570話 魔王のマグ
宿屋の借りた部屋に戻るなり、ヴィヴィがリオに今後について相談を始めた。
「ぐふ、リオ」
「ん?」
「ぐふ、お前がラグナ使いになりたいという事はわかっているが、ラグナを身に付けるだけで良いというものではないぞ」
「どういうことかな?」
「ぐふ、ラグナは強力だ。その力に耐える武器も必要と言うことだ」
「ああ、確かにね。この剣……うん、だめだね」
リオはフォリオッドが作った剣を見つめながら言った。
「ぐふ、ラグナ使い探しと並行して強力な武器を手に入れることも考えておいた方がいいだろう」
「ヴィヴィは何か当てがあるのかな?」
「ぐふ、」
ヴィヴィが話すよりアリスの方が先だった。
「リオさんが使うならっ、やっぱりナンバーズですかねっ?」
「ナンバーズ……サイファのナンバーズか」
「ぐふ。それが一番である事は間違いないな」
「確かにナンバーズならラグナに耐えられるでしょう。今まで壊れた、という話を聞いたことがありませんからね」
「ですねっ」
「しかし、現在、その所在が明らかになっている物は王家の宝物庫に保管されていたり有名な冒険者の所有物です。まさかそれを奪うなんて言わないですよね?というかダメですよ」
「そうなんだ」
「『そうなんだ』ではありません」
「ぐふ。私達はそれ以外に一つ心当たりがあるだろう」
「……もしかして、カリスが失くしたナンバーズですか?」
「ああっ、確かっ”番号なし“でしたっけっ?」
「ぐふ。あのナンバーズはリオ自身が手に入れると言っていたしな」
「ああ、確かにね。そうなるとカルハンだね」
「ぐふ」
「しかし、あのナンバーズが刺さったサンドクリーナーを咥えて逃げたサンドクリーナーがどこにいるか分かりませんよ。もしかしたら砂漠のどこか埋もれた可能性もあります」
「ぐふ。その可能性もあるが、奪うことなく、当てもなくナンバーズを探すよりはいいだろう」
「そうだね」
「……あっ」
「どうしましたアリス?」
「あのっ、とりあえずフェランに行ってみませんかっ?ナンバーズと言わなくても強力な剣が手に入るかも知れませんよっ」
「フェランか。そうだね。この剣を作ったフォロはフェランで修行したって言ってたし、これよりもっといい剣が手に入るかもね」
「それにフェランならっ強力な剣を求めて多くの腕の立つ戦士が集まってくるはずですからっ、ラグナ使いも見つかるかも知れませんよっ」
「確かに」
サラはカルハンへ行くのは乗り気ではなかったのでアリスの提案に大賛成だった。
先の異端審問機関との戦いにより壊れた関係の修復が出来ていないのだ。
そのため、カルハン国内にある第六神殿、およびカルハン各地にある教会の使用許可は未だに出ていないし、布教活動も禁止されている。
冒険者の神官が国内で活動することは冒険者ギルドの説得で許可されているとはいえ、国民の目も冷たい。
(まあ、アリスはその事を考えて言ったわけではないでしょうけど)
「ぐふ……」
「ヴィヴィは不満ですか?」
「ぐふ、いや。問題ない。アリスの言う通りだな」
「えへへっ」
アリスが褒められて満更でもない顔をする。
「じゃ、最初にフェランに行こう。そこでいい武器が手に入らなかったらカルハンに行ってあのナンバーズを探そう」
「はい」
「はいっ」
「ぐふ」
世界は魔族によって滅びようとしていた。
サラが空を見上げると月が出ていた。
血のように赤く染まった月が。
サラはこれが未来予知であると察した。
(私の行動は無駄だった!?無駄に終わるの!?)
魔族との戦いは続いており、魔族側が優勢なのは比べるまでもなかった。
(この未来が現実になりつつある!?)
動揺するサラの前に魔王が現れた。
真紅に染まる瞳をした魔王。
前回とは違い、今回は疑いようもなくリオその人だとわかる。
何故か?
それは魔王の姿が今のリオとそれほど変わっていないからだ。
魔王の周りにはかつての仲間が力無く横たわっていた。
(私が選択を間違った!?そのせいでリオが魔王になるのが早まったというの!?)
魔王が薄笑いを浮かべながらサラの心を読んだかのような言葉を発する。
「運命は変わらない。ただの人間であるお前では変えられない」
「!!」
サラは魔王の表情に違和感を覚えた。
最初の未来予知で出会った魔王はサラに憎しみの籠った目を向けて来た。
しかし、今、目の前の魔王にはそれが感じられない。
だからといって親しみを込めた目をしているというわけではない。
単なる知り合い、といった感じに見える。
サラはその事にほっとしたのと同時に寂しくも感じていた。
その思いを表に出さずに反論する。
「そんなことはないわ!リオ!あなたを魔王の呪縛から解放してみせる!」
サラの強がりに魔王の表情が狂喜に歪む。
「……くくく、ははははは!」
魔王の笑いが世界を揺るがす。
世界が魔王に屈服したかのように。
魔王の笑いに呼応したかのように死んでいた仲間達が次々と立ち上がり、各々手にした武器をサラに向ける。
その目は生前と異なり真紅に染まっていたが、生気に満ちていた。
アンデッドでもメイデスの神官ロシェルが作り出した出来損ないでもなく、本当に蘇ったのだとわかった。
「死者蘇生!?」
(魔王は死者すら蘇らせるというの!?これではまるで神じゃない!?)
サラの心にどこかで聞いた、あるいはこの先聞くであろう吟遊詩人の詩が響く。
かつて世界を支配せし魔界の王あり
その者、自らを魔王と称す
魔王、人知れず姿を消すが滅ばず
時を経て人の子として再び姿を現し、
その身を縛りし見えない鎖を断ちて力を解放す
魔王の一部より造られしマグは輝きを失わず、
幾年幾月過ぎ去りてその者の元に集う
その者、マグを手にし、怒り、喜び、悲しみ、そして憎しみを糧として魔王とならん
魔王の力、以前にも増して強大なり
その力、生と死の境さえ取り払い、
世界、混沌に帰す
その詩を受けてサラは魔王が持つ、彼の目と同じ色の真紅の刃の魔剣を睨みつける。
(あの剣がマグ!あれがリオを魔王にする!条件が変わったんだわ!私の行動は全くの無駄ではなかった!マグさえなければリオは魔王にはならないんだわ!)
サラは魔王に向かって叫んだ。
「リオ!私は諦めないわ!私はあなたを絶対に魔王にさせないわ!!」
魔王の魔剣がゆっくりと振り上げられる。
「そうかい。楽しみにしてるよ、サラ」
魔王の魔剣がサラに振り下ろされる。
サラは絶叫した。
悪夢はまだ終わらない。
第4部完です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
気づけばクズの話ばかりになってしまい、途中でタイトルを変更することになりました。
「俺らの力はまだまだこんなもんじゃねえぜ!」とクズ達が騒いでいるのですが、本筋に戻れなくなりそうなので切り上げてストーリーを進めることにします。(と言っても今後まったく出てこないわけではないです)
第5部は旅の終わり編となります。
魔族の侵攻が始まり、魔王が出現します。
それに対抗するために勇者も誕生します。
そして、リサヴィ最後の戦いとなります。
……たぶん。
引き続き、読んでいただけると嬉しいです。
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