55話 武器屋へ行こう
ベルフィ達は先程の依頼を正式に受け、ギルドを先に去って行った。
サラはストーカー(カリス)から解放されて気分が晴れやかだった。
依頼掲示板を見に行こうとしたリオをサラが腕を掴んで止める。
「どうしたの?」
「リオ、依頼を受ける前に装備を整えましょう」
「装備?」
「もう忘れたのですか。あなたに合った剣を探しましょう」
「そうだった」
リオはヴィヴィに声をかけようとしたが、カルハン製の魔装士が珍しいらしく、フェラン製の魔装士達に囲まれ質問攻めにあっていた。
「そっとしてあげましょう。とても嬉しそうです」
「そうなんだ」
「ええ、私にはそう見えます」
サラは真面目な顔をしていい加減な事を言う。
その言葉を疑わないリオ。
「ヴィヴィ、僕達、武器屋に行ってるね」
「宿屋で待っててください」
リオとサラはヴィヴィに声をかけてギルドを出た。
だが、ギルドを出てすぐヴィヴィが追いかけてきた。
「あれ?ヴィヴィ、話はもういいの?」
「ぐふ」
チラリとヴィヴィがサラに視線を向けるがサラは気付かない振りをする。
「ぐふ。エロ神官と二人きりは危ないからな」
「そうなんだ」
「誰がエロ神官ですか!誰が!」
リオはヴェインに来るのは今回が初めてではないはずだが、サラはリオが道案内が出来るとは全く思っていなかった。
だから、サラは宿探しをしていたときに主な店の場所を確認していた。
その中に武器屋も含まれていた。
「リオ、こっちです」
サラは見当違いの方向へ進もうとするリオを注意して右手を指差す。
「武器屋はこっちです」
「そうなんだ?」
「ぐふ。方向音痴が先頭で大丈夫か?」
「私は方向音痴ではありません」
サラはキッパリと言い切った。
「ぐふ。そうか。着くといいな武器屋」
「着くに決まってます」
そうしてサラ達は“道具屋”に到着した。
「サラ、ここ武器屋じゃないよ」
「……そうですね」
「ぐふ。道具屋だな」
「そうとも言いますね」
「道具屋にも武器売ってるかな?」
「可能性はゼロではありません」
だが、道具屋のおっちゃんに「冷やかしなら出て行け!」と怒鳴られて追い出された。
「サラ、武器屋は?」
「……」
「サラ?」
「ぐふ!」
「……くっ。いいでしょう。ヴィヴィ、ここはあなたに花を持たせてあげます」
「ぐふ。随分と上からものを言うな。ーーまあ、リオのためだ。連れていってやるがな」
「くっ……」
ヴィヴィは来た道を戻り始め、しばらく進むと武器屋に着いた。
ベルフィから借りていた剣と盾だが、冒険者ギルド合格祝いとしてリオの所有物となった。売るなりそのまま使うなり好きにしていい、と言われていたのでこれらを下取りにして新しい剣を購入することにした。
流石、冒険者の街と言われるだけあって剣の種類は豊富だった。
リオに合いそうな剣は何本かあり、リオに感触を確かめさせるがどの剣の感想を聞いても「いいんじゃない」としか言わない。
結局、サラとヴィヴィが剣を振るリオを見て一番振れていた剣を選ぶ事になった。
サラ達が選んだ剣を見て店の親父が言った。
「ほう、その剣を選びましたか」
「この剣何かあるのですか?」
「ああ、悪いね。なんにもないよ。別に呪われてもいないしね」
「それはわかりますが」
「え?あんた魔術士なのかい?」
「いえ、そういうわけではありません」
店主は剣士の姿をしたサラが神官だとは思わなかった。だから、魔装士のヴィヴィを見て頷いた。
「ああ、そっちの魔装士は魔法が多少使えるのか。って、ごめんごめん、余計な詮索しちゃいけないね。実はその剣はフェラン製なんだよ」
「フェラン?」
リオが首を傾げる。
「ヴィヴィ以外の魔装士を見たでしょ。あの装備は“鉄の街”と呼ばれるフェランで作られたものです。フェランは質の良い武具を作る事で有名なのです」
「そうなんだ」
サラは改めて剣を見直す。
「言われてみれば他とは少し違うような気がしてきましたが、フェラン製にしては安いですね。剣にしては十分高いほうですが」
「まあ、フェランの職人もピンからキリまでいるからねぇ。こいつは無名の新人が修行の旅の途中で路銀が尽きたとかで売りに来たんだよ」
「という事はその人が本当にフェランの職人かはわからないのでは?」
「そうだよ。だからフェラン製って値札にも書いてないだろ」
「確かにそうですね」
「で、それでいいかい?」
「どうします?」
「いいんじゃないかな」
リオは相変わらず他人事のような返事をする。
「そうかい。そうすると君の剣と盾を下取りしても差額で銀貨五枚必要だよ」
「わかった」
リオはギルドで予め多めにお金を下ろしていた。財布から銀貨を五枚取り出してテーブルに置く。
「はい。確かに。毎度ありがとうございます。他に何か入用はないですか?ああ、あいにくカルハン製の魔装士の品揃えは少ないですが」
「ぐふ?」
その言葉を聞いてヴィヴィが興味を示す。
「ぐふ。品揃えが少ない、と言う事は少しはあるのか?」
「はい。ただ、大変申し訳ありませんが新品はありません。見られますか?」
「ぐふ」
「見たいって」
「そうですか。ではこちらへ」
店主が奥へ案内する。
案内された先は倉庫のようで魔装具がいくつか置かれていた。
仮面、魔装服、リムーバルバインダーと装備は一通り揃っていたが、店主の言う通り全て中古のようでどれもどこかに傷がついていた。
「ヴィヴィの魔装具に似てる」
「はい、これらは全てカルハン製ですからね。出所はご勘弁を」
「ぐふ。先の教団との戦闘で放棄された物を戦場漁りしたか、以前使用していた物をフェラン製に買い替えて不要になったものだろう」
店主は笑みを浮かべたまま肯定も否定もしない。
「買取りはしたものの全然売れません。やはり皆さん、異端審問官に睨まれるのが怖いのでしょうね。修理しようにもここヴェインでは修理出来る者がいませんし」
店主が苦笑いをする。
「やはり魔装具は他の魔道具とは違うのですか?」
「ええ。下手に触って動作しなくなっても困りますし。といいますか、これらもちゃんと動くのかもわかりません」
「そうなんだ」
「ぐふ。触ってもいいか?」
「はい、どうぞ」
ヴィヴィが仮面を手に取る。
それはヴィヴィがつけているものに似ていた。
「どう?使えそう?」
「ぐふ」
ヴィヴィは元の場所に戻すと別の仮面を手に取って確認し始める。
結局、ヴィヴィは予備として仮面を二つ購入した。
ヴィヴィは他には売れないだろうと値切りに値切り店主を涙目にさせた。
四割値下げに成功し、それでもリオには高額だったが、ヴィヴィは一括で支払いを済ませた。




