604話 オッフルギルドの失態
アズズ街道が魔物に占拠された際の対応マニュアルは街道開通当時から用意されていたのだが、これまでに一度もそのような大事件が起きたことがなかったためギルマスを含め、ギルド職員達はそのことをすっかり忘れていた。
その存在すら知らない職員もいた。
それでもギルマスの危機管理能力が高ければうまく対処できたかもしれない。
しかし、残念ながらギルマスはそのようなものを持ち合わせていなかった。
ギルマスである以上、責任を全て部下やクズ冒険者達に押し付ける事は不可能である。
それに彼自身にも後ろめたいことがあったのだ。
フェランギルドとオッフルギルドはアズズ街道警備という重要な役目を持っていることからギルマスは月に最低一度は自ら街道の視察を行うという規定があった。
にも拘らず、彼は何かと理由をつけてサボり続けていたのだ。
視察をしていれば結界消失の現場に立ち会うのは流石に難しくても街道警備を冒険者達がサボっていることくらいは気づいた可能性が高い。
ただ、何もせずサボったわけではなく、視察の役目をギルド職員に丸投げしていたのだが、その職員もクズ冒険者達とグルになって嘘の報告をしていたのだ。
皆が少しずつズルしたことでクズ冒険者達の愚行に気づくことが出来ずこのような大惨事を引き起こしてしまったのだった。
今回、最初の被害者となった商隊はアズズ街道を作った大商会の一つであるサイゼン商会のものであり、その隊長は会長の息子でもあった。
彼はオッフルギルドのギルマスにまずはクズ冒険者達だけでアズズ街道に出現した魔物の退治をさせるよう提案、いや、脅して来た。
それはクズ冒険者達への死刑宣告に等しかったが、ギルマスはその提案を飲む以外の選択肢はなかった。
彼の目には狂気が宿り、拒否すればサイゼン商会の力を利用して何をするかわからなかったからだ。
それにその提案はギルマスにとっても好都合だった。
クズ冒険者達が余計なことを言う前にさっさと消えてもらったほうがいいと考えたのだ。
ギルマスはクズ冒険者達をアズズ街道へ向かわせた後、街道解放の本命の冒険者達を招集した。
それはBランク冒険者からなるBランクパーティだった。
先に向かわせた偵察隊だが、商隊が襲われた場所へ向かう途中、Cランクにカテゴライズされているガルザヘッサの群れと遭遇した。
彼らはそれらを排除して進むのは困難と見て途中で引き返して来た。(この後、クズ冒険者達はこのガルザヘッサ達によって全滅した)
商隊の隊長が見た傭兵団を全滅させた魔物の正体については不明だが、ギルマスは実績のある彼らBランクパーティに任せておけば大丈夫だと判断した。
彼ら自身からも力強い返事をもらってギルマスは自分の考えが正しいと思った。
思ってしまった。
正体不明の魔物はBランクパーティが相手をするとして、それまで力を温存させるためガルザヘッサ退治に二組のCランクパーティを同行させることにした。
このときオッフルギルドにはもう一組何も依頼を受けていないフリーのBランクパーティがおり、彼らを同行させたかったのが先に依頼したBランクパーティと過去に因縁があり、お互いに協力するのを拒否したため実現しなかった。
強制依頼で無理矢理参加させることも出来たがお互いに足を引っ張り逆に戦力ダウンする事を恐れて断念したのだ。
話を持ちかけられた二組のCランクパーティは二つ返事でOKした。
彼らはBランクパーティに負けず劣らず自信過剰でこの一件を解決して名声を得ようと考えており、自分達が負けるとは全く考えていなかった。
それどころか隙あらばBランクパーティに代わり正体不明の魔物も倒す気でいた。
更にBランクパーティの提案により、魔物退治と同時進行で結界装置の復旧も行うことにした。
結界装置が故障している場合を考慮して魔術士ギルドから魔道具開発をしている技術者達を借りて出発した。
しかし、彼らは帰って来なかった。
当然、大切なメンバーを失った魔術士ギルドは激怒し、魔物退治が終わるまで冒険者ギルドには協力しないと伝えてきた。
ギルマスの愚行は続く。
早く街道を復旧しなくてはとその後も戦力を小出しに投入して被害を拡大させたのだ。
その中には最初拒否したBランクパーティも含まれていた。
ギルマスはギルドの偵察隊に、「何としてでも魔物の正体を掴んでこい!」と怒鳴り散らして再度偵察に向かわせた。
偵察隊は多大なる犠牲を出しながらも魔物の正体を掴んて帰還した。
彼らの目撃情報から傭兵団や冒険者達を全滅させた魔物はAランクにカテゴライズされている伝説の魔物ザブワックであると判明した。
更に先に報告した魔物ガルザヘッサだがリバース体が多数存在していることも明らかになった。
リバース体はカテゴライズされているランクの一ランク以上、上の力を持つ。
つまり樹海に出現しているガルザヘッサの中にBランク以上のものが含まれていたのだ。
冒険者達は想定以上の力を持つ魔物達を相手にしていたのだから敗れるわけである。
この話を聞いた冒険者達はオッフルギルドの初期調査の適当さに激怒し、冒険者達からも信頼を失ったのであった。
今のオッフルにはこれらの魔物に対抗できる冒険者達はおらず、各地に散っているオッフル所属の高ランク冒険者の呼び戻しをかけると共にギルド本部に応援を求めた。
事情を知ったグラマスのホスティはオッフルギルドの対応の悪さに激怒しつつも近隣のギルドに協力するように指示を飛ばした。
しかし、Aランク以上の冒険者の多くはフルモロ大迷宮攻略に参加しており、近くにいなかった。
Bランク冒険者達はいたがその多くは相手が伝説の魔物ザブワックと聞いて尻込みした。
それにガルザヘッサのリバース体も多数いるのだ。
少なくとも単独パーティで勝てる気は全くしなかった。
そんな中でオッフルギルドのギルマスの元に朗報がもたらされる。
ある有名な実力のあるパーティがオッフルに向かっているとの情報が入ったのだ。
そのパーティとはリサヴィのことであった。
冒険者ランクはCと低いがその実力はBランクを軽く超え、Aランクとも噂される。
Sランクに匹敵するという者もいる。
彼らはAランクの魔物、ハンドレッドアイズを単独パーティでそれも余裕で撃破したという。
しかもベルダの街を包囲したマナッド・レインの影響で強化されたガルザヘッサやウォルーの群れを圧倒的な強さで倒し追い払うという、自分達を遥かに上回る数の敵との戦いも苦にしない稀有なパーティであり、今のアズズ街道の状況を打開するのに最も相応しい冒険者達であった。
ギルマスを始めギルド職員達はリサヴィがやって来るのを一日千秋の思いで待っていた。




