596話 ディフェンスゲーム
次の日の朝、リオ達が駅に向かうとギルド警備員の姿があった。
昨日のことでギルドに苦情が来たのだろう、駅への不用な冒険者(“元”を問わず)の立ち入りを厳しくチェックしていた。
駅の辺りには(無理矢理)護衛依頼を受けるためにクズ臭をぷんぷんさせたパーティが何組もおり、隙を見ては駅内への侵入を試みていたが尽く阻止されていた。
本人達は至って真剣なのだが見ている者達にはディフェンスゲームをしているようだった。
「ぐふ、まるでギャグだな」
ヴィヴィの呟きにサラ達が頷く。
リサヴィが近づくとギルド警備員は一瞬警戒する素振りを見せたがすぐにリサヴィと気づいたようでチケットを見せるまでもなくすんなり通りしてくれた。
一緒に行動していた自称劇作家の双璧の男はチケットを見せるとすんなり駅に入ることが出来た。
その様子を見ていたあるクズパーティが行動を起こす。
「よう!リサヴィ!待たせたな!」
そのクズパーティはリサヴィの知り合いを装って駅への侵入を図ろうとする。
そのままリサヴィのいる輸送隊の護衛になし崩しになるつもりであった。
念の為に言っておくと彼らは自分達をクズだと思っていないし、宿屋の支払いをきちんとしていたのでクズだと“勘違いされない”と思っていた。
だからリサヴィに消されるなどこれっぽっちも考えていなかった。
彼らに呼ばれたリサヴィだがもちろん無視。
誰も返事どころか振り返りもしなかった。
そのクズパーティはギルド警備員に当然止められる。
リオ達の背後から彼らがリサヴィの名を呼ぶ声が何度もしたがやっぱり誰も振り返らなかった。
クズ侵入作戦失敗であった。
自称劇作家の双璧の男はその様子を必死にメモしていた。
リサヴィが馬車に乗ろうとしたところで一人の冒険者が近づいて来た。
「よおリオ。昨日はなんか面白いイベントがあったそうじゃないか」
それはヴェイグだった。
彼の言う面白いイベントとはクズとの決闘のことだ。
リオは表情を変えずヴェイグを見ると言った。
「じゃあ、今度はヴェイグに押し付けるよ」
「ざけんな!」
「ヴェイグ!クズ判定!」
「……」
リオが首を傾げてヴェイグの後からやって来たイーダに顔を向ける。
「クズ判定?」
「あ、ああ、それはね」
イーダは自分が発見したクズの判定方法をリオに説明した。
それを聞いていたのはリオだけではなくそばにいたサラ達もだ。
一番熱心に聞いていたのは自称劇作家の双璧の男である。
話を聞いてアリスが感心する。
「確かにっ今まで出会ったクズはみんなそんな感じでしたねっ」
「でしょ?」
そう言ったイーダはなんか自慢げだった。
サラは複雑な表情でイーダに尋ねる。
「あなた、そんなにクズに出会っているのですか?」
サラの言葉でイーダの自慢げな顔が焦りに変わる。
「ち、違うわよ!た、隊長さんよ!この輸送隊の隊長さんがクズを引きつけるのよ!」
そんなイーダの言葉が隊長の耳にも届きショックを受けていた。
それはともかく、
「ぐふ、サラ達以外にもクズコレクター能力者がいたか」
イーダはヴィヴィの視線を受けて必死に否定する。
「だからあたいは違うって!サラとは違うから!」
「おいこら!」
その後、ギルド警備員のクズ包囲網を突破してリオ達のいる輸送隊へ一組のクズパーティがやって来た。
隊長に意味不明なことを口走りながら強引に乗合馬車に乗り込もうとしたがヴェイグによって阻止され、追いかけて来たギルド警備員が彼らを捕える。
「お前ら迷惑をかけるのもいい加減にしろ!」
しかし、クズは反省などしない。
逆に文句を言ってきた。
「ざけんな!俺らが何したってんだ!?あん!?」
「隊長さんへの脅迫と無賃乗車しようとしたな」
すかさずヴェイグが彼らの罪状を述べる。
「ざけんな!俺らは許可もらってんだ!なっ!」
そう言ってクズリーダーが隊長に向かって話を合わせろと目をぱちぱちさせる。
隊長は意図を理解した。
だからと言って彼らの言うことを聞く気は当然ない。
「ヴェイグさんの言う通りです。本当に迷惑でした」
「なっ?……って、ざけんな!」
何故か隊長が話を合わせると本気で思っていたクズ達は思い通りにならず怒り出す。
ギルド警備員が面倒くさそうな顔をしながら言った。
「うるさい。もう行くぞ」
「ざけんな!俺らはC!ラーーーンク!冒険者だぞ!!」
その叫びにギルド職員が怒鳴り返す。
「ふざけてるのはお前達だ!お前達はCランクどころかもう冒険者でもないだろうが!ったく!クズは鳥頭ばっかりだな!」
「「「ざけんな!」」」
クズ達がクズロジックで反論する。
「お前らが俺らの退会処分を取り消せばいいだけだろうが!」
「「だな!!」」
「できるか!!お前らのようなクズを冒険者にしておけるわけないだろうが!もう二度と冒険者を名乗るな!」
「だが、断る!!」
「なんだと!?」
「俺らはな!お前らがなんと言おうと冒険者だ!」
「冒険者の誇りを捨てねえ!だから俺らはこれからもずっと冒険者だ!」
「「だな!!」」
クズ達は自分達の言葉に感動し涙すら浮かべていたがギルド職員達は呆れて言葉を失い、しばし沈黙した。
ギルド職員達は彼らとの会話を諦め、ギャーギャー騒ぐ彼らを強引に連れていく。
危機感を覚えたクズ達はあっさりと冒険者の誇りとやらを捨てた。
「大体なんでお前らギルドが出てくんだ!俺らは冒険者じゃないんだぞ!」
「お前らに俺らを裁く権利はない!」
「「だな!!」」
しかし、ギルド警備員達は彼らを解放することなく行き先を告げた。
「安心しろ。行き先はギルドじゃない。衛兵のところだ」
「「「ざ、ざけんな!!」」」
クズ達は必死に抵抗するものの、駅の前には既に連絡を受けていたらしい衛兵達が待機していた。
クズ達が衛兵に連行されて行く様子を見ていた残りのクズ達がぱっと逃げ出し、駅に平穏が戻った。
今のやり取りを見ていたヴェイグが呟いた。
「……ありゃダメだな。バカだけじゃく、クズも死ななきゃ治らないってか」
「そうね」
「ですね」
ヴェイグが会話に参加してきた自称劇作家の双璧の男を見て言った。
「お前、取材だっだか。怪我しても知らんぞ」
「お構いなく。怪我しましたらサラさんかアリスさんに治してもらいますので」
「……いい神経してるな」
「それほどでも」
「いや、褒めてないから」




