556話 ヴェイグ、クズの勧誘を受ける その1
マルコに集結したクズ達は来たるXデイに向けて精力的に活動していた。
中でもパーティに欠員が出て補充が急務なクズパーティは必死であった。
ヴィヴィにちょっかいをかけてぶっ飛ばされたクズパーティもその一つだ。
そしてまたメンバー補充の行動を起こしたクズパーティがいた。
ヴェイグとイーダが酒場で食事をしている時だった。
「お前がヴェイグだな」
ヴェイグは声をかけて来た者を見た。
それは冒険者だった。
その者の隣にもう一人おり、二人はパーティを組んでいると察する。
残りのメンバーが別行動をとっているとは全く考えていなかった。
「パーティの誘いなら間に合ってる」
ヴェイグは先手を打った、
はずだったが、相手には通じなかった。
クズだったからである。
クズは人の話を聞かないのだ。
「お前の事は聞いているぞ。研修でリッキーキラーと戦って健闘したそうじゃねえか」
そのパーティのクズリーダーが尊大な態度で言った。
リオの事をリッキーキラーと蔑称で呼んでいるのは格下のように扱うことで自分を少しでも大きく見せようとしていることもあるが、名前を覚えていないのだ。
ヴェイグはもう話は終わったと思っているので食事を再開するが、彼らはそう思っていないので話を続ける。
「だがな、健闘しただけで満足してたらそれ以上の成長は望めねえぞ」
言ってる事は間違っていないが、何故か全く説得力がなかった。
クズリーダーがニヤリと笑った。
「よしっ、わかった!俺らのパーティに入れてやろう!丁度欠員が出ていてな、補充しようと思っていたところだったんだ」
その言葉を聞いてパーティメンバーのクズ戦士が驚いた表情をする。
「リーダー!?それはいきなり過ぎじゃないのか!?あくまでも噂で聞いただけだ。こいつが本当に使い物になるかわからないんだぞ!?」
ヴェイグを置き去りにしてクズ達が茶番劇を始めた。
いつもなら自分達のパーティには簡単には入れない、という設定のようだ。
クズリーダーが笑いながら言った。
「おいおい、俺を誰だと思ってんだ?俺くらいになれば一目見ればどの程度の腕かわかるぜ」
「流石だなリーダー!」
「おう!」
クズリーダーはクズ戦士に持ち上げられて頬を緩めながら右腕を振り上げる。
「と、言うわけだ。よかったな」
「お前、運がいいぞ!」
二人は何がおかしいのか、突然「がはは」と笑いだす。
この間、ヴェイグはずっと沈黙。
「よしっ、飯食い終わったら早速パーティ登録しに行くぞ!」
しかし、ヴェイグから返事はない。
ただの屍……、ではなく、無視である。
しかし、自分達の茶番劇に酔っていたクズ達は気づかない。
それどころか、ヴェイグと一緒に食事をしていたイーダを見て、見当違いの事を口にする。
「おお、わりいわりい。そこの女、お前も俺らのパーティに入れてやる。今回はヴェイグに免じて特別にな!」
「よかったな!」
しかし、イーダから返事はない。
ただの屍……、ではなく、イーダもヴェイグに倣って無視である。
妄想に浸っていたクズ達だったが、周囲の客から笑い声が聞こえてきてやっと無視されていることに気づいた。
顔を真っ赤にしたクズリーダーがテーブルを派手に叩いてから二人を怒鳴りつける。
「おい!お前ら!聞いてんのか!?あん!?」
ヴェイグは面倒臭そうにクズリーダーを見た。
「さっきからうるせえ。さっさとどっか行け、クズ」
「ざけんなっー!!」
クズリーダーが怒りに任せてテーブルの食器をぶち撒ける。
ほとんど食事は済んでいたので被害は少ない。
ヴェイグがクズリーダーを睨みつける。
その目に恐怖を感じてクズ達の体温が一気に低下した。
しかし、彼らのプライドはBランク冒険者以上だ。
皆が見ている前でそう簡単に情けない姿を見せるわけにはいかなかった。
……もう十分滑稽な姿を見せつけていたが。
クズリーダーが二人に向かって必殺の呪文を放つ。
「俺らはな!Cラーンク!冒険者だぞ!お前らより二ラーンクも上なんだぞ!!」
「だな!!」
クズはランク絶対主義者である。
ランクが高ければ例え実力が上であっても従えさせることができると信じて疑わない。
そうクズルールに載っているのだ!
しかし、ヴェイグはクズではないしランク絶対主義者でもないので必殺の呪文は全く効果なかった。
「それがどうしたクズ」
ヴェイグがゆっくりと立ち上がる。
クズ達の体は危険を察して無意識に後退する。
「て、てめえ、二度も俺らの事をクズと言いやがったな!!」
「誰にも言われた事ねえのによ!」
観客?から「嘘つけ!」とヤジが飛ぶが彼らの耳には届かなかったようだ。
「それがどうしたクズ、これで三度だ。もっと言ってやろうか。クズクズクズ!」
「も、もう許さん!」
クズリーダーは体がずっと撤退を進言しているのに拒否し続けて叫んだ。
「決闘だ!」
「またかよ」
ヴェイグはため息をついた。
「許して欲しけりゃ俺らのパーティに入れ!」
「だな!」
もちろん、「イエス」と答えるわけがない。
「……丁度いい。俺はリオの野郎に負けてムカついてんだ。お前らで鬱憤を晴らしてやる」
クズリーダーはヴェイグの殺気を感じて、やっと命の危険を頭でも理解した。
ピンチを打開するため必死にク頭脳を働かせる。
「だ、だがな!ハンディをもらうぞ!」
「はあ?ハンディだと?」
ヴェイグがバカにした口調で尋ねると、クズ達は大真面目な顔で叫んだ。
「ったり前だろうが!お前はリッキーキラーと互角に戦ったんだ!そんな奴と一対一で戦えるかよ!」
「そんな有利な勝負をしかけて恥ずかしいと思わねえのかよ!?」
クズ達の主張に、酒場がしん、と静まり返る。
直後、「決闘を申し込んだのはお前らのほうだろうが!」と皆が突っ込むがクズ達は無視した。
「……つまり、二対一で戦いたいってか。いいぜ」
ヴェイグはあっさり承諾する。
クズ達はその自信を目にして二人でも勝てないと悟った。
二人してク頭脳をフル回転させる。
「だ、誰が二対一だなんて言った!?」
「何?お前ら他にもメンバーいたのか。てっきり不正合格者を追い出して欠員が出来たから俺を誘ったと思ってたぜ」
「ざ、ざざざざ、ざけんなー!!」
ヴェイグの言葉は図星だった。




