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591話 クズループ

 今日泊まる宿だが、リサヴィは輸送隊に紹介してもらわず自分達で宿を探すつもりであった。

 あまり貸し借りのようなものを作りたくなかったのだ。

 リオ達が駅を出ようとすると声をかけてくる者がいた。


「あのっ、もう宿はお決まりでしょうか?」


 その者は歳の頃は十二、三歳と言ったところの少年だった。

 その手には宿屋の名が書かれた看板を持っていたが、彼用に作られた物ではないらしく少し重そうだった。

 その少年が話を続ける。


「うちの宿は駅からちょっと離れていますけどとってもいい宿なんです!ご飯も美味しいですよっ!」


 サラがリオに尋ねる。


「どうします?」

「いいんじゃない」


 リオはどうでもいいように答えた。



 少年の後に続き、しばらく進むと宿屋がいくつも現れた。

 どこも呼び込みをしていたが誰にでも声をかけているわけではなかった。

 どうやら冒険者を避けているようであった。


「ぐふ、冒険者は嫌われているようだな」


 ヴィヴィの呟きが聞こえたらしく、少年がオドオドしながら答えた。


「じ、実は最近、ガラの悪い冒険者が多くてですね、代金を払わないこともあって」

「私達も冒険者ですけど」


 サラの言葉に少年は慌てて補足する。


「いえっ。皆さんは商隊に絡んでいたク……冒険者達を追い払いましたので彼らとは違いますっ」


 どうやら少年はクズ冒険者達(正確にはもう冒険者ではなかったのでただのクズだが)をサラ達がぶっ飛ばすのを見て信用したようだ。


「そうですか」

「はい。あっ、見えて来ましたっ。あそこ……」


 少年が指差したまま固まった。

 少年が指差した宿屋の前で宿屋の女主人と冒険者おそらくクズが揉めていた。


「母さん……」


 その少年の呟きから彼がその宿屋の息子だとわかった。



 女主人はこめかみをぴくぴくさせながら冒険者達おそらくクズに言った。


「何度も言いますがうちの宿は前払いです。それが嫌でしたら他を当たって下さい」

「ざけんな!」

「俺らはなあ、数ある宿屋の中からお前んところを選んでやったんだぞ!」

「客である俺らにそんな態度をとっていいと思ってんのか!?あん!?」

「まだ客ではありません」

「安心しろって。俺らはCラーンク冒険者だ!」

「おう!金ならちゃんと宿を出るときに払ってやるぜ」


 何故かそこで「ガハハ!」と笑いだす。

 女主人は頭を抱えた。

 実はこのやり取りを何度も繰り返していたのだ。

 これは納得する答えを貰うまで同じ会話を繰り返すというクズ達の新クズスキル?クズループである!

 今更言うまでもないと思うか彼らはクズスキル?を自由自在に操るクズ冒険者達であった。

 頭のおかしいクズ達との会話で脳が疲労し頭が働かなくなってクズの意見を飲んでしまうという恐ろしい精神攻撃であった。

 女主人はクズループに必死に抵抗するが、その表情は疲労困憊で限界が近いように見えた。

 それでも必死に心を奮い立たせてクズスキル?に抵抗する。


「今払って頂ければ済むことです」

「確かにな」

「だが、それじゃ俺らの信用がないみたいじゃねえか。それが気に食わねえ!」

「「だな!!」」

「安心しろ!俺らはCラーンク!冒険者だ!」

「俺らは信頼できるって俺らが保証する!!」


 そう言ったクズ冒険者達の顔はなんか偉そうだった。



 宿屋の女主人は「ですからうちの宿は前払いです」と言ってもまた会話がループするだけで無駄だとわかっている。

 このままでは埒が明かないとみて正直に言うことにした。


「では正直に言いましょう」

「おうっ言ってみろ」


 クズパーティのクズリーダーが偉そうに続きを促す。

 宿屋の女主人は一度深呼吸をしてから言った。


「最近、特に冒険者の方が『後で払う』と言っておいて宿を出る時になると難癖つけて宿代を払わないんです」


 宿屋の女主人がそう言うとクズ冒険者達は驚くべきことを口にした。


「なら安心しろ!俺らは元冒険者だ。もう冒険者じゃねえ!」

「「だな!」」


 そう言ったクズ冒険者、いや、もうただのクズでいいだろう、クズ達の顔は誇らしげだった。

 その言葉を聞いて宿屋の女主人は、


「なら安心ですね!」


 なんて思うわけはなく、その言葉を聞いてぽかん、としていたが、我に返ると厳しい表情をして言った。


「……つまり、あなた達は先程から自分達は冒険者だと言っていましたが嘘だったと言うわけですね」


 女主人の言葉にクズ達が激怒する。


「口の利き方には気をつけろ!」

「Cランク冒険者だったのは嘘じゃねえぞ!」

「元だろうが冒険者には違いねえ!」

「「だな!」」


 都合のいい時だけ冒険者だというクズ達であった。



 女主人が一般人には到底理解不能のクズロジックによる精神攻撃でダウン寸前のところへリオ達がやって来た。

 女主人は息子が客を連れて帰ってきたことで一瞬だけ笑顔になるが、すぐにその者達も冒険者だとわかり渋い顔をする。

 少年は母の態度に気づき慌てて誤解を解く。


「母さん!この人達は大丈夫だよ!この人達は駅でね、ク……迷惑な冒険者を追っ払ったんだ」

「そうなのかい」


 宿屋の女主人がサラ達に頭を下げる。


「失礼な態度を見せてしまい申し訳ありません」

「いえ、気にしないでください。大体の事情はわかっています」


 そこへクズ達が会話に割り込んできた。

 リサヴィに馴れ馴れしく話しかけてくる。


「おうっ、お前ら丁度いいところに来たな」

「はい?」

「こいつよ、俺らのこと全然信用しねえんだ。悪いけどよ、お前らから言ってやってくれよ。俺らは信用できるいい奴だってよ」


 ヴィヴィが首を傾げる。


「ぐふ?お前達とは初対面のはずだが」

「そんな小せいこと気にすんな」

「そん代わりお前らのことは俺らが保証してやっからよ」

「な?」


 宿屋の女主人が聞いている前で堂々と言い放つクズ。

 その神経の図太さは尊敬に値する、かもしれない。

 ちなみに互いに相手を保証するこの行為において両方がクズの場合はクズスキル?クズループ二式と呼ぶ。

 自分達を自分達で保証しても誰も信じてくれないので(当たり前だ)生まれたスキルである。

 効果はほとんどない。

 引っかかるのはお人よしくらいである。


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