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590話 外れクズを引く隊長

 本日、宿泊する街に到着した。

 目的地がこの街ではない乗客は各自で宿を探すことになる。

 探すのが面倒な者達は輸送隊の隊長にお勧めの宿屋を紹介してもらう事も出来る。

 紹介する宿屋と輸送隊が所属する商会は提携しており、その宿屋に泊まると宿代が少し安くなり出発前に呼びに来るサービスがつく。


 

 リオ達が馬車を下りて周囲を見渡すと宿屋の看板を掲げたその宿屋のスタッフらしき者達がいた。

 更に冒険者らしき者達の姿もあった。

 その冒険者らしき者達の一組が輸送隊の隊長の側にやってきた。


「おい、お前はこの輸送隊の隊長か?」


 態度の大きい彼らに隊長は内心むっとしながらも営業スマイルを崩さず答えた。


「そうですが、それがなにか?」

「知ってるか?この先でな、盗賊団が現れたらしい。それも相当強いらしいぞ」

「そうですか。それはご丁寧にありがとうございます」


 隊長は礼を言うとその場を離れようとするが彼らが回り込んで通せんぼする。 


「まだ何か?」

「何かじゃねえ。これからが本番だろうがよ」

「はい?」

「今のままじゃ盗賊団に襲われたらひとたまりもねえぞ」

「「「だな!」」」

「はあ」

「それでだな、幸運にもここにスッゲー腕の立つ冒険者達がいっぞ!」

「安心しろ。俺らは皆Cラーーーーンク冒険者だ!!」


 そう言うと彼らは腕を組んで仁王立ちし、キメ顔をした。

 彼らの顔は皆、自信に溢れていた。

 隊長は営業スマイルを崩さず言った。


「ご心配ありがとうございます。しかし、私共の隊には専属の護衛がついていますので」


 隊長の声に合わせて専属護衛達が隊長を庇うように立つ。

 しかし、彼らは諦めなかった。


「それじゃ数が足んねえって言ってんだ」

「いえ、ご心配なく」

「不安だから言ってやってんじゃねえか」

「俺らの腕は確かだぜ!俺らが保証する!」

「そうですか。でも大丈夫です」


 隊長が何度も不要だと言っても彼らは引き下がらない。


「おいおい、人の忠告は素直に受けておくもんだぜ」

「「「だな!!」」」

「本当に大丈夫ですから。必要ならギルドに依頼しますのでそのときお願いします」

「そんなことしなくてもここにスッゲー腕の立つ冒険者がいるって言ってんだろうが。お前そんな頭で大丈夫か?」

「「「だな!」」」


 本気で心配そうな顔で見られ、隊長の営業スマイルにピキッとヒビが生えた。


「あなた達にだけは言われたくありません!」と心の中で叫ぶ。


 隊長は深呼吸し、心を落ち着けてから言った。


「私の護衛は優秀ですからご心配なく」


 先にキレたのは護衛を押し売りする冒険者達であった。

 

「「「「ざけんな!!」」」」


 

 隊長は現実問題を口にしてどうにか諦めさせようとする。


「そもそも馬車にあなた方を乗せる余裕はありません。あなた方は走ってついて来るつもりですか」

「馬鹿野郎!そんなわけねえだろうが!」

「客車も使えばなんとかなるだろうが!」

「無理なら客を下せばいい!」

「「「だな!」」」


 彼ら、いや、もうクズ冒険者でいいだろう、クズ冒険者の自分勝手な言い分に隊長達が呆れているとそのそばをリオ達が通りかかった。

 何故かその最後尾にはあの自称劇作家の双璧の男がついて来ていた。



 隊長の目が一瞬リオ達に向けられたのにクズ冒険者の一人が気づいた。

 彼はニヤリと笑うとリオ達の前に回り込んで前を塞ぐ。

 それに残りの者達も続いた。

 リオは足を止めると無表情のまま言った。


「邪魔」

「お前がな」

「ん?」


 クズ冒険者の意味がわからずリオが首を傾げる。

 サラが言った。


「どう見てもあなたの方が邪魔です。さっさと退いてください」


 クズ冒険者はサラの言葉をスルーして威張った顔で問いかける。


「お前らは冒険者のようだが客か?」

「それがなにか?」

「ならお前らはここで下りろ。安心しろ、ここから先は俺らが乗ってやる」


 その言葉を聞き、ヴィヴィが驚いた顔をして(と言っても顔は仮面で見えないが)言った。


「ぐふ、これはまたすごいのが来たな」

「ですねっ」


 ヴィヴィとアリスの言葉は彼らの耳には届かなかったようだ。

 クズフィルターでカットされたのかもしれない。

 クズ冒険者がアリスに一度視線を向けてからサラに戻して言った。


「だが安心しろ。お前とその神官は乗せてやる」

「俺らの上にな」

「しっかり腰振れよ!」


 卑猥な言葉を吐き「がはは」と彼らだけで盛り上がる。


「よしっ決まったな!」


 ヴィヴィが呆れた顔をしながら(と言っても仮面で顔は見えないが)言った。


「ぐふ、いくら茶番劇を披露しても金は払わんぞ」

「なんだとてめえ!?」

「さっさと退きなさい」

「「「「ざけんな!」」」」


 そこへ新たな冒険者が加わる。


「おい、クズ。ちょっと冒険者カード見せてみろ」


 その冒険者、ヴェイグの言葉にクズ冒険者達がキレる。


「誰がクズだ誰が!?」

「お前らだお前ら」

「「「「ざけんな!!」」」」


 クズ冒険者達が剣を抜いた。

 危険と感じた専属護衛達の指示で隊長がクズ達との距離をとる。

 ヴェイグは剣を向けられても平然とした顔で再び言った。


「早くカードを見せろよ。……本当に冒険者なら持ってんだろ?」


 ヴェイグの言葉にクズ冒険者達は目に見えて動揺する。


「やっぱりか。お前ら“元”冒険者だな」

「「「「ざけんな!!」」」」


 そう怒鳴りつけるものの、誰も冒険者カードを出そうとしない。


「ほれ、ギルドを追放されたクズ。さっさとどっか行けクズ」

「クズはてめえだ!!」


 クズ冒険者、いや、もう冒険者でもないのでクズでいいだろう、クズの一人がヴェイグに斬りかかる。

 が、


「ぐへっ!?」


 ヴェイグはクズのへなちょこ斬りをあっさりかわすとカウンター気味にその腹に膝蹴り放つ。

 悲鳴をあげて転がるクズ。


「てめ……がっ!?」

「な……ちょぱっ!?」

「まへっ!?」


 リオ、サラ、ヴィヴィが残りをKOし、自称劇作家の双璧の男が必死にペンを走らせメモをとる。



 その後、騒ぎを聞きつけてやって来た兵士達がクズ達を引き摺って行った。

 その騒ぎで他の商隊に護衛の交渉(と本人達は思っているが相手から見ると嫌がらせ)をしていた者達が逃げて行った。



 ヴェイグが隊長にニヤリと笑って言った。


「隊長さんはハズレクズ引くの上手いな」


 隊長が悲しそうな顔をした。

 すぐにイーダが突っ込む。


「ヴェイグ、クズに当たり外れないから。クズはクズだから」


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