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605話 後輩思いのクズ その1

 輸送隊がある街に到着した。

 今日はこの街で一泊することになる。

 リサヴィは宿屋を見つけたあと、一階の酒場で食事をしているとその酒場のドアが豪快な音を立てて開いた。

 何事かと皆の注目の集める中、一組のパーティが堂々とした態度で中に入ってきた。

 彼らはドアを開けっぱなしにしたまま周囲を見渡す。

 彼らの一人が目的の人物を見つけ指を差して仲間に知らせた。


「なあサラ、聞いてくれよ!」


 そう言いながら食事中のサラ達のテーブルにやって来た冒険者からはクズ臭がぷんぷんした。

 一緒にやって来た同じパーティのメンバーも彼に負けず劣らずのクズ臭がぷんぷんした。

 サラが訝しげな目を向けるが彼は気にせず話を続ける。


「俺達よ、お前らが新米冒険者研修をしてるっていうのを聞いてよ。感動したんだ」

「そうですか」

「おう。そんでよ、俺らも新米冒険者の力になってやろうと思ってよ、指導してやることにしたんだ」

「はあ」

「そんでよ、ギルドに『新米冒険者研修の依頼を受けてやるぜ』って言ったらよ、あいつら断りやがんだ!その必要はねえってな!信じられねえだろ!?後輩育成を不要だと言うんだぞ!俺らの親切をも無にしやがったんだ!」

「……」


 新米冒険者研修はマルコが初めて行ったというわけではない。

 不定期ながらどこのギルドでもやっている事だった。

 マルコの新米冒険者研修が有名になったのはリサヴィが担当していたからだ。

 ただ、これがキッカケでどこのギルドも新米冒険者の実力向上に力を入れ出したのは間違いない。

 ゆえにそのギルドが彼らの話を断った理由は明白だ。

 彼らは研修と言っているが実際には何もせず、依頼料だけ貰おうとしていると思われたのだ。

「あなた達の信用がないからでしょう」とサラは思ったものの口にしたのは別のことだ。


「あなた達の善意?で行おうとしているのでしょう。何故ギルドの依頼にしようとするのです?」


 サラの言葉にそのパーティのリーダーが呆れた顔をサラに向けた。

 サラは内心、むっとしたものの表情には出さなかった。

 リーダーが物分かりの悪い者へ説明するように話し始めた。


「あんなあ、俺らだって暇じゃねえんだ。心優しい俺らも流石に無報酬じゃやってられねえぜ。お前らだってギルドの依頼で報酬貰ってんだろ。そんくらい言わなくてもわかれよ」

