561話 窮地に立つリサヴィ
ところで、中央広場に集まったクズ達はサラ達にキメ顔を向けたが、クズ全員が見せることが出来たわけではない。
サラ達の泊まる宿屋の位置から来る方向はわかっても最終的にどこを向くかわからなかったので、クズ達は中央広場を囲むように散らばっていたのである。
運悪く、サラ達の背後など視界に入らない位置にいたクズ達は自分達の行動が無意味だったとすぐに気づいた。(いや、行動を起こす前に気づけよ)
もちろん、それで、
「運が悪かったな」
で終わらせるはずがない。
彼らはサラ達の正面へ移動すると腕を組み、仁王立ちして辟易しているサラ達にキメ顔を見せつけた。
彼らが移動して来たせいでもともとサラ達の正面にいたクズ達は彼らの背後になり、サラ達に自慢のポーズとキメ顔を見せられなくなる。
当然、彼らは移動して来た者達に抗議の声を上げるが誰も気にしない。
何故ならクズだからである。
他人のことなど知った事ではなかった。
もともとその場にいた、後列になったクズ達が大人しく泣き寝入りするはずもなく、すぐさま行動を起こす。
前列のクズ達の腕と腕の隙間に肘をねじ込むと強引に前に出る。
そして腕を組み、仁王立ちしてキメ顔をした。
後列になった者達もやられっぱなしではない。
すぐさま、前列の股下を潜って強引に前に出る。
そして立ち上がるなり腕を組み、仁王立ちしてキメ顔をした。
再び後列になったクズ達は真ん中から左右に分かれ、外側から前に回り込む。
そして腕を組み、仁王立ちしてキメ顔。
以上の動作を彼らは繰り返し始める。
一糸乱れずに、である。
その様子を見ていた者達は彼らがあまりに息ぴったりなので前もって練習していたと思った。
だから、見物人の中には拍手する者達がいた。
一方、それを見たクズではない冒険者達からは、
「そんなもん練習する暇があるなら真面目に依頼受けろよ!」
とヤジが飛ぶ。
しかし、それは大間違いである。
彼らは打ち合わせなどしていない。
各々がその状況に合わせて行動しただけだ。
それが見事にぴたりと一致しただけであった!
ハモリクズに寄生していたスクウェイト・ベータもびっくりのシンクロ率であった。
クズ達が奇行を繰り返しながらサラ達に近づいて来る。
サラ達は呆れながらその分後退する。
クズ達の奇行にサラ達は慣れっこだったが、一緒に依頼を受ける冒険者達には刺激が強過ぎたようだ。
「な、なんですかこれっ!?」
「あ、あのク……人達は何で踊ってるんですか!?」
「気味が悪い!!」
怯えた表情をする低ランク冒険者達をヴィヴィが叱咤する。
「ぐふ!落ち着け!サラといたらこんな事は日常茶飯事だぞ」
「「「「「「は、はい!」」」」」」
「おいこら!」
彼らの奇行にその場にいた大道芸人達がインスピレーションを受けた。
即興で作曲して演奏を始める。
続いて踊り子達がサラ達の前にやって来ると歌って踊り出す。
踊り子の歌と踊りもクズ達の奇行をもとに即興で作ったものだ。
「くっくっくーずっ。くっくっくーずっ。くっくっくーずっ。くっくっくーずっ。クズー!!クズー!!クズー!!クズー!!」
簡単な歌と踊りの繰り返しなので誰でもすぐに覚えられる。
その場にいた陽気な見物人が一緒に歌い出し踊り出した。
クズ達も見物人に負けてなるものかとその曲に合わせて踊り歌い出す。
合同練習どころか、打ち合わせすらなしに息ぴったりやってのけるクズ達にサラ達は痺れて憧れた、
なんてわけはない。
お祭りが始まったかのように周囲が盛り上がる中、サラ達はその奇行を冷めた目で見ていた。
「……なにこれ?」
「……ぐふ、私達は劇団クズの結成の瞬間に立ち会ったのかもしれんな」
「ですねっ」
「そうなんだ」
「……そんなわけないでしょう」
踊り子達はクズ達の奇行に後退する動作を加えたため、クズ達とリサヴィとの距離は縮まる事はなく、一定の距離を保っていた。
しばらくして大道芸人の一部と化していたクズ達の中に本来の目的を思い出した者がいた。
踊り子達は「クズー!!」と叫ぶところで隣や自分を指差す動きをつけており、乗りに乗って踊っていたクズ達もその動きをしていたのだが、クズの一人が自分を指差したところではっ、と我に返った。
「……クズっー!!……って、やめろやめろ!!俺らは見せもんじゃねえ!!演奏をやめろ!!大体誰がクズだ!?誰が!!」
彼は見物人から「今更何を言ってんだ?」という視線を浴びるが、その叫び声は他のクズ達にも本来の目的を思い出させる。
大道芸人達は怒りを露わに武器を手にするクズ達を見て危険を感じた。
速攻で荷物をまとめるとリサヴィを盾にするようにその後ろに回ってぴゅーっ、と中央広場から逃げ出した。
こうしてクズ達の奇行は終わった。
だが、これはまだ始まりに過ぎなかった。




