577話 イーダの相談 その3
「ぐふ、それで聞きたいこととはなんだ?」
ヴィヴィの言葉でイーダは顔をリオからヴィヴィ、いや、皆に向ける。
「単刀直入に聞くけど、(アレでか)お兄さん、耳長お姉さん、って言葉聞いたことない?」
「ぐふ?何お兄さんだと言った?よく聞こえなかったが?」
「だ、だから、(アレでか)お兄さんよ!」
「ぐふ?」
「アレでかお兄さん!!これで聞こえたでしょ!?」
「ぐふぐふ」
「……ヴィヴィ、あんた聞こえてて聞いたでしょ?」
「ぐふ」
「ヴィヴィの性格が悪いのは置いておいて私はどちらも聞いた事はないですね」
「わたしもですっ」
「ぐふ、私もないな。ついでに性格も悪くないな。ただ、一つ目は言いそうな奴に一人心当たりがある」
「ナックですか」
「ぐふぐふ」
「ナック……」
「知っていますか?」
「ウィンドの魔術士のナックでしょ。関係ないかな」
サラがリオに顔を向ける。
「リオはどうですか?」
「僕はどっかで聞いたことある気がする。どこかは思い出せないけど」
「え!?どっち!?やっぱりアレ……のほう!?」
「ん?」
「ちょっと待って下さいっ!サラさんならともかくっ……って、痛いですっ」
アリスはサラにどつかれ頭を抱える。
「リオ、それでどちらを聞いたことあるの!?両方とも!?」
「そうだね。どっちも聞いた事がある気がする」
リオの返事にイーダがムッとする。
「リオ、曖昧なことばっかり言って誤魔化さないでよ!」
「ぐふ、落ち着け」
「そうですよっ、リオさんは昔の記憶を失ってるんですっ」
「えっ!?そうなの!?ホントに!?」
「ぐふ、それでその言葉はなんなのだ?」
「あ、ああ。実はね、あたい魔術士学校の学費をリオンって傭兵に出して貰ってたんだ。その時リオンが名乗ってたのがアレでかお兄さん」
イーダは吹っ切れたのか遠慮せず言った。
「「「……」」」
「そうなんだ」」
「で、リオンが所属していた暁の傭兵団が全滅したって話が出たあたりからその名が耳長お姉さんに変わっていたの。それでその耳長お姉さんに礼が言いたいし、リオンがどうなったのかも知ってると思ってその人を探しにあたいとヴェイグはユダスを出て来たのよ」
「そうだったのですね」
アリスが首を傾げる。
「あのっ、なんでわたし達にその事を聞くんですかっ?」
「ぐふ、確かにな」
「……ああ、話を端折り過ぎたわね。あたいら、ここに来る前にムルトに寄ってナナル様に会って来たの」
イーダからナナルの名が出てサラは驚いた表情をする。
「ナナル様に?よく会えましたね」
「運良くナナル様がそばを通りかかってね。話を聞いてもらえることになったの」
「そうですか。しかし、ナナル様は忙しい方ですから約束のない者と話をするのは相当珍しいことです」
「まあ、ナナル様とは全く縁がないってわけじゃないからね」
「え?」
「知らない?ナナル様が世界を旅しているときユダスに立ち寄ったことがあって、その時にボロかった教会を自費で立て直しただけじゃなく、治療魔法が使える神官を手配してくれたのよ。お陰で冒険者の死者が減ったしあたいらも随分助けられたわ。その礼を言うためにムルトに寄ったのよ」
「つまりあなた達はナナル様の知り合いだったということですか?」
「知り合いは言い過ぎ。その時はあたいら遠目でナナル様を見てただけだから。そんなわけであたいらがユダス出身の冒険者だとわかって現在の状況を知りたくて会ってくれたのよ」
「そうでしたか」
ここでイーダは周囲を見渡してから声を潜めて言った。
「その時、ナナル様にリオンのことを聞いたらナナル様はリオンの事を知っていたわ。そして教えてくれたの。六英雄の一人のナナシがリオンであることを、そしてファーフィリア様が生きていることを」
「「「「!!」」」」
サラ達はナナルがイーダ達に大迷宮での戦いのすべてを語ったわけではないことを知った。
だが、リオンのこととファーフィリアが生きていることだけでも重大な秘密である。
それを初対面のイーダ達に語ったことが驚きであった。
(……もしかしたらナナル様は未来予知でイーダ達の事を知っていたのかもしれない)
サラはそう思ったものの口にすることはなかった。
イーダはサラ達の反応からその事実を知っていたのだと確信する。
「やっぱりあんた達は知ってたんだね」
「ええ。ただ、私達が聞いたのはナナル様からではありませんが」
「そう。ともかくナナル様はリオンはその戦いで命を落としたと言ったわ。でも……」
「ぐふ、リオンの死を疑っているのか?」
イーダが頷く。
「なんか含みのある言い方だったんだ。そんでファーフィリア様に聞いてみたらみたないことを言われたの。で、あんた達がエルフに会ったことあるから情報が得られるかもって」
「「「「……」」」」
イーダが真剣な表情で尋ねる。
「あんたらが会ったエルフはファーフィリア様なの?」
サラが首を横に振る。
「わかりません。彼女は私達にファフと名乗っていました」
「ファフ……なんかファーフィリアを短くしたみたいよね。今、どこにいるかわかる?」
「いえ。以前にリオが手紙を出した時には向こうから会いに来るとの返事が来たきりです。ですよねリオ」
「そうだね」
「そっかあ……」
イーダがリオをじっと見る。
「あたいは剣術のことはよくわからないけどヴェイグはあんたの剣術はリオンにそっくりだって言ってた。それにその容姿。間違いなくあんたはリオンの血縁よ。それなのに記憶喪失だなんて」
「ぐふ、そう言えばリオはお前達の名前を知っていたな」
「そうよ!それもあったわ!リオ!さっさと記憶を取り戻しなさいよ!」
「無茶言わないでくださいよっ」
リオの代わりにアリスが答えた。




