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593話 愚策を力でねじ伏せる

 クズリーダーが通りの真ん中に立つと大声を上げた。


「よく聞け!今から俺らはこの男娼野郎と三対一で正々堂々決闘を行う!」


 その声を聞き、通りを歩いていた者達や隣接する宿屋や店にいた者達が集まってくる。

「三対一で正々堂々ってなんだ?」と首を傾げる者もいた。



「ぐふ、では立会人は……」

「開始だ!」


 クズリーダーが勝手に決闘開始の合図をし、間をおかずにクズ盗賊がリオを背後から襲いかかった。

 彼はスキルインシャドウを使い完全に気配を消していた、

 つもりだった。

 クズ盗賊の会心の一撃はリオにあっさりかわされた。

 リオはクズ盗賊の短剣を持った手に反撃の蹴りを放つ。

 ぐしゃり。

 クズ盗賊が悲鳴と共に短剣を落とした。

 蹴られた手はぐしゃぐしゃでもはや使い物にはならない。

 クズ達は呆気にとられた。

 この卑劣な作戦で何度も決闘に勝ったことがある。

 例え今の攻撃で致命傷を負わせられなくてもクズリーダーとクズ戦士が連続攻撃を仕掛けてリオの止めを刺すはずだった。

 しかし、リオはクズ盗賊の攻撃をあっさりかわしただけでなく反撃し、更なる攻撃に備えていたため、クズリーダーとクズ戦士は攻撃を仕掛ける隙がなかった。

 クズリーダーが素早くク頭脳を働かせる。


「て、てめえ!まだ開始前なのに卑怯だぞ!」


 クズリーダーの抗議の叫びに今の行動を見ていた者達がぽかん、と口を開ける。


「ぐふ、何が開始前だクズ。お前が『開始』と言っただろう」

「言ってねえ!俺は言ってねえ!」

「おう!リーダーは言ってねえぞ!」


 クズリーダーとクズ戦士は皆がその現場を見ていたというのに堂々と嘘を言い放った。


「ぐふ、よくもまあ……」

「ヴィヴィ、もういいよ。さっさと終わらせよう」

「ぐふ。立会人は私がなろう。では改めて決闘を行うので位置につけ」


 リオは道の真ん中に立った。

 だが、クズ達はなかなか位置につこうとしない。

 リオの強さが予想を遥かに超えており、このまま決闘をしたら死ぬのは自分達だとやっと気づいたのだ。


「ちょ待てよ!こっちはてめえの不意打ちで一人まともに戦えねえんだぞ!」

「こりゃお前の反則負けだな!」

「だな!ほんと痛えぜ!卑怯者野郎!」


 そう言ったクズ達の顔はなんか偉そうだった。

 手を砕かれたクズ盗賊も苦痛に歪ませながらも必死に偉そうな顔をする。

 しかし、彼らの意見に賛同する声はどこからも聞こえてこなかった。

 ヴィヴィはクズ達が喚くのに構わず言った。


「ぐふ、位置につけクズども」

「ざけんな!俺らの勝ちだって言ってんだろうが!」


 リオが無表情のままで言った。

 

「もうこのまま始めよう。時間が勿体無い」

「ぐふ、わかった」

「「「な……」」」


 クズ達は自分達の意見が通らず焦るが、まだ威張る余裕はあるようだった。

 

「ちょ、ちょ待てよ!この決闘はな!俺らの反則勝ちで勝負はついたって言ってんだろが!!」

「「だな!!」」

「ぐふ、寝言は寝て言え」

「「「ざけん……」」」


 クズ達の叫びは見物人達の中からの「寝言は寝て言え!」の叫び声でかき消された。

 それをきっかけに至る所から「寝言は寝て言え!」の叫び声がクズ達に向けられる。

 それは今までのクズ達のクズ行為に対する鬱憤を晴らすかのようであった。

 クズ達は焦って味方はいないかと見物人達の顔を見渡す。

 その中にクズ仲間を見つけ、満面の笑みを向けて助けを求めようとするとそのクズ仲間達は一斉に目を背けた。


「「「なっ!?」」」


 クズ達の仲間意識は低い。

 朝は親友だと言って肩を組んでいても夕方には敵となって襲いかかってくることも珍しくない。

 リオの強さを目の当たりにしたクズ仲間達は関わると自分達の身も危険だと察してあっさり彼らを見捨てたのである。

 ヴィヴィが手を挙げると「寝言は寝て言え」コールが収まった。

 そこで決闘のルールを見物人に説明すると同時に注意喚起する。


「ぐふ、ルールはクズ達の希望によりデッドオアアライブだ。試合後には三匹の死体が出来るだろう。子供には刺激が強過ぎるから見せるな。気の弱い者も去れ」


 ヴィヴィの言葉を聞き、母親が慌てて子供連れて離れていく。


「ちょ、ちょ待てよ!俺らは一人その男娼野郎の不意打ちで……」

「ぐふ、先に不意打ちを仕掛けたのはそのクズだ」

「ざ、ざけんな!」

「ぐふ、そもそも三対一の変則的な決闘を認めてやっているのだぞ。まだ数的優位があるだろう」

「ちょ、ちょ待てよ!せめて治療してくれよ!おい、そこの頭の弱い女神官!俺の手を治せ!急げよ!」


 呼ばれた頭の弱いらしい女神官はそっぽを向いた。

 

