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581話 乗合馬車を探そう

 イーダを送ったあとでリオが足を止めた。


「どうしたんですかっ?」

「駅に行こう」

「えっ?」


 ヴィヴィはリオの目的に気づいた。


「ぐふ、イーダ達が護衛するという輸送隊の中には乗合馬車もあったな。それに乗る気か?」

「うん」

「それでフェランに向かうと?」

「そう」


 フェランに乗合馬車で向かうことは誰からも不満は出なかったが、サラが懸念点を述べる。


「しかし、明日出発ですから席はすべて埋まっているかもしれませんよ」

「行ってみればわかるよ」


 リオ達は馬車の発着場に向かうとイーダ達が護衛する輸送隊がどれか調べた。

 幸いにも該当する輸送隊は一つだけだった。

 ただ、サラの言ったように乗合馬車は予約でいっぱいとのことだった。


「残念だ」

「そうなんですか?」


 ボソリと呟いたリオにサラが尋ねる。


「うん。折角ヴェイグを驚かせようと思ったんだけど」

「思ったんですか?」

「サラもでしょ?」

「いえ。というか何故ヴェイグを驚かせたいんですか?」


 サラに聞かれてリオは首を傾げる。


「……面白い、から?」

「私に聞かれても困ります」

「ぐふ、それでどうする?」

「別の乗合馬車を探しますかっ?」

「ぐふ、フェランへ直通となるとそうはないだろうから乗り継いで向かうことになるだろうな」

「そうですね」

「そうなんだ」


 リオ達が話をしているところへ走ってやって来る者がいた。


「リ、リサヴィの皆さんですねっ!」


 その者は息を切らして次の言葉が続かない。


「そうですが少し落ち着いて下さい」

「す、すみません……」


 その者が息を整えるのを見計らってサラが再び声をかける。


「それであなたはどなたですか?」

「し、失礼しました。私は皆さんがお尋ねになった輸送隊の隊長をしている者です」

「そうですか。それで私達に何か?」

「あの、失礼ですが皆さんはどちらまで行かれるのでしょうか?」

「フェランです」

「そうですか」

「でもっ、満員という事ですのでっ」

「あ、いえ、待って下さい」

「はいっ?」

「実はもう一台乗合馬車を増やしたいと考えていたのです」

「そうなんだ」

「もしよろしければそちらをご利用頂けたらと思いまして」

「それは助かりますけど」

「その代わりと言ってはなんですが、皆さんにはもしもの時に手助けをしていただけませんか?もちろん、その際には手当てをお出しますのでっ」

「ぐふ?」

「えっとっ、護衛はいるんですよねっ?」

「はい。それはそうなんですが、実は最近魔物が活発化しておりまして昼間であっても街道に出没するのです。それに盗賊も出るようなんです。その盗賊というのが元冒険者らしくて……」

「「「「……」」」」


 不正合格した冒険者のうち、明らかに頭のおかしい(先天的か後天的かは不明だが)者達やユダスでの再出発を拒否した者達を退会処分にしたが、彼らの中に盗賊に転職した者が少なからずいた。

 幸いにも彼らは頭だけでなく力も弱い者がほとんどで、商隊を襲撃しても護衛に撃退されることの方が多かったのだが、最近、彼らをまとめる者が現れて、かつての三本腕に匹敵するほどの盗賊団を作ったらしいとのことだった。


「その盗賊がこの辺りに出没すると?」

「いえ。ですが長旅ですので途中で出くわす可能性があります」


 隊長はその後すぐに説明不足に気づき付け加える。

 

「私共が雇った護衛の腕は確かですよ。ですが数は脅威です。大人数で襲撃されれば流石に厳しいのではないかと……」

「ぐふ、それでもしものときか」

「はい。如何でしょうか?」

「いいんじゃない」


 リオはどうでもいいように言った。


「どうせ……」


 サラはリオに最後まで言わせなかった。


「その時はあなたも手伝うんですよ」

「……そうなんだ」



 隊長はリサヴィがフェランまで同行することになり、ほっと安堵の息をつく。


「それではお願います」


 サラが代表して言うと隊長が満面の笑みで返事した。


「はいっ。こちらこそよろしくお願いいたします!」


 こうしてリサヴィはフェランまでの足を手に入れたのだった。



 そして翌日の朝。


「……なんでお前がここにんだよ?」


 駅には客に不機嫌そうな顔で文句を言う護衛の姿があった。

 言うまでもなく、客はリオ、護衛はヴェイグだ。

 リオが言った。


「この護衛、客への態度が悪いね」

「突っかかってくんじゃねえよ!」

「やめなってヴェイグ!突っかかってんのはあんたの方だよ」

「ぐふ、私達のことは気にするな。たまたま乗り合わせただけだ」

「ですねっ」

「……」


 今朝連絡を受けたばかりの追加した客車にリオ達が乗るのを不貞腐れた顔で見送りながらヴェイグが言った。


「隊長さんが客車一台増したのはリサヴィを乗せるためじゃねーだろうな」

「まあまあ、落ち着きなってヴェイグ。フェランまでの辛抱だからさ」


 ヴェイグはイーダの言葉に引っ掛かりを覚え、それが何かすぐにわかった。


「……おい、イーダ。なんでお前はリオ達の行き先知ってんだ?」

「え?……え、えへへっ」

「イーダ、お前か。お前が余計なこと言ったのか!?」

「えへへっ」


 そこへもうひと組の護衛パーティがやって来た。


「こいつ、何不貞腐れてされてるんだ?」


 彼らはヴェイグの不機嫌な顔を見てイーダに尋ねる。


「いや、あのね、乗客にリサヴィがいるのよ」


 イーダの言葉に護衛達が驚いた顔をする。


「リサヴィ!?」

「あのリサヴィか!?」

「たぶん、そのリサヴィ」

「鉄拳制裁サラのいるリサヴィか!?」

「そう」


 護衛達は一通り驚いたあとで納得顔をする。


「なるほどな。だから隊長さんはあんなに安心しきった顔してたのか」


 護衛のその言葉がヴェイグの癇に障り食ってかかる。


「なんで安心すんだよ?客に守らせるつもりとでも言うのか?」

「い、いや、別にそういう意味じゃない」


 それ以外の意味には取れなかったが、ヴェイグの圧力に押されて思わず否定した。


「落ち着きなってヴェイグ。あの隊長さんならやりかねないよ。何せ実績があるから」

「……」


 イーダの言葉に自分達がまさに客から護衛に変わったことを思い出す。

 ヴェイグは面白くなさそうに舌打ちをした。

 

「あ、ここはあたいらに任せてあんた達は先に乗っててよ」

「そ、そうか。じゃあ任せた」


 彼らは不機嫌なヴェイグと一緒にいたくなかったのでイーダの言葉に甘えてささっと護衛用の馬車に乗り込んだ。


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