579話 絡みクズの執念
アリスが絡みクズの行動を見てみんなが疑問に思ったことを口にする。
「どうしてっこの人達っまだ冒険者なんですかねっ?絶対冒険者適性試験に落ちると思うんですけどっ?」
「「「ざけんな!」」」
「ぐふ、私もそう思っていた。このクズ達は“元”冒険者なのではないか?」
「ざけんな!俺らは現役のC!ラーーーーンク!冒険者だ!!」
クズリーダーがそう叫び冒険者カードを自慢げに見せびらかす。
それに他のクズ達も続く。
冒険者カードは確かに本物であった。
「ぐふ、なるほど。後天的クズか」
「後天的クズ?」
イーダが首を傾げる。
「誰が後天的クズだ!?」と絡みクズ達が喚くのを気にせずヴィヴィがイーダに説明する。
「ぐふ、正規の手順で入会試験に合格し最初は真面目に依頼をこなしていたが何かの拍子にクズとなった者達のことだ。不正で冒険者になったわけではなく、あのババアの家賃踏み倒しもしていなかったから今回は適性試験を受けるまでには至らなかったのだろう。受けていればよくて降格、最悪は退会処分になっていただろうがな」
「確かに」
「ですねっ」
「「「ざけんな!!」」」
夜とはいえ、通行人はゼロではないし、絡みクズが何度も喚くので何事かと人が集まり始めた。
それにクズリーダーは気づいて内心焦り始めるが偉そうな態度を崩さずある提案を持ち掛ける。
「おいサラ。このままじゃ埒があかねえ」
「いえ、あなた達が正常な思考を取り戻せば終わりますよ」
「ぐふ、サラ、無茶を言うな」
「ですねっ」
クズリーダーにサラ達の声は届かなかったようで話を続ける。
「お前らがその女にそこまで執着するなら譲ってやらんでもねえ。その代わりだ、サラ、アリエッタ、お前らのどちらか俺らのパーティに入れ!」
「おう!それで決まりだ!」
「流石だぜリーダー!」
メンバーに羨望の目を向けられ満更でもない顔をするクズリーダー。
「さあ、好きな方を選べ!」
もちろん、そんな提案を飲むはずがない。
「もういいですかさっさと退いて下さい」
「ざけんな!俺らがこんだけ妥協してやったんだぞ!お前らどんだけワガママなんだ!!」
クズリーダーの叫びにサラ達はずっこけそうになった。
「ぐふ、もう疲れた。そろそろクズの強制排除に移るか」
ヴィヴィの呟きにクズリーダーが反応した。
「誰がクズだ!?誰が!?」
「大体な!クズって言う方がクズなんだぞ!」
「だな!」
「ぐふ、そんなわけあるかクズ」
ヴィヴィの純度百パーセントのクズ発言にクズリーダーがキレた。
剣を抜くとヴィヴィに斬りかかったのだ。
不意打ちであり並のCランク冒険者なら対応できなかったかもしれない。
しかし、ヴィヴィは並のCランク冒険者ではない。
実力はBランク以上である。
スタンバっていた右肩のリムーバルバインダーが素早く動きクズリーダーの顎を打ち抜いた。
クズリーダーは「ぐへっ!?」と叫び宙を舞う。
滞空時間が長くゆっくりと回転しながら白目をむいたあほ面を周囲に惜しげもなく披露する。
そして地面に落下すると三、四回転がって仰向けになり大の字で止まった。
その見事な回転とあほ面に集まっていた人々からぱちぱちと拍手が起こった。
「ぐふ、まあまあだな」
会心の一撃だったようでヴィヴィの顔はなんか誇らしげだった。
と言っても仮面で顔は見えないが。
「ぐふ、次は誰だ?お前がもう一回飛ぶか?」
ヴィヴィの言葉に顔を腫らしたクズ戦士が怯えた表情で後退りする。
そこへ騒ぎを聞きつけた兵士達がやって来た。
「どうしましたか?」
声をかけてきた兵士は争いを好まない温和な人物だった。
クズ盗賊はそのことを知っており、「チャーンス!」とばかりに温和な兵士に妄想話を始める。
「ちょうどいいところに来たな!その女は俺らの仲間なんだがこいつらが離さなくてよ、取り返そうとしたリーダーがやられたんだ!」
クズ盗賊があほ面晒して気絶したクズリーダーを指差す。
更にクズ戦士もチャンスとみたらしくクズ盗賊に続く。
「おう!こいつらリサヴィは力があれば何をやってもいいと思ってやがんだ!」
「本当ですか?」
「「おうっ!」」
温和な兵士はイーダに尋ねたのだが何故か絡みクズが返事したので唖然とした顔をする。
「あなた達には聞いていませんよ。それでどうなんですか?」
温和な兵士が絡みクズ達を注意してからイーダに尋ねる。
「うそです」
イーダはキッパリと一片の迷いもなく言い切った。
「そのクズ達はあたいのストーカーです。絡んで来たところをリサヴィに助けてもらったんです」
「「ざけんな!」」
絡みクズ達が見事にハモったことに温和な兵士は内心感心したがその事は口にせず、暴力をふるった者を注意する。
「彼らに問題があるのはわかりましたが、だからと言って暴力はいけませんよサラさん」
「え?」
温和な兵士はサラがクズリーダーをどついて気絶させたと思ったようだった。
鉄拳制裁の二つ名によるものなのか、そういう性格だと思われているのか、ともかくサラは温和な兵士の勘違いを正そうとするが口を開くのはヴィヴィのほうが早かった。
「ぐふ、許してやってくれ。相手はクズだ。それも同じ言語を使っているにも拘らず会話が成立しない上級クズなのだ」
「おいこ……」
「「誰が上級クズだ!?誰が!?」」
「ぐふ、お前らだ」
「ええ」
「ですねっ」
イーダとアリスが同意すると絡みクズが激怒する。
「「ざけんな!!」」
クズ達の叫びが見事にハモった。




