60話 ストーカーの追跡 その1
リオ達が利用していた宿屋だが前払い分宿泊後、安いところに変えた。
その宿屋は以前ベルフィ達に紹介された中にはなく、サラ達が街を散策して見つけた比較的新しい宿屋だった。
部屋の作りは悪くなく、前の宿屋のように数日分強制的に前払いさせたりもしなかった。
その宿に泊まるようになって二日目、
サラとリオは一階の酒場で食事をしていた。
ヴィヴィはいつものように別行動をとり部屋で一人食事をしている。
サラとリオが座る二人用の席を以前、嫌がらせで低ランクの依頼を受けていた冒険者達が取り囲んでいた。
言うまでもなく、サラの勧誘だ。
「なあ、いいだろう?」
「こんなガキの相手じゃつまらんだろう?冒険も“夜”もよ」
酒でも入っているのか冒険者の一人が、「ひひひ」と卑猥な笑みを浮かべながら言った。
(そんな誘い方で仲間になる人がいるなら見てみたいわ)
サラはそんな事を思いながらリオの様子を見るが、いつもと同じで我関せず、とでも言うように黙々と食事を続けていた。
(リオが正解ね。さっさと食事を終わらせて部屋に戻りましょう)
そう思った時だった。
「サラに付き纏うのはやめろ!」
そう叫びながら酒場に入って来たのはサラのストーカー、カリスだった。
「げっ、カリス!?」
冒険者達が怒りの形相で向かって来るカリスを見て動揺する。
ちなみにサラも心の中で「げっカリス!?」と叫んでいた。
「邪魔だ!サラが迷惑してるだろ!」
カリスが自分の事は棚に上げ言い放つ。
冒険者達はカリスの名を知ってるくらいだ。当然その腕前もわかっている。
それでも抵抗を見せる。
「か、勧誘は自由だ!」
「そうだ。お前は関係ないだろ!」
カリスが勝ち誇った顔で言い切った。
「サラはウィンドに入ることが決まってるんだ!」
「なっ!?」
皆がサラを見るが、サラは肯定も否定もせず、無言で食事を続ける。
「ほらっ、わかったらさっさと離れろ!」
カリスが大剣に手を添えるのを見て冒険者達は逃げるように酒場を出て行った。
その姿を見送った後、カリスが振り返りサラに笑顔を向ける。
「大丈夫だったか?俺がいつもそばにいられればいいんだがな」
「いえ、あなたも同類ですよ」と言う言葉をサラは料理と一緒に飲み込む。
「よくここがわかりましたね」
そう、サラ達はカリスに見つからないようにベルフィに紹介されなかった宿屋をわざわざ選んだのだ。
「はははっ、まあな!結構走り回ったぜっ。だが、ここは俺の街だぜ!」
カリスは苦労話を自慢するが、サラにはストーキング自慢としか聞こえない。
「それで探していたと言う事は何か急ぎの用ですか?金色のガルザヘッサの情報を得たとか」
サラがカリスに用件を尋ねると、
「いや、お前が俺に用があるんじゃないかと思ってな」
とわけのわからない事をなんの疑問も持たずに言い切った後でキメ顔をする。
「……は?」
サラが唖然としてカリスをマジマジと見る。
カリスがサラに見つめれら照れたように顔を赤らめる。
「ほら、“俺”と別行動になってもう十日以上も過ぎただろ。困ったことがあるんじゃないか?いや、探し回った事は気にするな。俺は全然気にしてない!俺も会いたいと思っていたところだしな」
自分の思い込みを事実ように語るカリスにサラは内心深くため息をつく。
(……このストーカー、本当になんとかしないと)
「いえ、全く用はありません」
サラは素気なく答える。
しかし、カリスは全く堪えない。それどころか、
「お前は相変わらず遠慮深いんだな。俺とお前の仲だ。気を使わなくていいんだぜ!」
などという始末である。
「どんな仲よ!どんな!」とサラは心の中で叫びながら頭の中のカリスをボッコボコにするが、表面上はなんとか冷静さを保つことに成功した。
「本当に何もありません」
カリスがちょっと寂しそうな顔をするが、その顔をリオに向けた時には不機嫌さを露わにしていた。
「おいっリオ!サラが困ってるのになんで助けねえんだ!」
「サラの方が強いから」
リオの答えにカリスは唖然として、すぐ豪快に笑い出す。
「そうだな!お前が助けに入っても返り討ち確定だしな!まったく情けねえ奴だぜ。なあ、サラ」
カリスが「俺は頼りになるだろう?」とでも言いたげな顔をするが、サラはそれに気づかない振りをする。
「今のリオはまだまだ経験が足りませんから」
「そうだなっ!経験が……経験……」
カリスはサラから出た経験という言葉で、イヤらしい想像が頭を過った。
「おいっリオ、お前、サラに変なことしてねえだろな!」
「ん?変なこと?」
リオが首を傾げる。
「カリス、あなたは何を言ってるのです?」
サラが呆れた顔でカリスを見る。
「え?あっ、いや、今もこいつと同じ部屋なんだろ?」
「ええ。ヴィヴィもです」
「そうか。だが、こいつも男だ!油断するなよ!」
「ご忠告ありがとうございます」
「そうだサラ。なんなら、俺の、いやっ俺らの家に来いよっ」
カリスが照れながらそう言った。
「いえ、結構です」
サラは即拒否した。
「そっちの方が危ないです」と心の中で付け加えて。
カリスはサラが拒否した理由を察した、と思った。
「そうか、ローズを気にしてんだな!大丈夫、俺が何とかしてやるぜ!」
カリスがキメ顔でそう言ったが、サラには通じない。
「いえ、私は大丈夫ですのでお構いなく」
しかし、カリスは未練がましい表情でなおも食い下がる。
「そうか?しかし、今日みたいに守ってやれないぞ?」
「大丈夫です」
「……ふう、まあいいか。俺が苦労すればいいだけだからな」
カリスが「やれやれ、仕方がない奴だな」とまるで自分の彼女の我儘にでも付き合っているかのような口振りで言った。
「……」
サラが怒りで顔を赤くし、肩を震わせているのを喜びの表現だと勘違いするカリス。
「でもよ、せめて宿屋を変えたらちゃんと連絡してくれよっ。それじゃないとすぐに助けに行けねえからよ」
「あなたに来て欲しくないから教えないんです!」と心の中で叫びながら口に出したのは別の言葉だ。
「ご迷惑と思いますのでお気遣いは無用です」
サラはキッパリ断る。
「いや、気にしなくていいって言ってるだろ」
カリスはサラの真意が読み取れず笑顔で言った。




