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57話 短剣投げ

 ファフの言う通り、リオの剣の腕前は目に見えて上達していた。

 こうなってはファフの言う事を認めないわけにはいかなかった。

 ベルフィはサラの方がリオの相手に向いていると言ったが、それはあくまでもベルフィと比較しての事で決してサラが教え上手と言うわけではなかったのだ。

 ファフの指導を受けたリオは剣の腕前だけならサラとほぼ互角といってよいが、盾を扱うサラの方がまだ上であった。

 もし、ファフの剣の腕前がもっとあったらサラは"今の戦い方"では勝てなかったであろう。

 しかし、サラを超えるのも時間の問題のように思われた。



 サラは今回の報酬でリオが弓を買うものとばかり思っていたが、当のリオはその素振りすら見せなかった。

 

「リオ、弓は買わないのですか?」

「ん?なんで?」

「なんでと言われると困るのですが、弓の才能があるってファフに褒められていたではないですか。実際、三体のリッキーを仕留めましたし、とても初心者とは思えませんでした」

「そうなんだ」

「いえ、そこは『そうなんだ』ではありません、って、それは置いといて念願の長距離攻撃の手段を得られるのですよ?ベルフィもきっと喜ぶと思いますが」

「うーん、でも弓はもういいかな」

「は?」

「あれば使うけど欲しいとは思わないんだ」

「そ、そうですか。まあ、タダではありませんし、矢は消耗品ですから無理強いしませんが……」

「どうせなら魔法がいいかな」

「いきなり無理を言いますね」

「あ、短剣でもいいかな。そうだヴィヴィ、僕に短剣の投げ方教えてくれない?」

「ぐふ?」

「ヴィヴィがガドターク倒した時カッコよかったんだよね。僕もアレやってみたいんだ」

(カッコよかった?やってみたい?……何かしら、とてもリオらしくない発言が続くのですけど……)


 ファフとの出会いがリオに変化をもたらしたのは間違いない。

 しかも未来の勇者として確実に成長している。

 嬉しい反面、それは魔王へ近づくことも意味するのでサラの心情は複雑だった。

 思わずリオをマジマジと見つめてしまい、ヴィヴィに「欲情したのかエロ神官」と言われる始末である。


「だ、誰がよ!」

「ぐふ、お前だ」

「欲情してませんし、エロ神官でもありません」


 サラに睨まれてもヴィヴィは素知らぬフリをする。

 

「ぐふ、投剣だったな。教えてやってもいいぞ」

「本当?」

「ぐふ。今度は私がサラを貶める番というわけだ」

「ん?」

「な、何を言ってるんですかあなたは!」

「ぐふ」


(今、絶対笑ったわね!このひねくれ魔装士が!)



 リオ達の新たな依頼は近くの森へ素材集めだ。

 依頼ランクはE。

 この森はウォルーやリッキーなど低ランクの魔物しか出現しないので低ランク冒険者が戦闘経験を積むのに丁度よかった。

 リオは短剣を三本購入し、腰のベルトに差していた。


 リオは短剣の投げ方をヴィヴィから手ほどきを受けているとウォルーが近づいて来るのが見えた。

 数は三。


「ぐふ。早速実戦だ」

「うん」

「私達は後ろで援護でいいですか?」

「うん、三頭なら僕一人でなんとかなるかな」

「頼もしくなりましたね」

「ぐふ」



 リオは右手に剣、左手に短剣を構えながらウォルーへゆっくりと近づいていく。

 ウォルーもリオへの歩みを止めない。

 と、ウォルーが走り出した。標的はもちろんリオ。

 リオは焦る事なく、近づいてきたウォルーに向かって短剣を放つ。

 が、短剣はウォルーへ届く前に地面に落ちた。

 ウォルーの突進は止まらない。

 リオは更にもう一本を手にしながら迫ったウォルーの攻撃を避け、その首を右手の剣で切り落とした。

 続いて襲いかかるウォルーの目に短剣を突き刺す。

 脳まで達したであろう一撃を受けてのたうち回る。

 最後の一頭の牙を剣で受け流し、ベルトから素早く短剣を引き抜くとその喉を掻っ切った。

 あっという間の出来事だった。

 

「見事です」


 サラは援護する暇もなかった。

 その表情は平静を保ちながらも内心は驚きでいっぱいだった。

 

(これがリオ?……今まで手を抜いてたんじゃないかと思ってしまうほどに強い)

 

 

「ちゃんとできたよ」

「ぐふ。上出来だ」

「ヴィヴィのおかげだよ」

「ぐふ」


 そんな二人のやりとりに水を差すサラ。

 

