550話 自他ともに認めるクズ
リサヴィは教会へ向かうために部屋を出た。
そこに出待ちするクズ達はいなかった。
宿屋の主人がなんとかしたのだと思い、ほっとしながら階段を降りた。
一階の酒場には朝早くというのに多くの客がいた。
ほとんどがクズ臭を撒き散らしながら、サラ達の姿を見かけると一斉にキメ顔を向けて来た。
話しかけてこなかったのは宿屋の主人の決め事のおかげか。
その意味不明な行動を無視して宿を出た。
「リサヴィ!」
宿を出てしばらくすると背後から彼らを呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると一組のパーティが走ってやって来るのが見えた。
「ちょっと俺らの話を聞いてくれ!」
そのパーティのリーダーらしき者の叫びを聞き、サラがリオに尋ねる。
「ああ言っていますがどうします?」
「どっちでも。聞くのはサラ達だし」
リオはどうでもいいように答えた。
サラは思わずリオをぶん殴りそうになったがどうにか耐えた。
やって来る彼らは無視しても教会まで付いて来そうな勢いだ。
流石に教会にまで迷惑をかけたくない。
「……ではここまで待ちましょう」
「わかった」
リオ達は足を止めて振り返り彼らが追いつくのを待つ。
やって来る彼らを見てアリスが顔を顰めた。
「クズ臭がぷんぷんっしますよっ」
「ぐふ、アリス。もうサラを超えたかもしれんな」
「ひどいですヴィヴィさんっ!サラさんに勝てる訳ないじゃないですかっ」
「おいこら!」
そんなやり取りをしている間に彼らがリオ達の前にやって来た。
彼らは仁王立ちし、腕を組む。
そしてリーダーが叫んだ。
「俺らはクズだ!」
そう言ったリーダー、いや、クズリーダーを始め、そのメンバーの顔はとても誇らしげだった。
今までに数々のクズ行為をやり遂げたと自負しているからだろう。
「「「「……」」」」
今まで数え切れないほどのクズを相手にしてきたクズ専門家?のリサヴィである。
彼らがクズであることを疑ってはいなかったが、彼らが自ら認めたことでクズが確定した。
彼らは誇らしげな顔をサラに向けており、言葉を待っているようだった。
サラは彼らがやって来た理由を考える。
すぐに思い浮かんだのは、今までのクズ行為を反省しているところにサラの姿を見つけ、居ても立っても居られなくなり、やって来た、というものであった。
とはいえ、懺悔は教会や神殿ですべきことであり、処罰は冒険者ギルドが行うものである。
彼らが誇らしげな顔をしているのが少し気になったが、クズのやる事だから、と深く考えるのをやめて彼らにその考えを伝える。
「では、教……ギルドに今までに行った全てのクズ行為を正直に話して今後の判断を仰ぎなさい」
「教会で懺悔を行いなさい」という言葉を飲み込んでやめたのは、教会へはこれから自分達が向かうところだったからだ。
自分から「教会へ行け」と言ってしまうと「一緒に行こうぜ」と言われたら断りにくい。
それに自分達の行き先が教会と知っていて、それが目的だったという可能性に思い当たったのもある。
流石に考えすぎであったが。
サラは言葉を続ける。
「運良く冒険者を続けられるようであればこれからの人生はこれまでに行った数々のクズ行為を償うために使いなさい」
サラの言葉を聞いてクズ達は驚きの表情をする。
サラにボコられる覚悟をしてやってきたのに、一発も殴られなかったからだろうか。
「ではリオ、行きましょう」
「わかった」
こうしてリサヴィと自他ともに認めるクズ達はそれぞれの道を進むのだった、
なんてわけはなかった。
しばらくして、リオ達の背後から「待ちやがれ!」と怒鳴る声が聞こえてきた。
言うまでもなく先ほどのクズ達である。
自他共に認めるクズ、オールレンジクズ達である。
オールレンジクズ達はサラの言葉を聞き、驚きの表情を、あほ面をしたまましばらく固まっていた。
最初にクズリーダーが我に返った。
少し遅れてメンバーも我に返った。
彼らは怒りで顔を真っ赤にすると猛ダッシュでリサヴィの後を追いかけてきたのだ。
「待てって言ってんだろうが!」
オールレンジクズ達はリサヴィに追いつくと逃げられないようにと取り囲んだ。
サラは「結局、いつもと同じことになるのね」と思っていることを顔にも声にも隠さずに尋ねる。
「まだ何か用があるのですか?」
「俺らはクズだと言ってんだろうが!」
再びクズリーダーがクズ宣言をし、思い出したかのように腕を組んで仁王立ちしてキメ顔をする。
ぞれにメンバーも続く。
リサヴィの横や背後にいる者達もキメ顔をしたが、側面や背中に目はついていないので効果はなかった。
いや、正面にいるリーダーのキメ顔が全く効果がないので見えていたとしても効果はなかっただろう。
その姿を見てヴィヴィが小さく頷く。
「ぐふ、なるほどな。サラ、このクズどもはお前にボコって欲しいようだぞ」
「「「「ざけんな!!」」」」
ヴィヴィの言葉を受けて更にオールレンジクズ達が怒り出した。
その理由が全くわからずヴィヴィは首を傾げる。
「ぐふ?何を怒っているのだ?お前達がクズであると私達全員認めているし、サラにボコるように私からも口添えしてやっただろう」
「馬鹿野郎!俺らが本気でクズ宣言したと思ってんのか!?」
「ぐふ、思っているぞ」
ヴィヴィが「何を言ってんだこいつ」という顔をして答える。
と言っても仮面で顔は見えないが。
「ざけんな!わざわざ自分達がクズだと自慢しに来るバカがどこにいるんだ!?」
リサヴィ全員がオールレンジクズ達を指差す。
ハモリクズもびっくりするくらい息ぴったりで思わず拍手をしてもおかしくないほどであった。
しかし、オールレンジクズ達から拍手は起こらず、代わりに怒った。
激オコだった。
「「「「ざけんな!俺らはクズじゃねえ!!」」」」
「は?」
「ぐふ?」
「はいっ?」
オールレンジクズ達は自分達でクズだと言っておきながらその舌の根も乾かぬうちに翻したのだった。




