578話 絡みクズの尾行
話が終わり、サラがイーダに尋ねる。
「あなた達はいつマルコを出発するのですか?」
「明日」
「ぐふ、だから今日会いに来たのか」
イーダが頷く。
「ここに来る前に護衛の依頼を受けたことがあってさ。と言ってもなし崩し的になんだけど」
そう言ってイーダは護衛になるキッカケになったクズ護衛達の話をした。
そのクズ護衛達が冒険者にも拘らず文字が読めなかったことがキッカケで、ギルドは不正合格者摘発のためのアンケートを実施することにしたのだ。
彼らはメイデスの使徒と相討ちとなりこの世を去っていたが、冒険者ギルドにも貢献していたのであった!
……どちらも本人達の意思ではなかったが。
イーダが続ける。
「……で、ムルトで別れたその輸送隊の隊長さんとここマルコでバッタリ会ってさ。また護衛を受けて欲しいって頼まれて仕方なくね。まあ、あたい達もユダスに戻る予定だったから丁度いいかって話になってね」
「そうですか」
「ちなみにあんた達はこのままマルコで活動を続けるのかい?」
「私達はマルコ所属ではありません」
「ああ、そうだったね」
「ぐふ、ここに留まる理由はないな」
「じゃあ、なにか目的はあるの?」
「あるよ」
「それって?」
「僕はラグナを身に付けたいんだ」
「ああ、ラグナね。確かに戦士ならラグナ使いになりたいよね。ヴェイグも言ってたわ」
イーダがうんうん、と頷く。
「あとですねっ、リオさんがラグナを身につけた時のためにっ、その力に耐える武器探しもするんですよっ。ですからっ、わたし達も近々マルコを出てっ、フェランに向かうつもりなんですっ」
「フェランね」
ここでイーダは余計な一言を言った。
「あたいらが護衛する輸送隊もフェランに寄るみたいね」
リオ達はイーダを宿屋まで送ることにした。
理由は言うまでもなく、あのクズ達である。
絡みクズ達である。
彼らが待ち伏せしていることが十分予想出来たからだ。
一階の酒場に彼らはいなかった。
店主に聞くと二階に上がるのに失敗した後、追加注文もせずに酒場に居座ろうとするので追い出したとのことだった。
これには酒場にいた冒険者達も協力したらしい。
絡みクズ達は「俺らはCラーンク冒険者だぞ!」と叫んで抵抗したらしいが、今のマルコにはランクで怯む者はいなかった。
「それがどうした!?」と睨みつけると捨て台詞を吐いて逃げていったらしい。
それを聞いてもサラ達は安心しない。
何故なら彼らはクズだからである。
腕が二流だとしても執念深さだけは間違いなく一流であるとクズ専門家?としての直感が告げていたのである。
宿屋を出てすぐサラ達は後をつけられているのに気づいた。
それも三人。
一人は盗賊のようで気配を消しているつもりのようだが未熟でサラ達にはまるわかりだった。
仮にその盗賊が完全に気配を消すことができたとしても残りの二人がど素人丸出しなので全く意味はない。
しばらくするとその者達は先回りしてサラ達の前に姿を現した。
彼らはクズであった。
あの絡みクズ達であった。
今回もヴィヴィにどつかれて顔を腫らしたクズがいたので絡みクズだと気づいた。
彼らが姿を現したのは尾行がバレていると思ったからではない。
彼らは尾行に絶対の自信を持っていた(その自信がどこから来ているのかは不明)のでそんなことはこれっぽっちも考えていなかった。
では何故姿を現したのかといえば、イーダが一人になるのを待っていたのだが、サラ達がイーダを宿まで送ると確信したからだ。
クズリーダーが一歩前に出てイーダに言った。
「おいおい、来るのが遅えぞ」
この場面だけ見ると、クズリーダーはイーダが待ち合わせ場所に遅れてやって来たことを責めているように見える。
もちろん、そんな事実はないのだが絡みクズ達は不満顔をイーダの隣にいたサラに向けて文句を言い始める。
