559話 死神パーティ、夫婦の絆を断つ
リオの言葉を聞き、クズがため息をついた。
ため息をつきたいのはリオのはずなのだが。
「なあ、わかんだろ?」
「さっぱりだ」
リオがもう一度言うとクズが怒り出した。
「ざけんな!」
怒るべきはリオのはずなのだが、リオが何も言わないので代わりにヴィヴィがクズに言い返した。
「ぐふ、八百長で勝たせろと言っただけでなく、勝ったらリーダーになるとか、まったく話にならんな。その腐った脳みそを取り替えて出直してこい、いや、もう来なくていいぞクズ」
ヴィヴィの言葉にまたもクズが激怒する。
「ざけんな!誰がクズだ!?誰が!!」
「ぐふ、お前だ」
「ですねっ」
「ざけん……」
「いい加減にしなさい」
サラに睨まれたクズは言葉を続ける事ができなかった。
しかし、相手はクズパーティのリーダーを務めるほどのクズである。
それで諦めるわけはなかった。
「そう言ってやるなって」
クズは卑屈な笑みを浮かべながら言った。
自分の事なのに他人を庇うかのような口振りだった。
「実は俺よ、今よ、カカアの奴に見下されててよ。見直して欲しければリッキーキラーに勝てとか言いやがんだ」
サラ達は「このクズの嫁はそこまでこのクズの力を信用しているのか?」と思ったが、それが間違いであることが次にクズが発した言葉でわかった。
「それでよ、もし決闘に負けたら離婚するとか言いやがんだぜ?」
その嫁はこのクズと離婚する口実が欲しかったのだと察する。
もちろん、リオを除く。
「よかったね」
リオがどうでもいいように言うとクズは再び激怒する。
「馬鹿野郎!何がいいんだ!?」
クズがリオ達に説教を始める。
「大体、お前らわかってんのか!?お前らのせいでな!冒険者の離婚が増えてんだぞ!」
「は?」
「ぐふ?」
「はいっ?」
「そうなんだ」
最近、冒険者の離婚が増えているのは事実であったが、リサヴィが直接手を下したことはない。
リサヴィにちょっかいをかけた事がきっかけで死亡(あえて戦死とは言わない)したクズ達の事を言っているのだ。(よって正しくは離婚ではなく、死別である)
残された者達が可哀想だと思うかもしれないが実はそうでもない。
彼女ら(彼ら)はクズへの愛情などとうに消えていた。
別れないでいたのはその決断がなかなか出来ず、キッカケを探していたに過ぎない。
だから相方の死を知り、皆の前では泣いて見せたものの、陰では小躍りして喜んだものである。
そういうわけで、クズ達が別れるのは時間の問題だったのである。
ちなみに目の前のクズだが、浮気しているのが嫁にバレ、更に今回のパーティ追放がトドメとなって離婚を迫られていたのである。
クズが嫁と別れたくないのは嫁をまだ愛しているからではない。
息子がかわいいのとそれ以上に嫁の実家が金持ちだからだ。
「とうちゃんがんばれー!!」
息子の声援でクズは我に返る。
「ともかくっ、そういう事で頼むぞ!」
クズは言いたい事を言い終えるとリオの返事も聞かず、息子の声援に「おうっ!」と腕を振り上げて応えながら決闘するためにリオ達との距離をとる。
サラ達が呆れた顔でクズを見送っていると入れ違いに一人の冒険者がリオのところにやって来た。
リオ達は知る由もないが、彼はヴェイグの決闘の立会人をした者だった。
つまり、リサヴィ派である。
彼がその事をリオ達に告げる事はなかった。
リサヴィがリサヴィ派を認めていないことを知っていたからだ。
だが、そのままで終わるつもりはない。
いつか自分達の事をわかってくれると信じて待つことにしたのだ。
彼は憧れのリオと話せることに興奮していたが、その気持ちを必死に抑え込み、平静を装って尋ねる。
「リオ、あのクズとの決闘を受けるなら俺が立会人になろうか?」
「じゃ、よろしく」
リオはその冒険者にどうでもいいように答えた。
「おう、任せてくれ!」
その冒険者は満面の笑みで答えた。
サラ達はリオが決闘を受けるとわかり、リオのそばから離れた。
立会人が決闘のルールを説明後に大声で決闘開始の合図をする。
「始め!!」
クズが剣を構えるが、リオは剣を抜く素振りすら見せない。
「行くぞ!リッキーキラー!!」
クズは大声で叫ぶと左目をパチパチし、「八百長頼むぞ!」とリオに合図しながら向かって行く。
リオが剣を抜く様子がないことを全く疑問に思わない。
それどころか、
(実際に怪我してヤラセではない事を強調する気か!怪我は後でサラやアリエッタに治してもらえば済むしな。あいつ案外策士だな!)
などとおめでたい事を考えていた。
いや、それだけでは終わらず、更に妄想は膨れ上がり限界突破する。
(……いや、これは絶好のチャンスじゃねえのか!?リオがいなくなりゃ俺が勇者だ!サラもアリエッタも俺の女だぜ!)
「がははは!!」
心の叫びが口から漏れていることにクズは気づかない。
クズはリオを殺す気満々で本気で斬りかかる。
しかし、クズの大振りの剣をリオはあっさりとかわす。
リオが八百長をしてくれる事を信じ、剣を避けるとは思わなかったクズは盛大に空振りして勢い余ってバランスを崩す。
前のめりになったところでリオが蹴りを放つ動作が目に入った。
「なっ!?ちょ、ちょ待……」
リオがクズの言うことを聞くはずもなく、クズの顎を蹴り飛ばした。
「ぐへっー!?」
剣を手放し、両手を広げた姿はまるで踊っているように見えなくもないが、白目を剥き、あほ面晒した顔がそうではないと説明していた。
クズは宙を三回転した後、地面をゴロゴロ転がり仰向けで止まった。
あほ面晒して気絶したクズ父の姿を見て、息子がバカにした顔でつぶやいた。
「なっさけなっー」
息子が少し離れたところにいた女性に手を振る。
「かあちゃん!」
母親はにっこり笑って頷きながら息子のそばにやって来た。
彼女が非常に多くの荷物を持っていたのは実家に帰る準備をしてここにやって来たからだ。
そのことから彼女はリオがクズ夫に勝つ事を確信していたことがわかる。
彼女としてみればクズ夫が決闘で死ぬのがベストだったのかもしれない。
「おれ、うまくえんじれた?」
「バッチリだったよ。あんた役者になれるよ!」
「えっー!?おれ、ぼうけんしゃになりたいっ!」
「そうかい。じゃあ、あっちを目指しな」
母親はそう言ってあほ面晒して気絶したクズ夫を指差した、
なんてわけはなく、リオを指差す。
「うんっ!」
息子は元気いっぱいに返事した。
母親とその息子は手を繋ぎ笑いながら去っていく。
こうしてここに冒険者の離婚が成立したのだった。




