598話 盗賊の華麗な?演技
輸送隊は前方で戦闘が行われているのに気づいて停止した。
どうやら盗賊が商隊を襲っているようであった。
ヴェイグ達護衛が馬車から降りて様子を見ていると戦闘を行なっている者の中に輸送隊に気づいた者がおり、走ってやって来るのが見えた。
その者は様子見をしているヴェイグ達に怒鳴って命令した。
「おいっ!何ぼけっと見てんだ!?俺らは盗賊に襲われてんだぞ!さっさと手を貸せ!急げよ!」
「「「……」」」
彼の陣営が敗色濃厚なのは見て明らかだった。
ヴェイグ達は救援を求めに来た者をじっと見つめるだけで行動を起こさない。
理由は彼の態度がデカくて気に食わないからだけではない。
「おいこら!聞こえねえのか!?」
彼がイラついた声で催促するとヴェイグが口を開いた。
「盗賊に襲われてる、だったか?」
「聞こえてんじゃねえか!さっさと俺らを助けろ!急げよ!!」
その者が切羽詰まっていることは誰の目にも明らかだがヴェイグは緊張感のカケラもなく尋ねる。
「俺らに“お前ら盗賊”を助けろと?」
「だ、誰が盗賊だ!?俺らが正義だ!!」
「……」
「安心しろ!俺らが正義だってことは俺が保証する!!」
そう言った彼はキメ顔をした、
ようだった。
ヴェイグがため息をついて言った。
「……顔を隠していかにも盗賊って格好してるお前が正義?」
「何言ってやが……!!」
そこで彼は気づいた。
自分が布で顔を半分隠した格好をしていることに。
実際、彼は盗賊団の一味であり通りかかった商隊を襲ったら実はリサヴィ派の仕掛けた罠で全滅に瀕していた。
そこへヴェイグ達が護衛する輸送隊がやって来るのに気づき被害者ぶって助けを求めヴェイグ達をリサヴィ派にぶつけようとしたのだった。
「へ、へへっ……。こ、これはよ……」
盗賊が言い訳を始めるのを無視してヴェイグが言った。
「向こうは決着がついたようだな」
「なっ!?」
彼が慌てて振り返るとヴェイグの言った通り顔を隠した盗賊達の中で立っている者は彼だけだった。
盗賊を倒した者達が輸送隊へやって来るのを見てその盗賊は慌てて顔の布を取るとヴェイグ達と並んで何事もないような顔をする。
やって来た者達がヴェイグ達に尋ねる。
「こっちに逃げて来た盗賊はどこにいる?」
「へ、へへっ、そいつなら……」
「こいつだ」
ヴェイグは護衛のフリした盗賊の言葉を遮って彼を指差す。
「ちょ、ちょ待てよ!!」
この盗賊はとても頭がおかしかった。
今までの行動でも十分理解出来ただろうが、この危機を逃れるために彼は更に信じられない行動に出た。
「こ、こいつだ!こいつこそその盗賊だ!俺ら護衛に紛れ込んだんだ!なっ!?」
盗賊はヴェイグを指差しながら他の護衛達に目をぱちぱちして話を合わせろと合図する。
どう考えても成功するとは思えない作戦を実行した後、追ってきた者達に信じろ!とでも言いたいのかキメ顔をした。
他の護衛達が呆れた顔をしながら「そいつだ」と盗賊を指差した。
「なっ!?て、てめらっ裏切ったな!!」
何が裏切りなのかよくわからないが盗賊はそう叫ぶと逃げ出した。
その背に矢が突き刺さる。
悲鳴を上げて倒れた盗賊は追って来た者に「冒険者の面汚しが!」との罵声を浴びて首を刎ねられた。
こうして元冒険者で構成された盗賊団は全滅したのだった。
リオ達リサヴィの出番はなかった。
いや、そもそも客として乗り込んでいるリサヴィの出番が来るほうがおかしいか。
盗賊を殲滅した者達はヴェイグ達護衛にリサヴィ派を名乗った。
ヴェイグ達は彼らから盗賊が元冒険者のクズであることを知った。
「ところで頼みがある。重傷者がいるんだ。とても街までは持ちそうにないんだ。お前達の中に強力な回復魔法を使える魔術士や神官はいないか?」
クズとはいえ、皆が威張るだけしか能がないわけではない。
ベルダでクズ集団プライドを結成したクズパーティやリオを暗殺しようとしたクズパーティのように実力のあるクズもいるのだ。
今回、盗賊団を指揮した元Bランクのクズパーティは実力者揃いで重傷を負わされた者達が何人もいた。
別の理由で重傷を負った者もいたが。
尋ねられたイーダが言った。
「客の中に神官が二人いるから聞いてみるわ」
「何!?神官が、それも二人も乗っているのか!?」
「ええ。ちょっと待ってね。サラ!アリス!ちょっと来てくれない!?重傷者がいるらしいの!!」
イーダが客車に大声で呼びかける。
イーダの言葉に彼らは表情を変える。
「おい、サラとアリスってもしかして……」
サラとアリスが馬車から降りて来た。
そしてその後にリオ、そしてヴィヴィと続く。
彼らがサラ達の姿を見て固まっているのを見たイーダは彼らがリサヴィ派と名乗ったのを思い出した。
サラ達がリサヴィ派と盗賊団との戦いが行われた場所へ向かうと多くの負傷者がいた。
リサヴィ派には魔術士と神官もいたが彼らの魔力は尽きて治療ができない状態であった。
そうでなくても彼らの力ではどうしようもないほどの重傷者も複数いた。
「アリスはそちらからお願いします!」
「はいっ!」
サラが向かった先の重傷者は前後から刺されたようだった。
「頑張れ!俺がつけた怪我で死ぬなんてことはなしにしてくれよ!!」
サラは重傷者に必死に声をかける者の言葉に違和感を覚えながらも治癒魔法を発動する。
致命傷と思われた怪我が嘘のように綺麗に消えた。
その様子を見ていた者達は仲間が助かって安堵するとともにサラの力が噂通りであることを知り尊敬の眼差しを向ける。
それはアリスも同様であった。
彼女もまた他の重傷者をあっさりと治療し、サラに劣らぬ力を見せつけたのだった。
「しばらくは安静にしてください」
「ですねっ」
「あ、ああ。ありがとう!」
サラとアリスの魔法によりリサヴィ派は一人の死者も出さずに済んだ。




