551話 オールレンジクズ口撃
クズリーダーがリサヴィを怒鳴りつける。
「俺のクズ宣言をお前らはすぐに否定すべきだろうが!!」
「「「「……」」」」
クズリーダーの言葉にヴィヴィ達は言葉を失った。
彼らは今までのクズと同様に自分達をクズだと思っていなかった。
そう呼ばれた事は何度もあったが信じなかったのである!
そして、何故かリサヴィも彼らの事をクズだとは思っていないと根拠のない自信を持っていたのだ。
そのため、彼らが事前に行ったシミュレーションでは彼らが「クズだ」と宣言したあと、サラ達が「そんなわけないでしょう!」と必ず否定し、そう言った理由を尋ねることになっていたのだ。
ところが、実際、クズ宣言したらあっさり受け入れられてしまったというわけである。
リサヴィを取り囲んだメンバーがクズリーダーに続き、自分達が考えていた筋書きを吐き始める。
いわゆる、オールレンジクズ口撃である。
「お前らはな!俺らがクズである事を否定してなんでそんな事を言うのか理由を聞くはずだったんだ!」
「そんで俺達の感動的な話が始まるはずだったんだ!」
「ぐふ、自分で感動的とか言うな」
ヴィヴィの突っ込みは彼らのオールレンジクズ口撃を止めることは出来なかった。
全方向からクズ達の口撃が続く。
「俺らの話を聞いたお前らは、俺達が実はクズじゃねーって気づくはずだったんだ!」
「そんで『あのババアの依頼を一緒に受けようぜ!』って話になるはずだったんだぞ!」
「それをクズ発言を本気で信じやがって!!」
彼らはその感動的な話とやらを語るのがあまりに気持ち良く、語る自分達の姿に酔ってその場面ばかり練習していた。
誰がどのセリフを言うかで取っ組み合いのケンカまでし、仲直りした後には意味もなく夕陽に向かって走ったりもしたのだ。
にも拘らず、そのセリフを口にする機会は訪れず、全てが無駄に終わった。
オールレンジクズ口撃が一段落するのを見て、珍しくヴィヴィが激おこのオールレンジクズ達を落ち着かせようと優しく声をかける。
「ぐふ、安心しろ。お前達がどんな妄想話をしようとも信じることはないし、お前達がクズという認識も変わらん」
アリスも優しい笑顔を向けて続く。
「一緒に依頼を受けることも絶対ありませんよっ」
しかし、何故かオールレンジクズ達は安心するどころか再び怒り出す。
激オコだった。
「「「「ざけんな!」」」」
クズリーダーがサラに顔を向ける。
「おいサラ!お前ならわかんだろうが!棺桶持ちやアリエッタと違ってな!」
「お前ほどの神官ならな!」
「「だな!」」
クズリーダーを始め、メンバー全員がサラならわかってくれる、と何故か本気で思っていた。
期待のこもった視線を一身に受けるサラ。
「……そうですね」
「だろ!?」
クズリーダーを始め、メンバー全員がガッツポーズを決める。
それをサラは冷めた目で見ながら続ける。
「ええ。このように取り囲み、執拗に絡んでくるところから見ても、あなた達がクズであることは間違いないでしょう」
「「「「そうだ……ざけんな!」」」」
オールレンジクズ達は一層声を上げて喚き出した。
オールレンジクズ達が喚き疲れてきたところでヴィヴィが口を開く。
「ぐふ、お前達は大きな勘違いをしているぞ」
「はあ?なんだその勘違いってのはよ!?」
「まさか、お前ら今更リサヴィじゃないとか言うんじゃねえだろうな?」
「嘘をつこうたって無駄だぞ!」
「ぐふ、そんな事は言わない。そうなら最初呼び止められた時に否定している。そんなことくらいお前らの足りない頭でも理解できるだろう」
「まあ、そうだ……って、足りない頭ってのはどういう意味だ!こら!?」
「ぐふ、そんな事はどうでもいい」
「んだと!?」
「ぐふ、私が言いたいのはだ、私達は茶番劇評論家ではない、と言う事だ」
「何が茶番劇だ!?ああん!?」
オールレンジクズ達が騒ぎ出すが、ヴィヴィは無視して続ける。
「ぐふ、お前達が力に限界を感じて冒険者から役者へ転職するのは勝手だが、私達で演技力を試そうとするな」
「「「「ざけんな!」」」」
「誰が役者に転職するなんて言った!!ああんっ!?」
「調子に乗んじゃねえぞ棺桶持ちが!」
ヴィヴィがため息をついて言った。
「ぐふ、もう相手するのに疲れたからどっか行け」
「「「「ざけんな!」」」」
「そうですね、そんなに自分達の茶番劇に自信があるなら私達ではなく、専門家にでも……、そう、劇作家のぽんぽんに見せなさい」
サラは自分で思っているより相当執念深い。
ぽんぽんことイスティが脚本を書いた演劇“鉄拳制裁”のせいで悪評( ショタコン)が広がった恨みを忘れていなかった。
だから、面倒事を彼にぶん投げたのだ。
しかし、オールレンジクズ達は納得しなかった。
「「「「ざけんな!」」」」
「俺らはこれからも冒険者としてやっていくんだ!」
「おう!そんでサラ!お前は俺らと一緒に依頼を受けて俺がお前の勇者だと気づくはずなんだ!」
メンバーの一人が叫んだ本心にクズリーダーが激しく反応する。
「何言ってんだてめえ!サラの勇者になんのは俺だ!」
クズリーダーの怒り顔を見て、そのクズは口が滑った事に気づき慌てて訂正する。
「すまねえ!俺はアリエッタでいい!」
その言葉に今度は他のメンバーが反応した。
「ざけんな!アリエッタは俺が狙ってたんだ!」
「俺だ!」
クズリーダーには逆らえないのか、サラの勇者に立候補するものはおらず、他のメンバーでアリエッタ(アリス)の奪い合いが始まる。
その醜い争いをぼんやり眺めていたヴィヴィがアリスに揶揄うように言った。
「ぐふ、人気者だな、“アリエッタ”」
「もうっ、ヴィヴィさんまでっ!」
アリスがぷっと頬を膨らませてリオを睨む。
「リオさんがわたしの名前を正しく呼んでくれないからですよっ」
「そうなんだ」
「“そうなんだ”じゃないですっ。でもっ、クズに名を覚えて欲しいわけじゃないですけどねっ」
クズ達の結末はいつもの通りである。
「ぐふ、これ以上、絡んで来るなら精神攻撃と判断して反撃する」
ヴィヴィの言葉にオールレンジクズ達は大人しく引き下がった、
わけはなかった。
怒りに我を忘れたオールレンジクズ達に今の言葉は火に油を注ぐようなもので更に口撃が増した。
そのため、言葉通りリサヴィは反撃を開始した。
ものの数秒で静かになった。
そこへ兵士達がやって来た。
「騒ぎがおきていると聞いて来たのだが……」
兵士達はあほ面晒して気絶したオールレンジクズ達にちらりと目を向けたが、すぐにサラ達に戻した。
「お前達はリサヴィか?」
「はい」
「では、例のアレだな」
「は?例のアレ?」
「あ、いや、こちらのことだ。この者達の事は俺達に任せろ。もう行っていいぞ」
「あ、はい。では」
サラ達は兵士の言う”アレ“がなんのことか気になったが、兵士達は話す気がないようなので教会に向かうことにした。