「はあ。では無理にしなくてもいいでしょう。暇ではないなら」


 サラは嫌味を込めて言ったが彼らには通じなかった。


「そんなわけにいくか!新米冒険者が可哀想だろうが!」

「「だな!!」」


「いえ、あなた達と関わる新米冒険者が可哀想です」とサラは思ったが口にしたのはまたも別のことだった。


「それでどうしたんです?」

「おう、仕方ねえからギルドの依頼じゃなくて直接新米冒険者から報酬をもらうことにしたんだ」

「そうすっと依頼ポイントが貰えねえじゃねえかって心配するだろ?」

「いえ別に」

「だがそこは予め共同依頼を受けておけば報酬も問題なしだ!」


 リーダーはすごい事を考えたかのように偉そうな顔をしていたが、なんのことはない、それはクズスキル?コバンザメと変わらない。

 サラだけでなくリサヴィの面々(リオは不明)は思わず突っ込みそうになった。

 そんなサラ達の気持ちに気づかず彼らは続ける。


「そしたらあいつら断りがやったんだ!信じられねえだろ!?」

「いえ別……」

「だがよ、心優しい俺らはよ、やっぱり心配なんでこっそり依頼について行ってやったんだ」

「そしたらよ、あいつら俺らの姿を見るなり『ついてくんな』とか言いやがんだぜ!こっちはあいつらの事を思ってやってやってんのによ!」

「他にもよ、魔物に襲われそうなところを救ってやったら『獲物奪うな』なんて恩知らずなこと言うしよ!」

「まだあるぜ!魔物の接近を親切に教えてやったら『魔物を押し付けんな』なんて逆ギレしやがるんだ!」

「ほんとあいつら文句ばっか言いやがんだ!あいつらの事を思って指導してやってんのによ!人の苦労を全く理解しやがらねえんだ!」

「ほんと指導員は大変だな。俺らはお前らの気持ちがよくわかったぜ。もちろん、お前らも俺らの気持ちわかんだろ?」

「「「「……」」」」


 サラ達は彼らの気持ちは全くわからなかったが、その行動は手に取るようにわかった。

 「ついてくるな」と言ったのは彼らがクズスキル?“コバンザメ”を使うと気づいたからだろう。

 更に「獲物を奪うな」がクズスキル?の“ごっつあんです”、そして最後の「魔物を押し付けるな」がクズスキル?の“押し付け”だろう。

 彼らは見事に全てのクズスキル?を使ったようだ。

 新米冒険者達にクズスキル?を伝授するつもりなら実践して見せるのは間違っていないかもしれない。

 そこでサラ達はふと疑問に思う。

 他のクズスキル?はともかく、“押し付け”に対応できたその冒険者達は本当に新米冒険者だったのだろうか。

 押し付けは奇襲を受けるようなもので新米冒険者が対応できるとは思えない。

 彼らがそう思い込んでいるだけで実はその冒険者達は新米冒険者ではなかったのかもしれない。

 元傭兵など冒険者になる前から戦闘経験が豊富だった可能性も考えられる。

 一つだけはっきりしているのはその者達がリサヴィ派ではなかったということだ。

 もしそうなら彼らが今こうして生きているはずがない。

 サラ達がそんな事を考えているとも知らずに彼らの感動話(妄想話)は続く。


「でもよ、俺らは心優しいからよ。新米冒険者どもに文句を言われながらも最後まで面倒を見てやったわけだ」


 そのパーティのリーダー、いや、クズリーダーがへへっと照れながら鼻の頭をかく。

 それに倣ってクズメンバーもへへっ、と満更でもない顔をした。


「よかったね」


 リオがどうでもいいように言った。

 「あ、話聞いてたんだ」とサラ達が返事したリオに驚いているとクズ冒険者達の顔が怒りの形相に変わった。


「全然よくねえんだよ!」

「あの野郎共、ギルドでの依頼完了報告の時によ!俺らが依頼の邪魔をしたって嘘の報告をしやがったんだ!そんでギルドの奴ら俺らの話をろくに聞かずに降格させたんだぜ!」

「恩を仇で返すとはこの事だぜ!!」

「「「「……」」」」


 サラ達はそのときの様子も手に取るようにわかった。

 彼らの異常思考にギルド職員は気が狂いそうになり話を最後まで聞かずに(身の危険を感じて)ギルマスに報告したのだろう。

 すんなり降格したという事はこれまでも彼らはクズ行為を繰り返しており、相当数の苦情が来ていたのだろうと容易に想像できる。

 本当なら降格ではなく、退会処分にしたかったに違いない。

 そんな事をサラ達が考えているとも知らず、クズ冒険者達は怒りの形相から一転して悲愴感を漂わせる。

 

「そんな嘘を信じるギルドのクソ野郎共もだが嘘の報告した新米冒険者達も許せねーだろう!?」

「いえ別に」


 サラの言葉は彼らに届かなかったようだ。

 クズリーダーがニヤリと笑った。

 キメ顔をしているような気もするが元がよくないのでよくわからない。


「そんでよ、こっからが本題だ。お前らに頼みがあんだ。新米冒険者共の話は嘘でよ、俺らは立派で尊敬に値する冒険者だってギルドに言ってくれねえか?」


 彼らの自己評価が異常に高いことにサラ達が呆れている間も彼らの話は続く。

 

「お前らが言えばギルドの奴らも信じるだろうし俺らの降格も取り消すと思うんだ」

「そんで俺らを降格処分にするようギルマスに言いやがったギルド職員や新米冒険者どもは厳しい罰を受けるはずだ!」

「新米冒険者の野郎共は退会処分かもな!」

「ちげえねえ!」


 クズ冒険者達が「がはは」と笑いだす。

 サラ達が了承していないのにクズパーティの面々はもう降格が取り消しになったかのように「よっしゃー!!」と奇声を上げて喜び合う。

 今までのやりとりをメモしながら聞いていた自称劇作家の双璧の男(またもリサヴィの後をついて来てちゃっかり一緒のテーブルで食事をしていた)が突然大声で叫んだ。


「くーーーーーーーーーーっず!!」


 小躍りしていたクズ達がぴたりと止まり、大声を発した自称劇作家の双璧の男を睨みつける。


「てめえ、今なんて言った?」

「あ、すいません。あなた達の話に感極まって思わず“グッド”と叫んでしまいました」

「おお、そうか」

「おかしな奴だな」

「いえいえ、あなた方ほどでは……」

「ん?」

「いえ、なんでもありません。私のことは気になさらずリサヴィの皆さんとお話を続けてください」

「おう、そうだな」


 クズ達は自分達がクズだと思っていないので彼の言葉を信じた。



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