「サラ、さっきも言ったがその女は俺らが最初に見つけたんだ。横取りしないでくれ」
「そうだぞ」
「お前だって迷惑してるだろ。なっ?」
そう言ったクズがイーダにキメ顔を向ける。
それに残りの二人が続く。
イーダは「このクズ達の思考は一体どうなっているのよ!?」と思わず叫びたくなり、酷い頭痛にも襲われた。
一方、サラ達はクズ達の異常思考には慣れっこだったので特にダメージはなかった。
イーダは頭を押さえながら誰にでもはっきりわかるように大きなため息をついてから言った。
「もちろん迷惑してるわよ。あんたらにね」
「だろ?……って、ざけんな!!」
何故かイーダが同意すると思っていた絡みクズ達は勝ち誇った顔をサラに向けていたが、イーダの言葉を意味を理解して(できて)イーダを怒鳴りつけた。
「大体あんたらと待ち合わせなんかしてないでしょ」
「何言ってやがる。お前はちゃんと待ち合わせ場所に来ただろうが」
クズリーダーはそう言って今いる場所を指差す。
「だな!それが証拠だ」
「おう!俺らはずっとここで待ってたんだぞ!」
そう言った絡みクズ達の顔はなんか偉そうだった。
ヴィヴィが絡みクズの嘘を指摘する。
「ぐふ、何がずっと待っていただ。宿屋から跡をつけていただろうが」
「「「な……」」」
「バレバレでしたね」
「ですねっ」
クズ盗賊は自分のテクニックに揺るがない自信を持っていたので即反論する。
「そんなはずはねえ!俺の尾行は完璧だ!気づくヤツがいるはずねえ!」
ヴィヴィが冷めた声で言った。
「ぐふ、自白したな」
クズ盗賊はうっかり口を滑らせたことに気づくと顔を真っ赤にしてヴィヴィを睨みつける。
「て、てめえ!汚ねえぞ!鎌かけやがって!」
嘘がバレ、クズリーダーと頬を腫らしたクズ戦士がクズ盗賊を責める。
「馬鹿野郎!お前のせいで作戦が台無しじゃねえか!」
「だな!この足手纏いが!」
その様子を見てヴィヴィが呆れた顔で言った。
と言ってもその顔は仮面で見えないが。
「ぐふ、そもそも尾行にそんなど素人を引き連れて気づかれないと思ったか」
「「な……」」
その言葉を聞いてクズリーダーとクズ戦士が驚いた顔をする。
何故か彼らも完璧に尾行ができていると思っていたようだ。
形勢逆転、今度はクズ盗賊が仲間を責める。
「やっぱりか!だからお前らはついてくるなって言ったんだ!盗賊の技術を持ってねえんだからな!」
そう言ったクズ盗賊はどんなもんだという顔をサラに向ける。
どうやら、彼はこのクズパーティを抜けてリサヴィに入ることを考え始めたようだ。
クズ盗賊の言葉に腹を立てたクズリーダーがクズ盗賊を怒鳴りつける。
「ざけんな!お前一人行かしたらお前だけこの女と楽しむ気だろうが!」
「だな!お前ならやりかねん!」
「ははっ、よせよ男の嫉妬はみっともねえぞ」
サラ達から見ればこの三人は容姿、そしてクズ度も互角でどちらとも親しくなどなりたくないのだが彼らは気づかない。
もしかしたら娼婦のお世辞を本気にしたのかもしれない。
「喧嘩は他でやりな。さあ、邪魔だからさっさと退いて」
イーダの言葉に言い争いを中断して同時に叫んだ。
「「「ざけんな!」」」
クズリーダーがイーダに自分勝手なことを言い放つ。
「俺らはなあ!お前がいつ出てくるかわからないのに外でずっと待っててやったんだぞ。その恩に応える義務がお前にはある!」
「「だな!」」
「何言ってんのよ。このストーカーどもは」
「「「誰がストーカーだ!?誰が!?」」」
その言葉には絡みクズだけでなくヴィヴィも異論があったようだ。
「ぐふ、そうだぞイーダ」
「ヴィヴィ?」
「ぐふ、クズが抜けている」
「そうだったわね。このストーカークズどもが!」
「「「ざけんなーっ!!」」」
夜空に絡みクズの叫びが響いた。




