573話 リムーバルダガー その1
魔術士ギルドに訪れるとすぐにクレッジ博士が現れてリサヴィを試験室に案内した。
クレッジ博士が新たに開発した魔道具は二つあり、形はサークレットとダガーだった。
「息抜きで作った」
「……私達はあなたの息抜きのために呼ばれたのですか?」
サラの嫌味をクレッジ博士はスルー。
「この魔道具の名前はリムーバルダガーだ。サークレットとセットで使用する。サークレットでリムーバルダガーをコントロールするのだ」
魔道具が武器だったからか、珍しく?話を聞いていたリオがクレッジ博士に質問する。
「このサークレットが魔装士の仮面の役割をするんだ?」
「うむ」
「ダガーの刃は交換式?」
「うむ。消耗品だからな」
クレッジ博士がヴィヴィを見た。
「さあ、ヴィヴィ!こいつをちょっと使ってみてくれ。そして俺様を褒め称えてくれ!『流石サイファ・ヘイダインの再来だ』とな!」
「ぐふ……」
ヴィヴィはクレッジ博士にちょっと引きながらもサークレットとリムーバルダガーを手に取り、いろんな角度から観察してから尋ねる。
「……ぐふ。これは魔装具と併用が可能なのか?」
「仮面と同時に使用できるかということなら無理だぞ」
「ぐふ、なら断る」
そう言って手にしていたリムーバルダガーとサークレットを机の上に戻した。
「おいおいケチくさいこと言うな。わざわざ呼んでやったんだぞ」
「ぐふ、私達はわざわざ来てやったんだぞ」
「「……」」
「こっちは依頼だぞ」
「ぐふ、あんな依頼料では子供も受けんぞ」
「だが、来ただろ」
「ぐふ、暇つぶしだ」
「「……」」
ヴィヴィはため息をついて言った。
「ぐふ、私はお前を買い被りすぎて過ぎていたようだな」
「なんだと!?」
「ぐふ、私はてっきりリアクティブバリアの解析が終わって再現したのかと期待していたのだがな」
「ああっ、確かにっ」
ヴィヴィの意見にアリスが同意する。
ヴィヴィの言葉を聞き、クレッジ博士は不満顔をして言った。
「俺も解析をしたかったんだ。だがな、上の奴らがクズゴーレムを壊したことをなんでか怒っててな。解析する前に持ってかれた」
「なんでか、ではないと思いますが」
「ですねっ。高額で買い取ったものを壊したら誰だって怒りますよっ」
「ぐふ、魔装士の新装備、スローランスだったか、あれもばかばか撃っていたが高かったのではないか?」
「知らん」
クレッジ博士は金をいくら使おうと気にも留めない、研究者の鏡?のように堂々とした態度で答えた。
サラはクレッジ博士の金銭感覚の無さに呆れる。
「博士、お金は有限ですよ。湯水のように使うから……」
「ええい!うるさい!あれは仕方がないことだったのだ。魔術士ギルドの秘密保持のためにな!」
そう言ったクレッジ博士の顔はなんか偉そうだった。
「……だめだこりゃ」
「ですねっ」
クレッジ博士は皆から金使いが荒いことを非難されて反論する。
「俺様だって少しは考えている!」
「……本当ですか?」
「お前達への依頼料を減らしただろうが」
「「「「……」」」」
サラ達の冷たい視線を受け、流石のクレッジ博士も今のは失言だったと気付いた。
慌てて補足する。
「ほ、他に削るとこがなかったんだ!」
そこへタイミングよく?メアリーが菓子の包みを持ってやって来た。
「博士、買って来ましたよ」
その包みを見てクレッジ博士は今までのやり取りを綺麗さっぱり忘れる。
「うむ、ご苦労」
「こういう私用のお使いは本当にこれっきりにして下さいよ。私にも仕事があるんですから」
「うむ?そう言いながらもちゃっかり自分の分も買っているのではないか?」
「そ、そそそそんなことないですよ!」
メアリーの動揺は半端なかった。
「あなたは何でもやるのですね」
「はあ。私はまだ下っ端ですので」
「あれっ?でもっ部門が違うのではっ?」
「その、誰もクレッジ博士の相手をしたがらなくて、って、私だってやりたいわけではないですよ!前回私が上手く立ち回れたからと強引に押し付けられたのです」
メアリーは本人の前で堂々と言い放ったが、当のクレッジ博士は気にしなかった。
話を聞いていなかっただけかもしれない。
サラが同情した目で言った。
「大変ですね」
「ありがとうございます!」
メアリーがサラの手をぎゅっと握り締め、目をうるうるさせる。
アリスが「あっ!」と声を上げてメアリーが持って来た菓子の包みに書かれた商品名を指差した。
「それってっ!並ばないと買えないっていう一個銀貨一枚もする高級お菓子じゃないですかっ!?」
「……ぐふ、早速削減するものが見つかったな」
クレッジ博士がヴィヴィの言葉に逆ギレする。
「何を言うか!開発には頭を使うんだ!疲労回復には甘い物が必須なのだ!俺様の高級脳の回復ともなればこれでもまだ足りないくらいだ!!」
「「「「……」」」」
「それに既に買ってしまったものはどうしようもないだろう」
「ぐふ、今日買ったのだろうが」
「私達に依頼を出した後で、ですね」
「安心しろ!こんなこともあろうかとお前らの分もある!」
クレッジ博士の視線を受けてメアリーがお菓子を取り出す。
合計六個。
確かに人数分あったが、クレッジ博士がたった一個で満足するとは思えない。
博士がボソリと呟くのが聞こえた。
「許せアパラパ」
「「「「……」」」」
やはり当初の予定では複数個食べる予定だったようだ。
クレッジが三個、ここにはいないがアパラパが二個、メアリーが一個と言ったところか。
クレッジ博士の声は独り言にしては大きかった。
皆に聞こえたが誰も反応しなかった。
お菓子を最初に手に取ったのはリオだった。
そしてパクリとひと口食べる。
その表情はいつもの無表情でアパラパの分を結果的に奪うことになった事を申し訳ないと思う気持ちは全くなかった。
次に手に取ったのはアリスだった。
パクリと一口食べて「リオさんっおいしいですねっ」とこれまたアパラパに済まないと思う気持ちは皆無だった。
「これはもともと私の分でしたので」
誰に対しての言い訳か、メアリーは少し小さめの声でそう呟いてからパクリ。
更にサラが無言で手に取りパクリ。
その様子を観察していたクレッジ博士も菓子を手に取って言った。
「うむ、さすが噂に疑わぬ神経の持ち主達だな」
サラ達は思わず吹きそうになった。
「お前が言うな!」である。
「ぐふ、私の分をアッパラパーにやるといい」
一人手をつけていなかったヴィヴィが言った。
クレッジ博士が口をもぐもぐさせながら言った。
「お前、意外にいい奴なんだな」
「ぐふ、意外ではないな」
「あなたはいつも食べないでしょう!」
ちなみにヴィヴィがアパラパの名前を間違えて呼んだことを誰も指摘しなかった。




