554話 ヴィヴィ、クズに絡まれる その1
「おい、棺桶持ち」
ヴィヴィの前に三人組のパーティが現れた。
装備から見てクラスは戦士が二人、盗賊が一人のようだ。
彼らの顔は根拠のない自信に満ち溢れていた。
ヴィヴィはため息をついた。
(またクズか)
「マルコを歩けばクズに当たる」と言っても過言ではない遭遇率であった。
ヴィヴィは、先ほどやって来た兵士達が「不審者が多いから不要不急の外出は控えるように」と声をかけていたのを思い出す。
その不審者とは言うまでもなく、マルコに集結しているクズ達のことだろう。
警告しか出来ないのは、例え、見た目でクズだとわかっても実際にその現場を押さえないと取り締まれないからだ。
ただ、クズ達には何か目的があるらしく、今のところそれほど騒ぎを起こしていないようだ。
(……いや、そうでもないか。すでに牢屋が半分埋まったと兵士が嘆いていたな)
ヴィヴィは仮面をつけているのを幸いにクズの話は聞こえなかったことにする。
しかし、相手はクズである。
人の都合など気にしない。
自分の欲望に忠実に行動するクズがその程度で諦めるはずはなかった。
「おいこら、棺桶持ち!呼んでんだろうが!」
クズ戦士がヴィヴィの右肩に装備していたリムーバルバインダーを殴った。
脅すつもりだったようだが、その直後、殴ったクズ戦士のほうが悲鳴を上げる。
演技ではなく本気で痛がっている。
リムーバルバインダーの強度を知らず手加減を間違えたようだ。
クズ戦士は拳を押さえながら逆ギレした。
「てめえ!よくもやりやがったな!慰謝料払いやがれ!」
ヴィヴィは面倒臭いことを隠さず言った。
「ぐふ、言いがかりにしても酷すぎるな。私は忙しいのだ。どっか行け」
「「「ざけんな!」」」
日頃からハモる練習をしているのだろう、息の合った見事なハモリっぷりであった。
クズ達が自分勝手な事を喚き始める。
「俺らはなあ!誰にも相手にされなくてひとりぼっちで寂しそうにしてるお前を見て可哀想だと思って声をかけてやったんだぞ!」
「感謝の言葉の一つでも言うもんだろうが!」
「それなのに俺に怪我させやがって!恩を仇で返すとはこの事だぜ!」
「……」
ヴィヴィは彼らの言動から自分がリサヴィのメンバーだと知ってやって来たわけではないと気づく。
これはこのクズ達が特別マヌケだとは言い切れない。
魔装士は仮面で顔が見えず、魔装着で体型は似たり寄ったりで男女の判別も難しく、皆同じように見えてしまうのだ。
魔装具にしてもカルハン製なのかフェラン製なのかわかる方が少数派である。
そんなわけで、単独で行動しているヴィヴィを見てリサヴィの魔装士だと気づく者は少ないのだ。
「これだから常識のない奴はダメだな!」
クズから“常識”という言葉が飛び出し、思わず笑いが込み上げてくる。
メキドとの会話で嫌な気分になっていたが、バカを見て少し気が晴れた。
そこで、お礼に少しだけ付き合って(からかって)やる事にした。
「ぐふ、誰にも相手にされないのはお前らだろう」
「「「ざけんな!!」」」
「ぐふ、うるさい奴らだな。それで何の用だ?」
ヴィヴィの問いにクズリーダーが即言い返して来た。
「アホか!」
「お前がな」とヴィヴィは心の中で呟いてからわからないと首を傾げる。
「マジでバカだこいつ」
「だな!」
「お前らがな」と再びヴィヴィは心の中で呟く。
「お前、パーティを追放されて途方に暮れてたんだろうが」
「それを見てだな、俺らのパーティに誘ってやろうか考えてやってんだろうが」
クズ達は勝手にヴィヴィの身の上話を作り上げた挙句、説教まで始めた。
(……いかんな、からかってストレス解消するつもりが逆にどんどん溜まっていく)
そんな事をヴィヴィが考えているとも知らずにクズ達が偉そうに話を続ける。
「よしっわかった!俺らのパーティに入れてやる!」
「ぐふ?何がわかったのだ?」
ヴィヴィの問いに答えず言いたい事を言い続ける。
「俺らもちょうど棺桶持ちを探していたとこだったんだ」
「よかったな!」
「……」
ヴィヴィが無言でいるのを見て、クズ達はパーティに入るのを悩んでいると見た。
そこでクズリーダーがもう一押ししてやろうと考える。
「お前はほんと幸運だぞ」
「ぐふ?」
「実はな、俺らはな、この後あの鉄拳制裁のいるリサヴィと一緒の依頼を受けることになってんだ!」
そう言ったクズリーダーはなんか偉そうだった。
クズメンバーも偉そうだった。
「ぐふ?」
ヴィヴィが首を傾げるもクズリーダーはそのまま話を続ける。
「そんでその後もずっとリサヴィと一緒に行動するんだぜ!」
「手始めにカシウスのダンジョンを攻略する予定だ!」
「だな!」
「……」
そんな話は無い。
カシウスのダンジョン攻略どころか、挑む予定すらないのだ。
妄想話をして気分が良くなったクズ達は現在カシウスのダンジョンを攻略している冒険者達を貶し始める。
「今の奴らはよ、まだ十階層までしか到達してないらしいぜ」
「ほんと情けねえよな!」
「まったくだ!発見されてからどんだけ経ったと思ってんだ!」
ヴィヴィは呆れた。
カシウスのダンジョンは何階層まであるのかわかっていない。
もしかしたら十階層が最下層かも知れないのだ。
そのことにクズ達はまったく気づいていない。
ヴィヴィはその事を指摘せずに別の事を尋ねる。
「ぐふ、そういうお前達は何階層まで行ったんだ?」
尋ねたヴィヴィをクズリーダーが鼻で笑った。
「俺らはまだだ」
「おうっ、俺らはマルコに来たばっかりなんだ」
「ぐふ、それでよくダンジョン攻略者をバカに出来たな」
「当然だろう。俺らとリサヴィが組むんだぞ!もう攻略したと言っても過言じゃねえ!」
「「だな!!」」
クズリーダーの言葉にクズメンバーが力一杯同意した。
「でだ、リサヴィとカシウスのダンジョンに挑むときによ、アイツらの棺桶持ちに俺らのお宝まで持たせるわけにはいかねえだろ?」
「ちょろまかすかもしれんからな!」
「「だな!!」」
そう言って三人仲良く「がはは」と笑う。
「どうだ!俺らのパーティー入りたくなっただろ!?」
そう言ったクズリーダーとそのメンバーは誇らしげな顔をしていた。
ヴィヴィは首を傾げる。
今の話の中に彼ら自身のアピールポイントは全くなく、リサヴィと一緒に行動する事を全面に押し立てての勧誘なのだ。
しかも、リサヴィと一緒に行動するというのは嘘なのである。
リサヴィの一員であるヴィヴィ自身が断言するので間違いない。
つまり、彼らのアピールポイントはゼロであった。
「ぐふ、全くないな」
ヴィヴィの素っ気ない返事にクズ達は怒り出した。
激おこだった。




