569話 クズ達の指揮
クズ達はユダス古参冒険者の力が利用できないとわかり、自分達でパーティを組むことにした。
彼らのほとんどは元Cラーンク!冒険者である。
Fランクに降格しても力まで落ちたわけではないので戦力としては十分である!
……たぶん。
とは言え、いざパーティを組む時点になり、誰がリーダーになるかで揉めた。
彼らクズにとってリーダーとはメンバーに好き勝手に命令でき、受ける依頼とその報酬の配分を自由に決定できる権利を持つ。
そんなわけで誰もがリーダーになりたがり、譲らなかったのだ。
結局、パーティを組まずに同じ討伐依頼を受け、最も活躍した者をリーダーとすることで話がまとまった。
ちなみにこの結論を出すので一日が終わった。
翌朝。
六人の元Cランク(現在Fランク)クズ冒険者が意気揚々とユダスの東にある魔の森へ出かけた。
森に入ってすぐに魔物、ウォルーが現れた。
ウォルーはEランクにカテゴライズされる魔物であるが、魔の森に出現する魔物は強く、一ランク上のDランク相当の力を持っている。
その分、プリミティブの価値も他の地域で出現するものより高い。
その数は六でクズ冒険者達と同じ数だ。
ウォルーが強くなっているとは言え、彼らの元のランクからすれば勝てるはずだった。
実際、彼ら自身もそう信じて疑っていなかった。
「「「「「「行けー!!」」」」」」
クズ達が一斉に仲間に号令を発した。
達、と書いた通り、言葉を発したのは一人ではなかった。
六人全員であった。
全員がリーダーに成り切り、こんなこともあろうかと昨夜こっそりと考えていたカッコいい(と自分では思っている)ポーズをしていた。
つまり、攻撃を仕掛ける者は一人もいなかった。
それに気づいた彼らは「お前が行け!」となすりつけ合いを始める。
いうまでもなく、ウォルーがクズの茶番劇に付き合うはずもない。
ウォルー達が危機感なく言い争いをしているクズ達に容赦なく襲いかかった。
その様子を少し離れた木の上から見ている者がいた。
ユダス古参冒険者の盗賊だ。
その下には彼のパーティが待機していた。
この場面だけを見るとクズスキル“ごっつあんです”狙いのように見えるが全く違う。
彼らは戦バカなのでクズ達が“倒した”獲物を奪う気はない。
クズ達が“倒せなかった”獲物を狩るつもりなのだ。
何故そんな面倒な事をしているのか?
魔の森初心者のクズ達を助けるため、
なんてことは当然ない。
魔の森の魔物は賢く、強い者を襲わない。
だから雑魚のクズ達を餌にして、やって来た魔物を狩ろうとクズ達の後をつけて来たのだ。
クズ達の中には盗賊がいたが、彼らがつけていることに全く気づいていなかった。
クズ達がウォルーに一方的に攻撃されているのを木の上の盗賊が呆れた顔で見ながら呟いた。
「……ギャグに命をかけてるのか、あいつら」
彼のいうギャグとは全員で指揮したことだ。
あれでウォルーに先手を取られた。
あれさえなければ一方的な戦いにはならなかっただろう。
……たぶん。
盗賊の独り言は下にいる仲間に聞こえた。
「何言ってんだ?」
「あ?ああ、実はな……」
盗賊が状況を仲間に説明する。
「確かにギャグだな」
「違いない。観客いねえのにな」
「ここにいるだろう」
そう言って盗賊が自身を指差す。
「おおっ、そういやそうだな」
「てか、もう半分になっちまったぞ。あいつら『Cラーンク!』じゃなかったか?」
盗賊がバカにするようにクズ達の口調を真似して言った。
「ランクなんか意味ねえだろ」
笑いながら戦いを見ていた盗賊が表情を変える。
「おっ、やばっ、全滅しそうだぞ」
「おいおい、もうかよっ!?」
リーダーが叫んだ。
「よしっ、そろそろ行くぞ!」
「「「おう!!」」」
ユダス古参冒険者達が駆けつけウォルーを撃退した。
クズの生き残りは一人だけだった。
クズは助けられたことに感謝することなく、仲間、と言っていいのか微妙だが、一緒に来たクズ達の死体を漁りながらウォルーの所有権を主張した。
一体も倒していないのにである!
ユダス古参冒険者達はそのクズの態度を見ても怒らなかった。
彼らはこれまでもクズを餌にして狩りをしていたのでどういう奴らか知っていたのである。
彼らはクズの横暴に怒ることなく、要求通りに獲物を分けてやった。
明日以降もこのクズに餌として頑張ってもらうためである!
ユダスにやって来たクズ冒険者達は日に日に数を減らしていった。
冒険者を諦め、ユダスから逃げ出すクズも少なくなかった。
しかし、中にはユダスでの生活に適応する者もいた。
そのほとんどは低ランク、元EやFの者達であった。
クズ経験が浅かったので心身が染まりきっておらず立ち直る事が出来たのだ。
そう、彼らはもうクズではなかった。
真の冒険者だった。
新たな戦バカの誕生でもあった。
この年、ユダスの冒険者死亡数は新記録を更新する事になる。
それにクズ冒険者達が貢献したことは言うまでもない。
だが、それは話題にならなかった。
この年、そんな事を気にする余裕のない出来事が起きたからだ。
暗黒大戦以来の大規模な魔族の侵攻が始まったのである。




