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58話 リサヴィ結成

 ヴェインにやって来て既に五日が経とうとしていた。

 ベルフィ達とは別れたあの日以来会っていない。

 今、ヴェインにいるのかすら不明だった。

 リオはその事を全く気にしているようには見えない。

 実際、気にしていないだろうとサラは考えていた。

 サラも全く気にしていなかった。カリスと会わない分、開放感を味わっていた。



 当初、カルハン製の魔装具を着た魔装士という事で注目を浴びたヴィヴィだったが、見慣れたのか声をかけて来る者はほとんどいなくなった。

 不思議とヴィヴィの素顔に興味を持つものは少なく、容姿に自信がないのだろうと思われていた。

 そのためヴィヴィの容姿について知るものは未だリオとサラのみであった。


 逆に注目を浴びるようになったのがサラだった。

 出歩く時はなるべくフードを深く被り顔を隠していたが、それにも限界はある。

 偶然サラの素顔を目にした者が騒ぎ出し、サラが美女だと知られるようになった。

 サラは自分が神官である事も実力も見せていないので、サラをパーティに誘う者全てが下心からであることは明白である。

 もし力づくでサラを自分のものにしようとする者がいたならばサラの力をその身をもって思い知ることになったであろうが、今のところそのような者はいなかった。


 ヴィヴィはヴェインに来てからも相変わらず一人で食事をとっており、その日も宿屋に戻ると一人部屋に上がり、一階の酒場で食事を取るのはリオとサラの二人であった。

 サラにとってこの食事の時がリオと二人きりになる数少ない機会であり、ほっと一息つける唯一の時間でもあった。


(おかしいわね。将来魔王になる相手と二人きりで気が休まるなんて)


 自分の感情の変化に複雑な心境でもあった。

 だが、そのひとときを邪魔する者達が現れた。

 リオ達が食事を注文した後すぐ一組のパーティがサラ達のテーブルに近づいて来た。

 用件はサラの予想通りだった。


「なあ、サラ。俺達のパーティに入らないか?そんな奴と組んでたらいつまでたってもランク上がんないぜ!」


 声をかけて来たのは同じ宿に泊まっているパーティの戦士だった。


「そうだぜ!そんな奴と“前衛”なんかやってたら命がいくらあっても足りねえぜ!」

 

 そのパーティの盗賊もサラを誘う。

 今の言葉からわかるようにサラのクラスは戦士だと思われていた。

 その証拠にそのパーティの神官までサラをパーティに誘う。

 

「そうですよ。長生きしたければ組む相手を選ぶべきです。どうです?私達のパーティに入りませんか?もしかしたらあなたは私の勇者かもしれませんし」


 その言葉を聞いてサラは思わず笑いそうになり、フードを直すフリをして更に深く被って表情を隠す。

 そんなサラの気持ちに気づかず、戦士達が神官にくってかかる。

 

「お前何言ってんだ!?そんな口説き方ズルいぞ!」

「そうだぞ!」

「失礼な。口説いてなどいませんよ。事実を言ったまでです」


 神官は澄ました顔で言い切った。


「嘘つけ!前もその手を使って口説いただろ!?」


 パーティで言い争いをしている間にサラの笑いは収まった。

 

「私は今の仲間に不満はありません」


(魔装士はいりませんけど)


「冗談だろ!そんな奴のどこがいいんだ!?おいっ、お前!さっきから黙ってねえでなんか言え!ビビってんのか?ビビってんだろっ!なっ、おいっなんとか言え!」


 サラを口説くのは難しいと判断したのか今度はリオを脅して別れさす作戦に変更したようだ。

 

「ん?僕?どうしたの?」


 これだけの騒ぎの中、リオは全く話を聞いていなかった。


「てめえ、無視とはいい度胸だなぁ。Fランクの癖に」

「ん?もうすぐEに上がるよ」


 そう言ったリオの表情はどこか誇らしげに見えなくもない、かもしれない。

 言うまでもなくその態度は彼らの神経を逆撫でした。


 と、そこへ大声で割り込む者が現れた。

 

「はい、日替り定食お待ちどう!ほらっ、あんたら邪魔だよ!そこどきな!」

 

 この宿の女主人だった。


「ここは楽しく食べて飲む場所だよ!ケンカなら他所でやりな!」


 戦士が「ちっ」と舌打ちしてもとのテーブルに戻っていく。その後を神官と盗賊が続く。

 

「ありがとうございます。助かりました」

「どうって事ないよ。あんたらは上客だからね」

「そう言っていただけるとうれしいですけど」

「本当のことさっ。前払いしてくれて感謝してるよ!」

「いえそれほどでは」


 女主人の言う通り、サラ達は十日分前払いしていた。

 ただ、それはサラ達から進んで行ったのではなく、ランクが低すぎて宿賃を踏み倒すんじゃないかとこの女主人に怪しまれたからなのだが、女主人はその事を綺麗さっぱり忘れているようだ。

