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580話 温和な人ほど怒ると怖い

「皆さん落ち着いて下さい。サラさん、ここは私に任せてください」


 温和な兵士がサラを名指ししたことから彼はリサヴィの中でサラが一番手が早い(短気)と思っているようだ。

 サラはムッとしたもののなんとか自制し、対応を兵士達に任せることにした。

 温和な兵士が絡みクズ達の説得を試みる。

 彼は先の家賃踏み倒しクズ捕獲作戦で自分勝手なことばかり言うクズ達を説得したことで自信を持っていた。

 だが、それは無謀であった。

 彼が対応したクズ達は低級クズであり、まだ意思疎通が出来る者達であったのだ。

 温和な兵士は上級クズを相手にして頭が混乱した。

 ヴィヴィの言う通り彼らとは全く会話が成立しないのだ。

「もしかしたら自分は思っている事と実際に話していることが違うのではないか?」と自身を疑うほどであった。


「気を確かに」


 サラの声で温和な兵士はなんとか正気を保つのに成功した。

 彼は自分がおかしくなったと思わせたクズ達の異常思考に恐怖し、妄想話を自慢げに一方的に語るクズ達へ怒りが込み上げる。

 そして限界を超えた。

 つまりキレた。


「……というわけよ!がははっ!」

「もう黙れ!」


 温和な兵士、いや、元温和な兵士の一撃が絡みクズの妄想話を断ち切った。


 クズ盗賊は元温和な兵士に殴られて「ぐへえーっ!?」と悲鳴を上げながら派手にぶっ飛んだ。

 元温和な兵士はその悲鳴も癇に障ったようだ。


「黙れと言っているだろうが!」


 元温和な兵士が転がったクズ盗賊の頭を思いっきり蹴り上げるとクズ盗賊は大人しくなった。

 気絶したともいう。

 日頃温和な者ほど怒ると恐ろしいと言われるがまさに彼がその代表であった。

 ところで、元温和な兵士は温和だが弱いわけではなかった。

 それどころか、冒険者でいえばBランクに匹敵するほどの強さを持っていた。

 口だけのCラーンク!冒険者など敵ではない。

 一緒にやって来た兵士達は元温和な兵士がキレるの見るのはこれが初めてで、驚きのあまり止めることを忘れ、おっかなびっくりの表情で彼を見つめるだけだった。

 一人残ったクズ戦士が怒りと恐怖を顔に纏って元温和な兵士を睨みつける。


「て、てめえ……」

「黙れと言ってるのがわからんのか!このクズが!!」

「ひっ……」


 人の話を聞かない上級クズとはいえ、身に危険が迫れば別だ。

 クズ戦士の生存本能が働いてかろうじてだが会話が成立するようになった。

 元温和な兵士がサラ達に顔を向ける。


「悪かったな。お前達が正しかった。本当にクズ野郎とは話が通じねえぜ!」


 元温和な兵士は口調も変わり全くの別人となっていたがサラ達はそのことに驚いたりしない。

 そういうのにはもう慣れっこだったからだ。


「おいクズ。お前らは街に害をなす危険人物と判断した。冒険者ギルドに事情を話し処罰させるからあほ面晒した仲間を連れて後について来い。黙ってだぞ。一切口を開くな」


 クズ戦士はこのままではまずいと必死に“ク頭脳”を働かせる。

 イーダと目が合って閃いた。

 イーダに目をぱちぱちして話を合わせろと合図を送る。

 クズ戦士はイーダが呆れた顔で見返すのを見て、何故かOKしたと思ったようで元温和な兵士にちょっとだけデカい態度で話し始める。


「なあ聞いてくれよ!」

「黙ってついてこいと言ったぞ。お前もボコられたいか?」

「ちょ待てよ!だから誤解なんだ!なっ?」


 クズ戦士が「頼むぜ!」とイーダに向かってキメ顔をし、再び目をぱちぱちする。

 しかし、イーダは反応しない。

 ただの屍、ではなく無視したのだ。

 その態度にクズ戦士はカッとなりイーダを怒鳴りつける。


「おいこらっ!」

「うるせえ!」


 元温和な兵士がクズ戦士の脇腹に蹴りを放つ。

 口だけCラーンク!冒険者のクズ戦士が避けられるはずもなく、モロに受けて嫌な音と共に悲鳴を上げて転がる。

 肋が二、三本折れたようだ。


「わ、わかったっ。つ、ついて行くから治療してくれ!ぜってい骨が折れてる!」

「詰所まで我慢しろ。定価でポーションを分けてやる」

「ちょ、ちょ待てよ!な、なあ、サラ!アリエッタでもいい!治してくれよ!この顔だって痛えんだぞ!」


 二人は反応しない。

 ただの屍、ではなく無視したのだ。


「おらっ!とっとと仲間のクズを連れてついて来い!!」


 キレた元温和な兵士に一緒にやって来た兵士達も逆らうことはせず、クズ戦士を急かす。

 兵士達に囲まれながらクズ戦士は怪我の痛みで涙と鼻水を流しながら気絶したクズリーダーとクズ盗賊の片方の足を掴んで引き摺っていく。

 絡みクズ達の頭が地面に擦れて禿げそうだったがサラ達の知ったことではなかった。

 今のが見せ物だと思ったのか、それとも元温和な兵士への賞賛だろうか、彼らの後ろ姿に向かって見物人からぱちぱちと拍手が起こった。

 見物人の中には必死に何かをメモる者がいた。



 絡みクズ達は冒険者ギルドに引き渡された。

 その際、引き取りに来たギルド職員と警備員は兵士達に散々嫌味を言われた。

 絡みクズ達はギルド職員達に「俺達は無罪だ!冤罪だ!」と喚き散らしたが誰も信じなかった。

 いや、そもそも話を聞いていなかった。

 絡みクズ達の強引なしつこい勧誘は冒険者への嫌がらせと判断され、罰としてDランクへ降格処分となった。

 本当は冒険者ギルドを追放したかったのだが、残念ながら?彼らは不正合格者ではないし、今回、実害はなかったからだ。(精神的ダメージは多数の者が負ったが)

 「次同じことをしたら追放だぞ!」と絡みクズ達は警告を受けて解放された。

 だが、そんな脅しなど彼らには効かぬ通じぬ、であった。

 何故なら彼らはクズだからである。

 自分達に都合の悪い事は一日寝ればすっかり忘れることが出来るのだ。


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