「て、てめえ!」

「ぐふ、始め」


 クズ盗賊がまだ何か言おうとしていたがヴィヴィは構わず決闘開始の合図をする。

 リオは頭の弱そうな女神官、アリスに近づいていたクズ盗賊に向かって歩いていく。


 最初の標的にされたクズ盗賊は後退しながらも砕けた手をリオに見せ悲壮感を漂わせながら同情を誘うおうとする。

 その一方で背後に回したもう片方の手にはしっかりと短剣が握られており、不意をつく気満々であった。


「な、なあ、俺はこの通りもう戦えねえ。お前の不意打ちでやられてな!」


 クズ盗賊はあくまでも自分が被害者だと言い張り同情を誘おうとしているようだが、不意打ちした相手に通じるわけがない。

 頭がおかしいので相手の神経を逆撫でするだけだということに全く気づかないのだ。


「……」

「なあ、わかんだろ?」

「さっぱりだ」

「ざけん……な……?」


 クズ盗賊は短剣でリオを攻撃したはずだったが、体に命令したはずだったが手が思うように動かなかった。

 それでだけでなく、視界が回転した。

 クズ盗賊は疑問に思いながら死んだ。

 ころん、とクズ盗賊の首が地面に落ちて転がる。

 そしてゆっくりと首を失った胴体が倒れた。

 リオはクズ盗賊が短剣で攻撃する前に首を斬り落としていたのだ。

 あっさりと仲間のクズ盗賊が死んだことにクズリーダーとクズ戦士の表情に恐怖が広がる。

 彼らはリオがいつ剣を抜いたのかさえ全くわからなかったのだ。

 またも連携攻撃する暇はなかった。


「なっ!?」

「こ、殺しやがったな!?」

「デッドオアアライブだからね」


 クズ達の非難の声を受けてリオは何事もないように言った。

 リオがクズ戦士に目を向ける。

 クズ戦士はリオに剣を向けながらクズ盗賊と同じく同情作戦に出る。


「ちょ、ちょ待てよ!俺には……そう!俺にはガキがいんだ!俺の帰りを待ってんだ!なあ、わかんだろ!?」

「さっぱりだ」


 リオが再び剣を一閃。

 ころん、とクズ戦士の首が落ち、体がパタンと倒れる。

 先程と全く同じだった。

 残るはクズリーダーのみ。

 クズリーダーは今度もリオの動きが見えなかった。

 なんとか生き延びる手はないかと必死にク頭脳を働かせながらその場に土下座する。


「す、すまねえ!俺の負けだ!だから許してやってくれ!」


 クズリーダーは自分の事なのに誰かを庇うかのように言った。


「な?いいだろ?俺一人くらい。もう十分だろ?」

「そんなことより向かって来なよ」

「な……」

「決闘のはずなのに何故誰も戦おうとしないんだ?」


 リオはそこで思い出したかのように「ああ」と呟く。


「そう言えばクズの言葉は精神攻撃だ、という話があったね。僕が気づいていないだけで攻撃してたのか。でもどうやら僕には効かないみたいだよ」

「ざ、ざけんな!」

「ほら、もう精神攻撃は諦めて普通に攻撃して来なよ。それとも僕が嘘をついていると思ってるのかな。それなら無理に止めないけどね」

「ちょ、ちょ待てよ!」


 クズリーダーのク頭脳が生存する可能性を捻り出した。

 クズリーダーが剣を手放し、更に腰の短剣を鞘ごと放り捨ててもう戦う意思がないことを示す。

 流石に無防備の者を殺そうとはしないだろうと考えたのだ。

 更にダメ押しとばかりに同情作戦も追加する。


「俺にはガキ……いや、病気の親がいんだ!そう親がよ!俺の帰りを今か今かと待ってんだ!そんな俺がこんなところで死んだら可哀想だろ!そう思うだろ!?な、わかんだろ!?」

「さっぱりだ」


 リオが剣を一閃し、ころん、と最後のクズの首が地面に落ちた。

 そして、その体がパタンと倒れた。


「だから僕には精神攻撃は効かないと言ったのに」


 リオは最後までクズ達は精神攻撃をしかけていると思い込んでいた。



 見学者の中にはリオのことを最初から知っていた者もいたが、途中で気づいた者もいた。


「死神パーティの冷笑する狂気……」


 誰かがそう口にしたのを耳にしてハッとした者達が勝者であるリオの側に集まってくる冒険者達を見た。

 そして皆が確信した。

 クズ達は相手がクズ狩りをしていると噂される死神パーティの二つ名をもつリサヴィのリオだと知らずに決闘したのだと。

 もし知っていれば男娼とバカにしたりそもそも決闘するはずがなかったと。



 皆がリオの正体に気づいたのを見計らったかのように叫び声が聞こえた。


「ぐふ!聞けクズ共!」

「ぐふ?」


 ヴィヴィは自分の声を真似た者が見物人の中にいるのを知り首を傾げるものの探そうとはせず様子を見守る。

 ヴィヴィの声を真似た誰かが続ける。


「ぐふ!素直に金を払って宿屋に泊まるか、出来ないなら街から出て行け!それでも居座るなら命の保証はないぞクズ共!」


 その声の主はヴィヴィになりきってなんか楽しそうだった。

 偽ヴィヴィの言葉を聞いたクズ達は自身のことをクズだとは思っていないが金を払わずに宿屋に泊まろうとしていたのでクズと間違われては敵わないと(間違っていないが)逃げ出した。

 クズ達が逃げ出す様子を見て見物人から歓声が上がった。

 主に宿屋の関係者からだった。



 決闘に敗れて死んだクズ達は街の外の無名墓地に埋葬された。

 その費用は彼らの所持金を使った。

 金になりそうな装備は売り払い、余った金と合わせて彼らが今まで踏み倒した飲み代や宿代に充てられたが全額返済まではいかなかった。

 ちなみにヴェイグがクズと決闘した時は決闘相手の大親友が大量発生して金や装備を漁っていったが今回はそのようなことは起きなかった。

 そこまでするようなクズがいなかった、

 というわけではなく、リサヴィにクズと勘違いされるのを(勘違いではないが)恐れたのだ。

 


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