 もちろん、その話を蒸し返したりはしない。

 部屋にも料理にも不満はない。

 不満があるとすればさっきのようにパーティに絡まれる事だ。



 食事を終えると貸し切った部屋に戻る。

 もともと四人部屋であるこの部屋には二段ベッドが二つある。

 部屋では既に食事を終えたらしいヴィヴィが自分のベッドに横になっていた。

 魔装具を解き、下着ではないが扇情的な服装だった。


「商売するならそろそろ出かけてはいかがです?」

「うむ?相変わらず意味不明な事を言う奴だな」

「何ですって?あなたのその姿が商売女に見えると言ってるんです」

「うむ。露出狂のお前に言われるのは心外だな」

「誰が露出狂ですか!それはあなたでしょう!」

「うむ?私はお前と違ってところ構わず全裸で歩き回ったりしないが?」

「し、失礼な!私だってそんなことしません!」

「うむ、自覚がないというの問題だな。その若さで痴呆症か」

「「……」」


 険悪な二人をよそにリオは装備を解き、二段ベッドの上段に上がろうとする。

 それに気づきサラが声をかける。


「リオ、ちょっと待ってください。リフレッシュをかけます。あと布団も直します」


 サラはまずリオにリフレッシュの魔法をかける。続いて二段ベッドに上がるとベッド全体にリフレッシュをかけ、朝起きたままの状態だった布団を直す。

 

「ありがとう。ほんと、サラは床上手だよね」


 その言葉にサラの動きがピタリと止まり、半目でリオを見る。

 

「……リオ、今なんと言いました?」

「ん?サラは床上手」

「どういう意味で言ってますか?」

「うむ。言葉通りだろう」

「あなたには聞いていません」

「ベッドメイキングが得意な人だって、」

「ナックが言いましたか?」

「うん」


(あのバカ魔術士は!)

 

「リオ、意味が違うので二度と私の事を床上手と言わないでください」

「そうなんだ」



「リオ、寝るまえに相談があります」

「何?」

「今の私達は依頼を個人で受けている状態です。このままでも依頼を受けるのに支障は出ていませんが、他のパーティから勧誘を受けやすい状態になっています。そこで私達でパーティを組みませんか?」

「ん?僕達ウィンドに入るんだよね?」

「はい。ですが、私達がEランクに上がった程度ではウィンドに加入できるとは思いません」


 サラの言葉にヴィヴィが同意する。

 

「うむ。ローズは絶対反対するだろうな」

「そうなんだ」

「そういうわけで仮でもいいですから私達でパーティを組みましょう」

「わかった」


 リオはサラの提案にあっさり同意する。

 残る問題は誰がリーダーになるかだ。

 リーダーにはメンバーの入退権限がある。

 脱退についてはメンバーが望んでもリーダーが拒否する場合もあるので、メンバーからギルドに申請して脱退することができる。

 

「リーダーですが、もしよろしければわ……」

「うむ、私がやろう」

「何寝ぼけたことを言ってるのですかあなたは?」

「うむ?そこまで言われては受けるしかないだろう」

「幻聴が聞こえましたか。誰もあなたになって欲しいなどとは言ってませんよ。ああ、あなたの方がボケが始まっていたのですね」

「お前の考えなどお見通しだ」

「なんのことです?」

「自分がリーダーになり、リオを調教するのに邪魔な私を排除する気だろう」

「そんな事はしません!」


 あなたは排除しますけどね、と心の中で付け加える。

 

「うむ。では私で問題ないだろう」

「大ありです。あなたこそ私を排除する気でしょう?」

「うむ。お前のためだ」

「否定しませんでしたね?」

「うむ。私は正直だからな。お前と違って」

「何ですって?大体何が私のためなのですか?」

「お前は教団から任務とやらを受けているのだろう?」

「そ、それはそうですが目的は同じです」

「一部がな。それならベルフィ達でも同じだろう。というよりベルフィ達の力を借りるためについて来たのだろう?」

「そうですが、現状パーティに入るのは難しいと話しましたよね」

「お前だけならカリスが必死になってローズを説得すると思うぞ」


 ヴィヴィが意味ありげな笑みを浮かべ、そのヴィヴィを睨みつけるサラ。

 この後も二人の話は平行線をたどり、リーダーはリオということで落ち着いた。


 この後、パーティ名について再び二人は言い争うことになった。

 結局、リオに決めてもらうことになった。

 

「じゃあ、ウィンド」

「既にあるパーティ名はつけれません」

「じゃあ、ウィンド・ツー」

「微妙ですね」

「じゃあ、リッキー」

「またリッキーですか。好きですねリッキー」

「うむ。他はないのか?」


 リオに任せたはずなのに次々と候補を却下する二人。


「じゃあ、鉄拳制裁」

「却下です」

「うむ。本人が言ってるからな」

「ん?」

「他にないのですか?」

「じゃあ、ファフ」

「本人驚きますよ」

「んー、もう思い浮かばないなぁ」


 結局、その日パーティ名が決まることはなかった。

 


 そして次の日の朝。

 リオは二人に前でパーティ名を告げた。


「“リサヴィ”でどうかな?」

「リサヴィ、ですか?」


 そんな言葉あったかしら?とサラが考え込む横でヴィヴィが言った。

 

「うむ。三人の名前の頭文字からとったか」

「……ああ。そうなのですか?」

「うん」

「いいんじゃないですか」

「うむ」


 こうしてパーティ、リサヴィが誕生した。


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