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悪夢を振り払え〜あなたを魔王にはさせません!〜  作者: ねこおう
第4部 クズ達のレクイエム編(タイトル変更)
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553話 メキド

 ヴィヴィは教会に着くと公言した通り、教会の中には入らず一人別れた。

 宿屋へは向かわず、買い物に向かう。

 最初に向かったのはウーミが働いているイルシ商会である。

 目的は魔術士用携帯食料の補充だ。

 携帯、と言ったが魔術士の中にはヴィヴィのように主食としている者も少なくない。

 この魔術士用携帯食が開発されたのはカルハンで、発売当初はカルハン国内か、魔術士ギルドでしか購入できなかったが、魔装士の登場により魔力が上がるという噂を信じて魔術士ではない者も欲するようになり、いろんな商人が取り扱うようになった。

 ヴィヴィがイルシ商会で購入するのはウーミと知り合いだからという理由だけではない。

 カルハン製の携帯食を取り扱っているからだ。

 来るのが早すぎたかもと思ったが、商会はもう開いており、目的の携帯食料を買うことが出来た。

 

 買い物が終わってもすぐに宿屋に戻る気が起きなかった。

 そこで中央広場に向かい、空いているベンチに座った。

 そしてぼんやり辺りの様子を眺める。

 中央広場にはいろんな屋台が並んでいる。

 もう少し早い時間帯であれば朝食を求める者達で食い物屋の屋台がいっぱいになっているはずだ。

 朝食で人気があるのは薄切りにした黒パンに焼いた肉と野菜を挟み、果物で作った甘いソースをかけたサンドイッチだ。

 美味くて安く、そして歩きながら食べられる、と三拍子揃っているからだ。

 ちなみにヴィヴィは魔装士、いや、魔術士になって以来、魔術士用の食事しか取っていない。

 ヴィヴィが常用している魔術士用携帯食は味に難があった。

 カルハン製のそれは魔力向上に全振りしており、味の種類こそ多いが、どれもマズいと不評であった。

 それに魔力向上に全振りとは言ったものの、上昇するのはほんの僅かで全く効果が現れない者もいる。

 サラの料理をバカにしていたが、何年もこれしか食べていないので今の自分の味覚に自信は全くない。

 それでもサラを貶すのをやめる気はなかった。



 ピークを過ぎて食い物屋の屋台の店員達はほっと息をついていた。

 中には今日の仕込分を売り切ったらしく、もう店じまいを始めているところもあった。

 旅芸人が芸の準備を始めたところで、ヴィヴィから離れたベンチでくつろいでいた一組のパーティが立ち上がり、偉そうな態度でその旅芸人の元へ向かうのが見えた。

 ヴィヴィと彼らとの距離はかなり離れているのだが、クズ臭がぷんぷん臭って来た。

 そのパーティ、いや、クズパーティが旅芸人にイチャモンをつけ始める。

 通常運転である。


「ぐふ、もはや冒険者ではなく、ただのチンピラだな……いや、本当にチンピラかもしれんな」

 

 彼らがクズである事はもはや疑いようもないが、冒険者かどうかまではわからない。

 彼らの装備を見る限り少なくとも戦闘経験がありそうなのは確かだ。

 しばらく様子を見ていると騒ぎを聞きつけたのか兵士がやって来た。

 それに気づいたクズ達がばっ、と逃げ出した。


「ぐふ、どこのクズも逃げ足だけは見事だな」

 

 ヴィヴィがそう呟いた直後、ヴィヴィの心に話しかけるモノがいた。


(旅を満喫しているようだな)


 その声にヴィヴィは表情を厳しくするが、その顔は仮面で見えないので誰も気づかない。

 ヴィヴィは心の中で答える。


(……久しぶりだな。もう、死んだのかと思ったぞ)

(はははは。我が死んだらお前は困るだろうが)

(……それで?)

(そろそろ、食いどきだと思ってな)

(……)

(おや、動揺しているのか?)

(そんなわけあるか)

(ははは。まあ、我はどっちもでいいがな。ただ、“あの女”を食うだけだからな)

(それで?)


 ヴィヴィの怒気の孕んだ問いかけに声の主は笑いながら答えた。


(決まっているだろう。カルハンに来い。我が封印されしあの場所へな)

(すぐには難しい)

(ほう?)

(今のリオはラグナに固執している。カルハンにラグナ使いがいるならそれを口実に使えるが)

(我には言い訳をしているように聞こえるぞ。よもや、あの女よりも今の仲間が大切になったか?)

(そんなわけあるか)

(そうか?)

(だが、なんとかする)

(当然だ。出来るだけ急げよ)

(まだ猶予はあったはずだ。何故急がせる?)

(……理由は二つある。一つは奴の成長速度は異常だ。このまま成長し続けると厄介だ)


 ヴィヴィは声の相手から怯えのようなものを感じた。


(このままリオが強くなったら倒されると思っているのか?)


 声の主は否定しなかった。


(……“勇者”は“魔王”を倒す力を持つからな)

(そうか、そうだな。それでもう一つはなんだ?)

(あの忌々しい神官だ)

(サラか。確かに……)

(違う違う!あんな奴はどうでもいい!)

(なに?ではアリスか?アリス方が脅威なのか?)

(……我は喋り過ぎたようだ。ともかく、あの神官は厄介だ。最悪、我の元に来る前に始末させるかもしれん)

(……)

(返事はどうした?)

(……わかった)

(それでいい。出来るだけ早く連れて来るのだ)

(わかっている……魔王、メキド)


 ヴィヴィは魔王の気配が消えてから今の言葉について考える。


(奴はアリスの方を脅威だと思っていたのか……確かにアリスの成長速度も異常だ。次々と新しい魔法を授かっているようだし……六大神はアリスが告げた者を勇者にする気なのか)


 それはイコール、リオが勇者になるということだった。



 ほんの数分までとは打って変わり、ヴィヴィの心は深く沈んだ。


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