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608話 冒険者ギルド脱退!?

 リオ達はギルマスの執務室へ案内された。

 来客用のソファにリオ、サラ、アリスが座る。

 ヴィヴィはリムーバルバインダーを外すのが面倒なのか座らず立ったままだ。

 隊長、ヴェイグ、イーダは急遽用意された椅子に座った。

 ヴィヴィを除き全員が席につくと対面に座ったギルマスがアズズ街道で起きた事件の経緯を説明した。

 話を聞き終え最初に口を開いたのはヴィヴィだった。


「ぐふ、またクズが結界に手を出したか」


 サラ達が知る限りクズ達が結界に悪さをしたのはこれが二度目である。

 一度目はカシウスのダンジョンであった。

 その時は幸いにも周囲に傭兵や冒険者が集まっていたためダンジョンから溢れ出た魔物達は早々に退治された。

 その被害はダンジョン探索していた者達に限られていたが、今回は違った。

 既にいくつもの商隊や旅人が魔物の襲撃に遭っており、被害の数は把握出来ていない。


「リサヴィにはアズズ街道に出現した魔物の討伐及び結界の回復をやってもらいたい。それも出来るだけ早くだ」

「ぐふ、その前に確認したいのだが、何故クズに警備させた?こうなることはわかっていただろう」


 ヴィヴィの指摘にギルマスが汗を必死に拭いながら言い訳する。


「あ、ああ。俺もクズだとわかっていれば依頼を受けさせなかったんだが、あのクズ達はうまく正体を隠していてな……」


 クズ冒険者だと気づかなかった原因にはイケメンクズ冒険者に籠絡された受付嬢と娼婦紛いのクズ女冒険者の体に溺れたギルド職員が手を貸していたことが大きかった。

 更にギルマス自身も街道視察をサボっていたこともあったのだが、ギルドの失態を話したくないので死んだクズ冒険者達にすべての罪を押し付けた。


「それで街道に出現した魔物は何ですか?」

「ガルザヘッサとザブワックという話だ」

「ぐふ?ザブワックだと?」

「ザブワック……」


 リオの呟きを聞き、アリスが説明を始める。


「もう何百年も姿を現してないという伝説の魔物ですよっ。確かランクはAですっ。でもっ本当の強さはわかりませんっ」

「そうなんだ」


 そう言ったリオはどうでもよさそうに返事をした。

 いつもなら強そうな魔物に興味を示すリオらしからぬ反応にサラは違和感を持った。

 ギルマスはリオのやる気のない返事にイラつきながらリサヴィに命令する。

 余計な一言を加えて。


「さあ!アズズ街道へ急いで向かってくれ!ぐずぐずするな!」


 最後の言葉がリオの癇に障った。

 リオは椅子から立ち上がる代わりにテーブルにどん、と足を乗せて組む。

 ギルマスはリオの態度に腹を立てて怒鳴りつける。

 

「何をやっているのだ!!お前は!?」

「“俺”はやるなんて言ってない」


 リオの態度だけでなく口調も変わっていたことにギルマスは気づかなかった。


「な、なんだと!?」


 ギルマスは断られることを全く想像していなかった。

 

「俺達はCランクだ。強制依頼はできない」



 リオが口にした“強制依頼”という言葉がギルマスの心を激しく刺激した。

 先日のクズ冒険者達が口にしたのが頭を過ったのだ。

 カッとなったギルマスは考えなしにリオを怒鳴りつけた。


「ふざけるな!これはギルドの!いや、冒険者の信用に関わることなんだぞ!!そんなときにお前達のような実力ある冒険者が我儘を言ってどうする!?恥を知れ!!冒険者をクビしてもいいんだぞ!!」


 直後、何かがギルマスの頬を擦った。

 何が起きたと振り返ると背後の窓に長方形の薄い小さな紙のようなものが突き刺さっていた。

 それが冒険者カードだとわかるのにしばらく時間がかかった。

 頬を伝う何かに気づき手で触れその指先を見ると血がついていた。


「お、お前!!……」

「じゃ、辞めるわ」


 ギルマスは一瞬、リオが言った言葉が理解できなかった。

 彼が理解する前にアリスが動いた。


「じゃあわたしもっ」


 アリスがリオの真似して冒険者カードを投げたが、それは窓まで飛ばず勢いをなくして途中でぽとりと床に落ちた。

 アリスが顔を真っ赤にして落ちた冒険者カードを拾いに行く間にヴィヴィが懐から冒険者カードを取り出す。


「ぐふ、なら私も辞めるか」


 そう言って冒険者カードをテーブルに投げた。

 冒険者カードを拾って戻って来たアリスが先程の事はなかったかのような顔をして(顔は赤いままだったが)ばん、と冒険者カードをテーブルの上に叩きつけて言った。


「わたしもですっ」

「リオが辞めるのなら私もそうしましょう」


 サラも冒険者カードをテーブルに置いた。

 ギルマスは状況が理解できると同時に沸騰していた頭が急激に冷える。

 今までの高圧的な態度が完全に消え、顔が赤から青に変わる。

 自分が怒りに駆られてとんでもないことを口走ったのだと気づき焦りだす。

 冒険者への最後の切り札であるギルド退会の言葉がリサヴィには全く効果がなかった。

 それどころか実際に辞められて困るのはギルドの方であり、逆に自分の首を絞める結果となってしまった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 リオはあたふたするギルマスを冷めた目で見ながら言った。


「俺はもともと冒険者なんかに興味はない。必要なら遺跡探索者ギルドに入ればいい。この後カルハンに行く予定もあるしな」

「そ、そんな……」


 同席していた上級ギルド職員はギルマスが思考停止したのを見て代わりにリオと交渉をすることにした、

 りはしなかった。

 リオの怒りを鎮める自信がまったくなかったからだ。

 彼は今自分が出来る事をすることにした。

 窓に突き刺さったリオの冒険者カードを引き抜くために窓際へ移動する。

 リオは軽く放ったように見えたが冒険者カードはガラスに深く食い込んでおり、引き抜くのに苦労した。

 彼はリオの冒険者カードをそっとテーブルの上に置きリオの様子を見る。

 リオは冒険者カードを見向きもしなかった。

 


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