571話 インターミッション その4(リオ視点)
僕が旅を始めるキッカケは金色のガルザヘッサだ。
この魔物が僕の住む村を滅ぼし、家族も殺した。
そこへやって来たBランク冒険者のパーティ、ウィンドのリーダーであるベルフィに一緒に連れて行って欲しいと頼んだんだ。
ベルフィは僕と同じ境遇だった。
村を滅ぼされ、恋人を失ったベルフィは金色のガルザヘッサを殺すために探し求めていたんだ。
だからベルフィは僕も同じ思いだと思って同行を許してくれて、冒険者になれるようにと剣の稽古をしてくれたのだろう。
でも、僕には復讐したいという気持ちは全くなかった。
ただ、もう一度金色のガルザヘッサを見てみたいと思っただけだった。
旅するうちに神官のサラと魔装士のヴィヴィが仲間になった。
当初はウィンドに加入するはずだったけど、冒険者ランクが違いすぎるということで僕ら三人でパーティを組むことにした。
その名はリサヴィ。
僕らの頭文字をとったものだ。
エルフのファフに出会い、一緒に依頼を受けた。
エルフ族は暗黒大戦以降、姿をほとんど見せなくなり、とても珍しい存在らしい。
そんな彼女と僕は初対面ではない気がした。
僕は金色のガルザヘッサに襲われる以前の記憶がなく、僕を庇って死んだ父親のこと以外、家族のことを覚えていない。
それでもしかしてファフが母親かもと思い尋ねると否定されたが、強く抱きしめられた。
やっぱり、この温もりには覚えがある気がするけど思い出せなかった。
依頼完了後に別れてから会っていないが、また出会う気はしている。
ウィンドの、名前は忘れたけど副リーダーがサラに好意を持ったようだった。
「空気が読めない」とよく言われる僕だけど、僕にもわかった。
みんながそう話してたからだ。
確かに言われて見れば意味もなく、隊列を崩してベルフィに怒鳴られてもサラの側にやって来た。
サラは僕のときとは違い、冒険者の先輩ということで殴るのを遠慮していたようだけど、そのうち遠慮もなくなり、殴るようになった。
僕は痛覚神経が鈍いので殴られても痛みを感じないけど、副リーダーは痛いはずだった。
しかし、その顔はなんか嬉しそうだった。
みんなの態度を見る限りその反応は異常なのだろう。
まあ、僕には関係ないけど。
金色のガルザヘッサは魔族だった。
真の姿は全く異なっていた。
それを見て、僕の中に激しい感情が湧き上がった。
怒りだ。
それと同時に僕の中でキーン、と鎖のようなものがいくつも千切れる音がした。
その音はこれまでも何度か聞いたことがあり、その都度、僕に変化を与えていた気がする。
何がどうとは詳しく言えない感覚的なものだったけど、今回は違った。
僕は力が上がるのがはっきりと自覚できた。
金色のガルザヘッサを倒した後、ウィンドと話をして当初予定していたウィンドに入るという話はなくなり、別行動を取ることにした。
サラの希望だ。
主な理由は副リーダーを嫌ってのことだ。
金色のガルザヘッサが倒れた今、僕がウィンドと一緒に行動する理由はなくなったし、僕もあの無能はいらない。
ヴィヴィも副リーダーを嫌っているので、このまま一緒に行動していたら僕ら三人の誰かが殺してしまうだろう。
いや、サイファのラビリンスで手に入れたナンバーズの剣を副リーダーはサンドクリーナーと遊んでて無くしたことにすごく腹を立てていたからヴィヴィが一番可能性が高いかな。
その副リーダーは一人反対してたけど最後はなんかよくわからないことを叫びながら渓谷にダイブして川に落ちて消えた。
しばらくして再会した気がするけど興味がないのでどうなったのか知らない。
ヴィヴィが「死んだ」と言ってたような気もするかな。
ウィンドと別れた僕達はフルモロ大迷宮に向かった。
ウィンドの魔術士ナックのお勧めだったんだ。
そこで僕はナックに聞いたフルモロの名の由来を語ろうとしたけどサラに阻止された。
どうやらその話はサラの嫌な思い出に触れるからみたいだ。
フルモロ大迷宮には盗賊が巣食っていた。
それに腹を立てたサラが問答無用でその盗賊達を殺した。
ヴィヴィも容赦なく殺した。
僕も殺した。
サラは散々自分は殺しておいて僕が人を殺したことを心配したようだ。
僕はサラの考えていることがさっぱりわからない。
人と魔物とどう違うのか?
