582話 絡みクズ、最後の抵抗 その1
イーダは駅にやって来た冒険者達の姿を見て思わず「げっ」と呟いた。
その冒険者達は駅をキョロキョロ見回し、イーダの姿を見つけるとなんか偉そうに手を上げて近づいてきた。
初対面のヴェイグは彼らが何者か一目でわかった。
「あのクズ達は知り合いか?」
「昨日からあたいに付き纏ってるストーカークズよ」
イーダはヴェイグの問いにため息をついて答えた。
ストーカークズ達、いや、絡みクズ達はギルドで警告を受けたことなど一晩寝て綺麗さっぱり忘れ、性懲りも無くイーダにつきまとってきたのだ。
クズリーダーとクズ盗賊は昨日と少し姿が異なっていた。
後頭部がはげていた。
クズ戦士が引き摺った影響だろう。
怪我がないところみると治療はしたが髪の毛は再生しなかったようだ。
もしかしたら毛根が死滅したのかもしれない。
それはともかく、絡みクズ達はイーダの前に来ると馴れ馴れしく話しかけてきた。
「おうっ、お待たせたな!」
「待ってないわよ」
絡みクズ達にイーダの言葉は届かなかったようで一方的に話を続ける。
「ったく。どの輸送隊かちゃんと教えておけよ。俺がいなかったらどうなってたと思うんだ」
クズ盗賊が自分の情報収集能力を自慢するが、イーダにはストーカー自慢にしか聞こえなかった。
彼らの話しようから彼らの頭の中では既にイーダはパーティメンバーになっていることがわかる。
当然、一緒に護衛の依頼を受けたことになっており自分達も乗ることになる護衛用の馬車を眺めながら言った。
「ちょっとボロくないか」
「護衛を舐めすぎだろ」
「おい、護衛料のほうはしっかりとってんだろうな?後でしっかり聞かせろよ」
「……」
イーダが絡みクズ達を無視していると彼らは次の行動に移った。
護衛用の馬車に乗ろうとしたのだ。
「勝手に乗るんじゃねえ」
ヴェイグが馬車のステップに足を乗せようとしたクズリーダーを蹴り飛ばすとクズリーダーは「ぐへっ」と悲鳴をあげて転がった。
「て、てめえ!いきなり何しやがんだ!?」
「それはこっちのセリフだ。何勝手に乗ろうとしてんだ」
「ざけんな!俺らは護衛だぞ!こんなことしてただで済むと思ってんのか!?あん!?」
「はあ?護衛だと?」
騒ぎを聞きつけて輸送隊の隊長が駆けつけてきた。
「ヴェイグさん、どうしました!?」
隊長の質問に答えたのはヴェイグではなかった。
「おう、お前が隊長か。いいとこに来たな!この野郎が護衛である俺を蹴り飛ばしやがったんだ!!」
見知らぬ冒険者の言葉に隊長は一瞬、ぽかんとした顔をした。
「は?」
遅れてそう呟くと「この人、何を言ってるんです?」という顔をヴェイグに向ける。
「俺に聞くなよ。隊長さんのほうが詳しいだろ。こいつらが雇った護衛かどうかはよ」
「私はこんな人達を雇っていませんよ」
「だ、そうだとよ。偽護衛のクズ」
「「「ざけんな!!」」」
絡みクズ三人の叫びが見事にハモった。
「そこの女はな、俺らのパーティに所属してんだ。俺らも一緒に依頼を受けるのは当然だろうがよ!」
「えっと、ホントですかイ……」
隊長の口をヴェイグが塞いで言葉を途中で止めた。
「おい、クズ」
「誰がクズだ!?誰が!?」
「お前ら以外いるか……いや、いるか」
他の商隊でも飛び入りで護衛になろうと交渉している者達がいた。
聞こえてくる話し声から高確率でクズであることがわかる。
「ともかくだ。こいつがお前らのパーティメンバーだっていうならまずこいつの名前を言ってみろ。話はそれからだ」
「ざけんな!」
「おう!俺らを馬鹿にすんのもいい加減にしろ!」
「だな!」
そう言った絡みクズ達だがイーダの名前を答えなかった。
何度も聞いているはずだが誰もイーダの名を覚えていなかったようだ。
隊長が呆れた顔で言った。
「やっぱり嘘ですか。よくこんなすぐバレる嘘をつきますね」
「クズだからな」
「「「ざけんな!」」」
「ほれ、いくらバカなお前らでも流石にもう無理だって理解できただろ。諦めてさっさとどっか行けクズ共」
しかし、絡みクズ達は理解できなかった。
「ちょっと待て。今思い出す!」
「いや、待たねえよ」
ヴェイグの呆れた声は絡みクズ達の耳には届かなかったようで集まってボソボソ小声で相談を始める。
「昨日、サラ達が呼んでたはずだ」
「あの隊長が呼ぼうとしたとき“イ”から始まっていたぞ」
「おっ、流石だな」
「はっ、盗賊なめんなよ!」
そう言ったクズ盗賊はなんか誇らしげだった。
「その程度で威張んなよ」というヴェイグの嫌味は聞こえなかったようだ。
しばらくして、クズリーダーがなんか偉そうな顔で言った。
「答えが出たぞ!」
「クイズしてんじゃねえよ」
ヴェイグのバカにした気持ちを思いっきり込めた言葉は絡みクズ達には理解できなかった。
「答えは……インランだ!」
「……ヴェイグ、蹴り」
イーダの冷めた声を受けてヴェイグがクズリーダーを蹴り飛ばした。
またも悲鳴を上げて派手に転がる。
「て、てめえいい加減にしろよ!」
「そりゃこっちのセリフだ。俺らはお前らと違って暇じゃねえんだ。さっさと消えろ」
「「「ざけんな!!」」」




