567話 家賃踏み倒しクズの末路
ギルドで依頼完了処理を終えた後、サラがモモに尋ねる。
「そういえば捕まえたクズ達はどうなったのですか?」
「皆さんが呼び寄せたクズ冒険者達のことですね」
「あなた達の罠に引っかかった、の間違いです」
すかさずサラがモモの言葉を訂正する。
「まあ、どちらでもいいじゃないですか」
「よくありません」
「まあまあ。ーーここで話すのもなんですから奥でお話ししましょう」
確かにカウンターで話す話ではないかもしれない。
その情報が知りたいのかはともかく、モモとサラ達の話を盗み聞きしている者達がいるのは確かだった。
モモはカウンター業務を他の者と代わり、リサヴィを会議室へ案内する。
皆が席につくのを確認して話の続きを始めた。
「まず、あのお方の家賃を踏み倒したクズ達ですが、あのお方が所有する鉱山で働いて借金を返済することになりました。もう鉱山に到着しているのではないでしょうか」
「ぐふ、全員か?」
「はい、捕らえた者全員です」
「ぐふ、抵抗しなかったか?相手は楽して儲けることに命をかけるクズだぞ。肉体労働をすんなり受け入れるとは思えんが」
「はい、必至に抵抗しましたよ。『依頼をこなして返済するぜ!』と皆が揃って言い張りましたが却下しました。クズスキルで真面目な冒険者に迷惑かけるのがわかっていますからね。それに彼らは全く自覚がありませんでしたが、家賃踏み倒しは犯罪です。レリティア王国の法に則って裁かれるのとどちらがいいかと選択を迫ったら快諾してくれました」
「「「……」」」
アリスが彼らの待遇について尋ねる。
「やっぱり低賃金ですかっ?」
「いえ、普通らしいですよ」
「えっ?そうなんですかっ?」
「ぐふ、それで終わりではあるまい」
「流石ヴィヴィさんですね」
「ぐふ、何が流石なのだ?」
モモはヴィヴィの質問に答える事なく言葉を続けた。
「彼らが踏み倒した家賃はお婆さんが立て替えた事になっていましてその金利がすごく高かったんです。それで返済額は何倍にも膨れ上がっているそうで、毎月の給料から返済することになるのですが、返済分を差し引くと手元に残るお金は雀の涙程度だそうです」
「ぐふ」
「自業自得ですね」
「はい」
「冒険者ギルドを退会させたのですか?」
「いえ、そこはあの方の温情で」
「ぐふ、意外だな」
「ただ、普通に働いたら全額返済に三年くらいはかかるみたいですね」
「「「「……」」」」
冒険者は依頼を受けないと降格する。
三年も依頼を受けなければ降格どころか、冒険者をする意思なしとみて退会処分となる。
つまり、ブラック企業並みに働いて返済していかないと全額返済したときには退会処分になっているということだ。
ヴィヴィが他のクズ、お婆さんと無関係のクズについて尋ねる。
「ぐふ、あのババアとは関係ないクズもいただろう。奴らはどうした?当然、ババアに膨大な慰謝料を求めて来たのではないか?」
「はい。しかし、彼らはあのお方の依頼に“不気味な踊り”で乱入して邪魔したという事実がありますので却下しました」
「ぐふ、その踊りにはババアが手配した旅芸人も関係していたはずだが」
「順番が違います。彼らは旅芸人が参加する前から踊っていたのでは?」
「確かにそうでしたね」
「そんなわけで無関係のクズ達の“多く”は文句を言いながら去って行きました」
「多くは、ですか」
「はい。彼らの中に不正合格者がいましたので、その者達はギルド本部に引き渡して対応をお任せすることになりました」
「そうですか」
「これに懲りてもうクズ達はマルコに近づかないでしょう!」
そう言ったモモはとても嬉しそうだった。
アリスが疑問に思っていた事を口にする。
「それにしてもっ、クズが多すぎませんかっ?」
「ぐふ、確かにな。一時期減った気がしたのだが、また増えて来た気がするな」
モモの表情が曇る。
「実は……これは内密でお願いしたいのですが、不正合格させてクズ冒険者を生産しているギルドがあるようなのです」
「ぐふ?ここだろ」
ヴィヴィの言葉にモモが笑って手を振る。
「もうヴィヴィさん。何を言ってるんですか。冗談ばっかりやめてくださいよ」
モモはノーダメージであった。
「……ぐふ」
「なんで私を見るんですか」
サラがヴィヴィを睨む。
「ぐふ、気のせいだ」
「……」
「そう言えばっ、前にFランク冒険者の不正合格者がいましたよねっ」
皆の視線がモモに集中する。
「もう皆さんたら、それはマルコじゃないですよ。皆さんのマルコがそんなことするわけないじゃないですかあ」
やっぱりモモはノーダメージだった。
モモはもうその件は終わりとばかりに話を変えた。
「そうそう、次の依頼なんですが、」
「ちょっと待った!」
モモが手にした依頼書をサラが取り上げる。
「酷いですよサラさん」
「酷いのはあなたです。私達は依頼を終えたばかりで疲れているのです」
「え?でも平和な旅だったと他の冒険者の方達は言っていましたよ。一度も襲撃に遭わなかったと」
「他の人はともかく、私はあの人の相手をしていて精神的に疲れているのです!!」
「そうなんですか?とても仲良くやっていたと聞いていましたが」
サラの目が据わる。
「……ほう。誰がそんなことを?名前を教えなさい」
「それはちょっと……守秘義務がありますので」
「こんがきゃ……」
「サラさんっ、本音ダダ漏れですよっ」
「ぐふ、相変わらずお前達は仲がいいな」
「どこがよ!?」




