵にしたのかをな」

「しかし、リオ、これ以上は……」

「俺の邪魔をするな」


 サラはリオのその言葉に逆らえなかった。

 今の怒り狂ったリオは止められない。

 今のリオに逆らったら敵と認識される。

 サラは自分の無力を思い知った。

 それでも最悪の事態だけは避けようと努力する。


「せめて殺さないでください。彼らは街道の警備をしているようですから後で問題になるかもしれません」

「じゃあ九割殺しで済ませる」


 リオはくすり、と笑いながら団長への攻撃を続けた。


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