フルモロの件はちょっとした騒ぎになったようだけど僕にはどうでもいい。
それよりも魔界とこの地を繋ぐという魔界の門がある六十四階層へ行けなかったのが残念だ。
マルコの街に着くと無能のギルマスがギルドのルール無視で本来参加させてはいけないランクの者達まで強制依頼に参加させた結果、大勢の冒険者が死んだ。
リサヴィのメンバーは全員無事だったけど、この強制依頼は失敗となり、僕達初めての依頼失敗になった。
この依頼がきっかけで知り合った神官のアリエ……、アンリ……、ああ、アリスがパーティに加わった。
僕は何故か彼女の名前を間違えて呼んでいるようだ。
自分では間違っているとは思ってないんだけど、まあ、間違えた時にはナックの言葉を借りることにしている。
「うん、知ってた」
だ。
マルコに来てから冒険者がよく絡んで来るようになった。
これまでもちょくちょくあったけど更にその頻度が高くなった。
どうやらサラが強制依頼ですごい力を見せた事でサラが神に名を告げる者が勇者になると思った者達が大勢いたようだ。
勇者になりたいと思わない僕には彼らの考えは理解できない。
考える気もない。
それ以外にもサラの力を利用すれば楽して金儲けが出来ると思った者達も集まって来た。
彼らはクズスキルのスペシャリストで真面目な冒険者から報酬を奪うのを得意とする、いわゆるクズ冒険者達だ。
集まってくる理由の一つにヴィヴィ曰く、サラとアリスもかな、“クズコレクター能力”を発動しているからだそうだ。
本人達は必死に否定しているけど。
それにしても冒険者って自分の力だけで依頼をこなすものじゃないのかな?
力がないならさっさと冒険者を辞めて他の職につけばいいのに。
女性だけのパーティ、リトルフラワーと共同依頼を受けることになった。
リーダーのリリスはナックに「すごいテクニックを持っている」と言わせた戦士だったので僕は少し興味を持っていた。
確かに強く、同じBランク冒険者のベルフィに匹敵する力を持っていた。
だけど、それだけだ。
ナックは絶賛したが、そこまでの力ではないと思った。
ガブリムロード程度じゃ本気を出す気にはならなかったのかもしれない。
力を隠しているのかと思い、本人に聞こうとしたらサラとアリスに思いっきり止められた。
「そう思うほどにあなたが強くなったのだ」と。
その言葉に僕は納得した。
二人の必死さにヴィヴィが「ぐふぐふ」と笑っているのがちょっと気になったけど。
サラの勧めでベルダに住む六英雄の一人、ユーフィに会った。
僕はこの老婆を見た瞬間、ある言葉が頭を過った。
オールレンジババア。
何故、こんな言葉が浮かんだのかわからない。
だけど、僕はユーフィの館に来た時から既視感を覚えていた。
ここに来たことがある、と。
過去の記憶のない僕がそれが事実か確かめる方法はユーフィ本人に尋ねるしかないけど、彼女は曖昧な返事しかしなかった。
僕の旅の最初の目的は金色のガルザヘッサを見ることだったけど、それを果たした今はラグナを身につけることに変わっていた。
そうしろと僕の心の中で叫ぶものがいるんだ。
特に拒否する理由もない。
今更村に戻って畑仕事をする気もない。
いや、違う。
その記憶はニセモノだ。
僕の本当の記憶じゃない。
会ったことのないユダスの冒険者ヴェイグの名を知っていて、同じ剣術を使えた事で少なくとも村人だった記憶はニセモノだと確信した。
ただ、僕が名を知っていたヴェイグとイーダは僕のことを知らなかったのが気になる。
僕は一体誰なのだろう?
姿が似ているというリオンが僕である可能性もあるけど、今の姿は彼らが会った時より若いらしいのでその可能性も低そうだ。
僕が誰なのかはラグナを身につければわかるかもしれない。
久しく聞いていないあの、キーン、という音が聞こえて新たに何かが解放されるはずだから。
そうでなくてもヒントくらいは得ることが出来るだろう。




