576話 イーダの相談 その2
イーダがほっとした顔でヴィヴィに礼を述べる。
「ありがとうヴィヴィ。もうマルコにはクズはいないと思って油断したわ」
「ぐふ」
「確かにっ、今朝は見かけませんでしたよねっ。どこで湧いたんですかねっ?」
アリスがクズを虫扱いする事に反論する者はいなかった。
リオがイーダに話しかける。
「僕達に話があるんだっけ?」
「え?ええ、そうなのよ」
イーダは今の騒ぎで人が集まって来たことを気にしながら言った。
「あの、出来れば内密の話をしたいんだけど……」
「わかりました。ところであなたは食事はしましたか?私達はこれからなのですが」
「あー、軽くは食べて来たけど」
「そうですか。では、一緒に食事をしてその後、私達の部屋で話を聞くというのでどうですか?」
「ええ、わかったわ」
ということで、サラ達は宿屋に向かい、一階の酒場のいつものテーブルでイーダと食事をすることにした。
そのテーブルは四人席であり、一人余ることになるが、ヴィヴィは席を埋めるために座っているだけで自身は食事をしないので、自分の席をイーダに譲ると先に部屋へ戻った。
客の多くは冒険者でリサヴィのことを知っていたし、リサヴィに会えるかもと思いこの店を選んだ者達もいた。
彼らはリサヴィと一緒にやって来た女魔術士に興味深々でさり気なく聞き耳を立てていた。
そんな中で、豪快にドアを開けて入って来る者達がいた。
クズである。
先程、強引な勧誘していた絡みクズ達である。
彼らは一旦はその場から離れたものの、ヴィヴィにぶっ飛ばされた仲間を起こして後を追って来たのだ。
あれだけ拒否されたにも拘らずまだイーダを諦めていなかったこともあるが、イーダがリサヴィにする話がおいしい儲け話かもしれないと思ったのだった。
行き先は盗賊が後をつけるまでもない。
リサヴィがマルコで宿泊する宿屋はいつも同じで周知の事実であったからだ。
彼らは皆の注目を浴びたことに一瞬驚いたものの、素知らぬフリをしてリサヴィに近いテーブルに着く。
そのテーブルには先客がおり、強引な相席に先客が文句を言うと「静かにしろっ話が聞こえねえだろっ」と自分勝手な事を言った。
先客もリサヴィの話に興味があったので渋々黙った。
サラ達はやって来たクズが先程の絡みクズだと気づいていた。
顔を覚えていたわけではなく、一人が顔を腫らしていたからだ。
それを見てヴィヴィにぶっ飛ばされたクズだと気づいたのだ。
絡みクズ達は他の客と違い、「盗み聞きしてるぜ!」と誰でもすぐわかるほど露骨に体を寄せてきた。
強制相席になった者達は絡みクズと仲間だと思われたくないので小声で「別のテーブルに行け」と言うがクズが人の言う事を聞くわけがない。
店の主人は絡みクズ達が一番安い酒とはいえ注文をしたので不満顔をしながらも文句は言わなかった。
サラ達は絡みクズは言うまでもなく他の客達も聞き耳を立てていることに気付いていたので当初の予定通り差し障りのない話しかしなかった。
サラがイーダにお婆さんの依頼でマルコにいなかったときの事を尋ねた。
イーダがお婆さんの鉱山へ連行されるクズの様子を面白おかしく語るとあちこちで笑いが起きた。
中でも絡みクズ達が大笑いしていた。
演技ではなく、本気で心から笑っているようだった。
そのクズ達と同じクズである自覚が皆無とわかり、呆れた顔をしたのはサラ達だけではなかった。
食事が終わり、リサヴィとイーダが二階のリサヴィの部屋に向かう。
当然のように後をついて来ようとした絡みクズ達だが部屋をとっていない部外者だったので店員に止められる。
サラ達は背後で「ざけんな!」のハモる声がしたが気にしなかった。
イーダはリサヴィの泊まっている部屋の内装が豪華なのを見て少し引いた顔で呟いた。
「……噂どおりすごい部屋ね」
「噂になってますか?」
「ええ」
「別に私達が望んでこの部屋に泊まっているわけではありませんよ」
「宣伝でしょ、わかるわよ」
「わかってもらえてよかったです」
室内を見回しているイーダにリオが尋ねる。
「ヴェイグはランク上げた?」
「まだよ」
イーダはそう言ってすぐに説明不足と気づき補足する。
「あっ、でもね、Cランクに上がるだけの依頼ポイントは溜まってるわよ。昇格試験に受かる自信だってあるわ」
「そうなんだ」
「うん。ただ、一つ問題があってさ。実はユダスでパーティ組んでたメンバーの一人がまだEランクに上がれてなくってね」
「あっ、ユダスはEランク昇格に筆記試験があるんでしたねっ」
「そうでしたね。Eランクに上がるまで他のギルドでの依頼を受けられないのでしたか」
アリスとサラの言葉にイーダがうん、と頷く。
「あたいらがCランクに上がっちゃうとさ、今でさえランク差があるのにもっと広がっちゃうでしょ?それでグルタが、って、そいつの名はグルタって言うんだけど落ち込むんじゃないかって思ってさ。あたいとヴェイグはちょっと躊躇してるんだ」
「意外ですっ。ヴェイグさんてっ何かこうっ……はっきりは言いませんけどっ、自分勝手でっ、人のこと気にしたりしない人だと思ってましたっ」
「……はっきり言ってるけど」
「えへへっ」
「ぐふ、前置きしたことでマイルドになっていたな」
「ですねっ」
「いや、なってないでしょ……まあ、いいけど。あいつはさ、口悪いけど仲間思いなんだよ」
「そうなんですね」
「でね、あたいら、一度ユダスに戻ろうと思うんだ。でもどうしてもあんた達に聞きたいことがあったからさ」
「それはっ、イーダさん個人の話ですかっ?」
「いや、ヴェイグも関係があるんだけど、ほら、あいつ、リオに負けたでしょ?『勝負に負けて聞けるかよ!』って意地になっちゃってさあ。でも、あたいは折角ここまで来たんだからさ、ダメ元でも聞いてみたいと思って会いに来たんだ」
そう言ってイーダがリオを見た。
そして思う。
(やっぱり、リオはリオンに似ているわ)




