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609話 ヴェイグの提案

 ギルマスが再起動した。


「お、お前……み、みんな落ち着いてくれ……さい!ここは冷静に話し合おうじゃ、話し合いましょう」


 ギルマスは格下相手と思っている冒険者に敬語を使うのは抵抗があるようでうまく言葉が出てこない。


「みんなが困るんだぞ!い、いや、困るんですよ!」


 ギルマスはリオに睨まれてすぐ様言い直す。

 リオが見下した笑みを浮かべながら言った。


「そのみんなに俺は含まれていない」

「そ、そんな事を言う……い、言わないで頂きたい」


 ギルマスは頬を引き攣らせながら愛想笑いをするがリオが考えを変える様子はない。


「そもそもお前が辞めろと言ったんだぞ」

「そ、そこまでは言ってな、いません」

「ほう。じゃあ俺の勘違いだと言いたいのか?俺が間違っていると言いたいのだな?」


 リオから放たれるプレッシャーは相当のものでギルマスはまたも思考が停止した。

 部屋にいたギルド職員の一人がプレッシャーに耐えきれず失神して倒れた。

 無関係であるはずの輸送隊の隊長も巻き添いを食って体が震えていた。

 同席しているヴェイグはというとリオの変化を面白そうに笑みを浮かべて見ていた。

 それを困った顔で見守るイーダ。

 二人はリオのプレッシャーの影響を全く受けていないようだった。

 リオがギルマスを責める。


「そもそも何が冒険者の信用に関わるだ。お前らがクズを雇ったのがそもそもの原因だろう。クズを冒険者にしたお前らが悪いのだろう。今、この状況になった全責任はお前らにある。何故お前らの尻拭いを俺が、それも命令されてやらなければならない?」

 

 リオの正論がギルマス達の心に容赦なく突き刺さる。

 ギルマスはとにかくこの最悪な事態を急ぎ解決しようと自分達の非を明らかにせず、一方的にリサヴィに後始末を押し付けようとしたのだ。


「なあ、違うか?俺の言うことは間違ってるか?そうなら納得いく説明をしてみろ。俺が納得できたなら冒険者を続けてやるし、樹海にも行ってやる」


 リオが納得する説明をギルマスを含めここにいるギルド職員全員できる気がしなかった。

 ギルマスはリオ達の情に縋ろうとする。


「し、しかし、このままでは被害は収まら、収まりませんし、今この危機を救えるのはあなた方しかい、いないのです」

「お前らが行けばいいだろう」

「馬鹿野郎!」


 ギルマスは思わず怒鳴ったが、すぐに我に返る。


「い、いえっ、すみません!そ、そのっ俺達が行っても死ぬだけです」

「それでいいじゃないか」

「な……」

「お前らが死を賭して街道を守ろうとした姿を見たら俺の考えが変わるかも知れないぞ。一度くらいやってみる価値はあるんじゃないか」


 「命は一つしかないんだぞ!」と怒鳴りたくなったが必死に抑え込む。

 それに仮にやったとしてもリオが考えを変えるとはまったく思えなかった。

 笑って終わり、そんな未来しか想像出来なかった。



 最悪な雰囲気の中でそんなことなど全く気にしていないような呑気な声がした。


「なあリオ」


 リオは声をかけてきたヴェイグに顔を向ける。


「お前が冒険者を辞めようが辞めまいが俺にはどうでもいい。そんなことよりそのザブワックって奴強いんだろ?そいつをどっちが先に倒すか勝負しねえか?」

「勝負?」

「そうだ。それでどっちの力が上かケリをつけようじゃないか」


 その言葉にイーダが思わず突っ込む。


「いや、あんた負けっぱなしでしょ。何今まで互角の勝負してたみたいに言ってんのよ」

「うるせえ」


 リオは顎に手をやり考える素振りを見せる。

 今のやり取りでリオのプレッシャーが弱まり緊張が解けた隊長が声を上げて反対する。


「ちょっと待ってください!ヴェイグさん!あなたは私達の護衛なんですよ!離れられては困ります!」

「でもよ、ザブワックって奴を倒さないと先に進めねえんだろう?」

「それはそうですが、でもやっぱりだめです!」


 ヴェイグと隊長が言い争っている間も考え込んでいたリオがすっと立ち上がった。


「確かに“見に行って”やってもいいか」


 サラはリオの言い回しが気になった。

 “倒す”ではなく、“見る”と言ったことだ。

 思い返してみるとリオがザブワックの名を口にした時、知らないというよりもその名を知っていて考え込んでいるようにも見えたのだ。

 だが、ヴェイグはリオの言葉に何も感じなかったようで笑顔で言った。

 

「よしやろうぜ!」


 ヴェイグも立ち上がる。

 

「ですから、ヴェイグさんダメですって!」


 つられて隊長も立ち上がる。

 そんな隊長にリオが声をかける。


「隊長」

「は、はい?」

「僕達はここまでだ」

「え?」


 サラ達はリオの口調が元に戻ったことで怒りが収まったことに気づいた。


「僕達はアズズ街道を歩いて行く」

「ええ!?」


 隊長が驚く中でヴィヴィがリオに同意する。


「ぐふ、確かにフェランは樹海を抜けてすぐ先だしな」

「ちょっと待ってください!今そんなことするなんて自殺行為ですよ!」

「どうだろう?」

「いえ、『どうだろう』じゃ……」

「よし!決まったな!」


 そう言ったヴェイグにリオは首を横に振った。


「いや、勝負はまた今度」

「なに!?」

「依頼はきちんとこなしなよ。ヴェイグは冒険者なんだからさ」


 リオの言葉はもう自分は冒険者ではない、とも取れる発言でギルマスをはじめギルド職員は恐怖する。

 そんな彼らの気持ちなど気にすることなくヴェイグがリオに食ってかかる。


「てめえ!逃げる気か!?」


 隊長が会話に強引に割って入る。


「ありがとうございますリオさん!さ、ヴェイグさん、護衛に専念してくださいね!イーダさんもですよ!」

「あたいは最初から何も言ってないでしょ」



 もはやリオの目にギルマスの姿は入らないようで挨拶をすることなく部屋を出て行く。

 それに従うアリスとヴィヴィ。

 最後に部屋を出ようとしたサラに上級ギルド職員が駆け寄るとその手にそっと何かを握らせた。

 それはテーブルに置いてあった全員の冒険者カードであった。

 サラは言葉を口にする事なくそれらをポケットにしまった。



 リサヴィが外に出ようとすると後を慌ててギルド職員が追ってきた。

 

「お待ちください!我々がアズズ街道入口までご案内します!」



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