602話 クズ冒険者達、無実を主張する
商隊の隊長はオッフルの街に到着すると直ちに冒険者ギルドに向かい、アズズ街道西側の結界が消え強力な魔物が侵入して暴れていることを報告した。
事態を重く見たオッフルギルドのギルマスはギルドの偵察隊をアズズ街道へ状況確認に向かわせると共にフェランギルドに状況を報告し、安全確認できるまで街道へ入らないように告げた。
続いて元凶といえるアズズ街道警備依頼を受けていた四組のクズパーティをどんな手を使ってでも連れて来るようにとギルド警備員に指示して探させる。
その間に全ギルド職員を集めてクズ冒険者とグルの者がいないかと問い質した。
そこでクズと化していた受付嬢とその上司のギルド職員の存在が明らかになる。
クズとなっていた彼らだが、まだ常識も残っておりクズ冒険者達が結界装置のプリミティブにまで手を出していたと知り愕然とする。
彼らはクズ冒険者のことをわかっていなかった。
まさかそこまでやるとは思っていなかったのだ。
だが、クズ冒険者はどこまでもやるのだ。
クズには際限がないのだ。
クズ冒険者達の不正に手を貸したキルド職員達はその場で拘束されてギルド地下にある牢へ連行された。
しばらくしてアズズ街道警備依頼を受けていた四組のクズパーティがギルドの大会議室へ連行されて来た。
本来、この時間はアズズ街道の見回りをしているはずのクズパーティも街の酒場にいたことから商隊の報告が事実であるとギルマスは確信する。
当初、イケメンクズパーティは取り柄であるその容姿と口のうまさで誤魔化そうとしたが、この深刻な状況ではなんの役にも立たなかった。
激怒している相手には逆効果だった。
思い通りにことが運ばないとわかるとクズ冒険者達は本性を現した。
クズ冒険者達は誰も非を認めず、結界装置のプリミティブは間違いなく渡された物と交換したといい、他に犯人がいると言い張った。
街道警備をサボっていたクズパーティは何故警備をしていなかったのだと理由を問われると「体調が悪かったからだ!」と酒臭い息を吐きながら堂々と言い放った。
「嘘をつけ!何が体調が悪いだ!サボって酒を飲んでいたらしいではないか!!」
「俺は嘘をついてねえぞ!頭痛えし吐き気もする!」
「俺なんかな体もフラフラしやがるんだぞ!」
「全部酔っ払いの症状だ馬鹿野郎!!」
クズ冒険者達はそれでも非を認めず自分勝手なことを言う。
「仮にだ!仮にそうだとしてもこんな状態じゃまともに戦えねえ!」
「だな!警備をやるとしてもだ、体調が完全に戻ってからだ!!」
「俺らの体調が戻るまで他の奴らに対応させろ!」
「だな!」
「黙れ!!酔っ払っていようがいまいがお前らの力は大して変わらんわ!」
「ざけんな!俺らの力を過小評価すんじゃねえ!」
娼婦まがいの女冒険者がギルマスに色目を使いながら言った。
「ねえ、ちょっと聞いてよ。私は、私だけは無実なんだよ。ほんとだよ!」
彼女はたらし込んだギルド職員に擁護してもらおうとその職員を呼んで欲しいと言った。
だが、その男が既に自白して牢屋に入れられていると知ると、媚びた表情がクズ顔になり、ちっ、と舌打ちをした。
あくまでも無実を主張し続けるクズ冒険者達だったが、ギルドが彼らに渡した結界装置の交換用プリミティブを何人かが所持しているのが発見されたり、売り払った証拠も出て来たことで流石に分が悪いと察した彼らは罪を認めて謝罪した、
りはぜず、なんとそれでも無罪を主張し続け脅迫まで始めたのだ。
どこに出しても恥ずかしい見事なクズっぷりであった。
「そこまで俺らの事が信用できないっていうならな!この依頼やめてやる!いいのか!?俺ら全員だぞ!?」
「そうなったら困んだろうが!」
「だな!」と他のクズ冒険者達が偉そうな顔で同意する。
彼らの自己評価は非常に高かったが、ギルドとの乖離は凄まじくその脅しは全く通じなかった。
ギルマスは冷めた目をしながら言った。
「お前達がやめるのは止めん。言い出さなくても辞めさせるつもりだったからな。依頼ではなく冒険者をな」
クズ冒険者達から「ざけんな!」の大合唱が起きるがギルマスは無視して続ける。
「だが、その前に掃除をして行け。アズズ街道に現れた魔物の掃除をな」
「ざけんな!俺らはCランク冒険者だぞ!強制依頼は出来ないはずだ!」
「だな!」の大合唱がクズ冒険者達から起こる。
そんな彼らをギルマスが怒鳴りつける。
「何が強制依頼だ!受けた依頼をこなせと至極当然の事を言っているだけだクズども!!」
しかし、クズ冒険者達はそう思わなかったようだ。
「やってられるか!」
彼らはそう叫んだ勢いに乗って大会議室から逃げ出そうとした。
しかし、ギルド警備員に回り込まれてしまった。
彼らが逃げるだろうことは予想済みだったのだ。
抵抗虚しくその場で全員冒険者カードを取り上げられる。
ギルマスは虫ケラを見るような目をしてクズ冒険者達に言った。
「この依頼を無事終えたら冒険者を続けられるか考えてやる」
「……ちっ、わかったぜ。行ってやる。そんですぐに片付けてやるぜ!」
あるクズパーティのリーダーの言葉にクズ冒険者達が「だな!」の大合唱。
クズ冒険者達は堂々とした態度で大会議室を出ていった。
言うまでもなく、クズ冒険者達はアズズ街道へ向かう気はない。
傭兵団を全滅させるような魔物に勝てるはずないとおめでたい頭のクズ冒険者達でも流石に理解できた。
だから退治に行くと見せかけてこのまま街から逃げ出す気だった。
冒険者ギルド退会は確実だろうが自分達の命のほうが大事だ。
それに冒険者をクビになっても彼らの心の中ではずっと冒険者のままだ。
これからも冒険者を名乗る気満々であった。
ことの成り行きを黙って見ていた被害を受けた商隊の隊長は彼らを逃す気はなかった。
彼らは冒険者ギルドを出てすぐ屈強な者達に囲まれた。
「なんだてめえらは!?」
「俺らはC!ラーーーーンク!冒険者だぞ!」
屈強な者達は何も答えず、彼らの後から冒険者ギルドを出て来た商隊の隊長に目を向ける。
「こいつらか?」
「そうだ。そのクズ共だ」
「誰がクズだ!誰が!?」
更に冒険者ギルドの警備員達も現れた。
それを見てクズ冒険者達は味方だと思った。
「おい!お前ら!このゴロツキどもを何とかしろ!」
「俺らがアズズ街道に行くのを邪魔しやがんだ!!」
商隊の隊長が冷めた目でクズ冒険者達に言った。
「安心しろクズども。彼らはお前らをアズズ街道に案内するために俺が雇った傭兵団だ」
彼らは名の知れた傭兵団だった。
オッフルの街へは別の任務で来ていたのだが、商隊の隊長は金にものを言わせて彼らの現在の任務をキャンセルさせて破格の報酬で雇ったのだった。
クズ冒険者達は逃げ道を塞がれても必死に抵抗したが、傭兵団とギルド警備員達に囲まれてはなす術なく武装解除されて馬車に押し込まれた。
こうしてクズ冒険者達は傭兵団とギルド警備員達によってアズズ街道へ連行されていった。




