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599話 リオとリサヴィ派

 遅れてリオとヴィヴィ、更に安全確認のために護衛のヴェイグとイーダもやって来た。


「リオさんだ!」


 リオを見た事があるリサヴィ派の一人が叫んだ。


「え?どっちだ!?」


 リサヴィ派と言っても全員がリオ、リサヴィを見た事があるわけではない。

 見た事がある方が少数派だった。


「魔装士のヴィヴィと一緒に歩いてる方だ!」

「あの人が!?なんかイメージしてたのと違うな」

「確かに。もっと若いと思ってた」

「俺もだ」


 そのイメージはサラがショタコンだと噂されているからである。

 演劇“鉄拳制裁”でリオ(ショータ)を子供が演じていたことももちろん無関係ではない。

 サラが彼らをジロリ、と見ると一斉に顔を背けた。

 当のリオは彼らの視線を感じたが気にする素振りを全く見せずに辺りに転がっている元冒険者の盗賊達の死体を見て回っていた。



 サラがリオを憧れの表情で見つめているリサヴィ派の一人に話しかける。


「ところでさっきの言葉はどういう意味です?」

「はい?さっき?」


 声をかけられたリサヴィ派の者は意味がわからず首を傾げる。


「『俺がつけた怪我で死ぬな』みたいなことを言ったことです」

「!!」


 サラは最初に治療した者と同じように前後から攻撃を受けた怪我人が他にもいた事が気になっていた。

 不意打ちを食らった可能性もあるがそれにしては背中から刺された傷はどれも致命傷を避けているように見えたのだ。

 そしてその怪我人に付き添っていた彼の言葉である。

 

「あなたが彼を背中から刺したのですか?」

「そ、それは……」

「それは俺から説明させてください」


 そう言って前に出て来たのはここにいるリサヴィ派のリーダー、ラドウだった。

 ラドウはサラに今回行った特攻作戦について語り始めた。

 それはサラの推測通りだった。

 敵わない相手に死を覚悟してその懐に飛び込み動きを封じ、身動きが取れなくなった敵を他の者が味方ごと突き刺しダメージを与えるという常軌を逸したものであった。

 

「俺達はクズ冒険者達を駆逐し、冒険者ギルドを清浄化するために行動していますが、クズ達にも強い者はいます。敵わないからと言って逃げるわけにはいかないし、負けるなど論外です。犠牲を払ってでも敵を倒す、そのために俺が生み出した特攻技です。とはいえ、リオさんの戦いをヒントに生み出したんですけど」

「え?リオ、ですか?」

「ええ。サラ、あなたもその場にいたではないですか」

「その場……って、まさか……」

「はい、三本腕が占拠した村でリオさんがとったあの行動です」

「……」


 かつて、ある村を三本腕という盗賊団が占拠した際、リオは村人を盾にした盗賊を村人ごと剣で貫いたことがあった。


「その時はなんて無茶苦茶なことする奴だと思ったのですが、後でとても合理的だと気づきました」

「あれが合理的ですか?」


 サラが訝しむのも構わずラドウは続ける。

 

「はい。クズは自分の命を一番大事にします。そして人の命をなんとも思いませんが他人には大事にしろと強要します。おかしなものですよね。でも俺も以前は人質は無傷で助けなければならないと思っていました。そんな硬い考えをリオさんはぶっ壊してくれたのです」

「……」

「リオさんは人質を盾にされても気にしませんでした。とはいえ最小限の注意は払っていました。怪我をさせても致命傷にならないところを刺したのです」

「それでも褒められたものではありませんし、その前にリオの無謀な行動で村人が斬られて大怪我を負いました。手当が遅かったら死んでいました」

「それはそれで仕方ないでしょう」

「な……」

「あそこで三本腕を逃せばもっとその何倍もの被害者を出していたでしょう。あそこで三本腕は仕留めるべきだと考えたリオさんは正しかったのです。と言っても俺がその結論に至ったのはずっと後です。そう、あのマルコでのリオさんとクズ冒険者達の決闘を見て、リオさんに惹かれてその真意に気づいたのです!」


 サラは彼のリオへの狂信的な信頼に非常に危険なものを感じた。


(彼、いや、彼らはリオの事を勘違いしている。リオはそんな事を考えていないわ。結果とリオへの妄信からそのような都合のいいように結論を導いているだけよ)


 サラがその事をどう説明しようか迷っているうちにリオがやって来た。

 それに気づいたラドウはサラとの話を打ち切ってリオに顔を向ける。

 

「リオさん!俺達もリサヴィを見習ってクズ冒険者達を駆逐しています!」

「ギルドに任せてたら俺ら冒険者の信用は失墜する一方だからな!」


 ラドウに続きリサヴィ派が自慢げに語り、じっとリオを見つめる。

 

「ぐふ、リオ、何か言って欲しいようだぞ」

「そうなんだ」


 リオはリサヴィ派の熱い視線を受けて言った。

 

「失望した」


 リオの言葉に心に大ダメージを受けるリサヴィ派のメンバー。

 心酔するリオにダメ出しされた失望感は半端なかった。

 中でもここのリサヴィ派のリーダーであるラドウが一番ショックを受けたがそれでも何とか口を開く。

 

「な、何がいけなかったのですか?」


 リオは表情を変えずにラドウを見て言った。


「クズの傷を見て来たけどお前達弱すぎ」

「!!」

「こんな弱いクズに重傷を負ってるようじゃそのうち全滅するね」

「そ、それは……」


 ラドウの言い訳を遮ってリオは続ける。


「リサヴィ派を名乗るならさ、もっと強くなりなよ」

「!?」

「リオ!?あなた一体……」


 リオはもう興味はないとばかりにサラの抗議を聞き流して輸送隊へ向かって歩き出す。

 その後を追うリサヴィの面々。



 リオの後ろ姿をラドウは身を震わせながら見送る。

 そして、叫んだ。

 

「リオさんが俺達、リサヴィ派を認めてくれた!!」


 他のリサヴィ派は最初ラドウの言っている意味が理解できなかった。

 だが、リオの言葉を思い出して皆が身を震わす。

 リサヴィはリサヴィ派を認めていなかった。

 だが、先程のリオの言葉はリサヴィ派の否定ではなかった。


「そ、そうか!強くなればリサヴィ派を名乗ってもいいってことか!!」

「リオさん本人の公認を得られるってわけだ!!」



 サラは後方で「うおおおお!!」と絶叫するリサヴィ派が心配になった。

 

「リオ、あんな事言ってよかったのですか?あれではリサヴィ派を認めることになりますよ」

「それで?」

「それでって……」

「もう疲れたんだクズの相手するの。それを排除してくれるっていうんだからやらせればいいじゃないか」

「ぐふ、確かにな」

「ですねっ」

「……」


 サラはリオの心境の変化に戸惑っていた。

 マルコ所属になったりリサヴィ派を認めたりと急激に物事が進み始めた気がする。

 これがいい事なのか悪い事なのかまだ判断出来ずにいた。



 リサヴィ派によって盗賊団の死体や荷車は街道から撤去された。

 輸送隊はリサヴィ派に見送られながらその場を後にした。


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