「何言ってるんですか!」

「ん?」

「ぐふ?」

「リオ、確かに今の戦いは見事でした。しかし、本来は短剣を投げて仕留めるのではなかったのですか?」

「あ、そうだった」

「……」

「なんですかヴィヴィ、その余計な事を、みたいな態度は?」

「ぐふ」


 ヴィヴィがそっぽを向く。

 

「やり直しだね。その前に」


 リオは短剣を回収した後で、ウォルーの処理を始める。


「私も手伝います」

「ありがとう」

「……」

「ヴィヴィ、あなたも手伝ってはどうですか」


 ヴィヴィは再びそっぽを向いた。

「ヴィヴィ!プリミティブの抜き取りくらいしなさい!」



 再びヴィヴィの手解きを受けるリオ。

 サラは彼らが視界に入る範囲で薬草などの素材の採集をする。

 ヴィヴィの事を信用していないからであって、間違っても迷子になる事を恐れての事ではない。

 しばらくして魔物が近づく気配を感じたので採集を中断して二人の元へ戻る。

 


「どうやらまたウォルーがやって来たみたいです。今度はさっきより多そうです」


 サラの言う通り今度は見える範囲でも五頭いるが、更に何頭か隠れているようだった。


「ぐふ」

「うん。今度は成功させるよ」

「少し多いので今度は私も戦います」

「うん」



 特に苦戦することもなくウォルーを撃退した。

 半数ほど仕留めたところで逃げていった。

 今回も短剣を放って仕留める事は出来なかった。

 


「どうやらヴィヴィも私の同類だったようですね」


 にっこり笑顔で言うサラ。

 

「……」


 気持ちヴィヴィの体が震えているように見える。 

 仮面の下でヴィヴィが悔しそうな顔をしているだろうことに満足するサラ。

 

(それにしてもリオが求めるものは尽くダメね。これが下手の横好きって言うのかしら……!!)


 サラはふと頭をよぎったことを確認しようと思った。


「リオ、あなたは弓が上手くなりたいと思っていましたか?」

「ん?別に」

「では剣は?」

「んー、今はどっちでもいいかな」

「今は、ですか?」

「うん、僕には剣の才能がなさそうだから」

「ではスリングは?」

「どうでもいいかな」


 サラはベルトにかけていたスリングを外す。

 

「リオ、ちょっと撃って見てくれませんか。そうですね、あの木を狙ってみてください

「わかった」


 リオはサラの突然の行動に疑問を口にすることなく、弾を受け取ると適当に狙い、適当に放つ。

 全ての動作が適当にしか見えなかったが、弾を放つ時の姿勢はサラが指導した時にした理想のものであった。

 そして弾は見事標的に命中した。


「あれ?当たった」


 放った当人が驚いていた。珍しく表情も僅かに変化していた。

 サラは確信した。


(……信じられないけど、興味のないものほど上手く扱える?教えた事も本人が気づいてないだけでしっかり身についているようね。こうなるとファフの指導がよかったのかも怪しくなってきたわ。にして何よこれっ!?)


 リオは興味ない事は覚えないとナックが言っており、サラもそう思っていた。

 だが、戦闘技術に限って言えば興味と正反対の結果が出るようだった。

 ヴィヴィもその事に気づいたようだ。

 

「ぐふ。リオ、またスリングに興味を持ったか?」

「ん?いや、もういいかな。ヴィヴィ、続きしよう」


 そう言いながらスリングをサラに返す。

 本人のみがその事に気づいていないようだった。


「ぐふ。今日はもう十分素材が集まったのではないか。今度の機会にしよう」

「わかった」


 リオはあっさり頷いた。

 ヴィヴィの本当の理由は異なるとわかっているが、指摘することはしなかった。

 ヴィヴィの言う通り素材は十分に集まったからだ。

 


 倒したウォルーは全てヴィヴィが難なく街まで運んだ。



 魔装士は”棺桶持ち“という蔑称がある。

 それは両肩に装備されたリムーバルバインダーが棺桶に似ているからだ。

 この盾の中には武器を格納しており、戦場において味方の下へ搬送するのが役目であるが、実際、搬送を終えて空になった盾に遺体を収めて運ぶこともあったので“棺桶持ち”はあながち間違いというわけでもない。

 このように魔装士はもともと搬送用に生まれたクラスなので荷物運びはお手のものである。

 パーティに魔装士がいるといないとでは運べるものの量が段違いであることから、魔装士を入れるパーティが増えてきている。

 

 これで性格が良ければ言うことなしなのに、とサラは心の中でつぶやくのだった。

 


 ギルドに素材を納め無事依頼は完了した。

 少しずつであるが確実にランクポイントが貯まりEランクまであと二十ポイントと迫った。ヴィヴィがランクポイントを放棄したのも大きかった。


(ヴィヴィもランクを上げるのに熱心ではないようね。本当に何を考えているのかわからないわ。……まあ、ヴィヴィも私の事をそう思ってるかもしれないけど)


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