546話 リオとヴェイグ その2
ヴェイグは内心驚きを隠せなかった。
リオが想像以上に強いこともある。
(なんだこいつの剣技は!?さっきと全然違うじゃないか!)
そして、それ以上に、
(この剣技は俺のに似ている!?)
ヴェイグが感じた通り二人の剣技は似ていた。
同じ流派と言っても信じるくらいにだ。
ヴェイグはリオンに教えを乞うていたのであえていうならリオン流と言えるだろう。
そのリオンの剣技にリオはそっくりなのだ。
二人の戦いを見ていたサラもヴェイグと同様に驚いていた。
(……何?あの戦い方は?今までとは全く違う!今まではベルフィや私の剣技を真似たものだった。でも今のリオの剣技は全くの別物。というかあのヴェイグという冒険者の剣技にそっくりだわ!まさか、この戦いの間にコピーしたとでもいうの!?)
だが、その考えをすぐに否定する。
何故ならリオは戦いが始まってすぐに今の剣技を使っていたからだ。
コピーしたというより最初から知っていたという方がしっくりくる。
サラが考え込んでいるところにヴィヴィの呟きが聞こえてきた。
「……ぐふ。やはり、知り合いだったようだな」
「えっ!?リオさんはあのヴェイグって人と知り合いなんですかっ?」
「あなたは何か知っているのですか?」
「ぐふ、そうか。お前達は知らないのだったな」
そう言ってからヴィヴィがイーダを指差す。
「あの女魔術士は以前にリオが助けた輸送隊の護衛だ」
「という事は」
「ぐふ、ヴェイグもな」
「えっ?でもヴェイグさんはリオさんの知り合いではないみたいでしたけどっ」
「ぐふ。その辺りのことはわからん。わかるのはリオだけだろう」
「そうですね」
(でも、それもおかしな話だわ。それではリオが一方的に彼らの事を知っている事になる)
「ぐふ。考えても答えは出ない。戦いの後で聞けばいいことだ」
「そうですね」
「ですねっ」
ヴェイグは悟った。
剣技はリオの方が上であると。
だが、焦りはなかった。
(俺がガキの頃、リオンに稽古をつけてもらっていた時、あいつの癖に気づいた。力不足でその癖を見つけてもそこに付け入ることができなかった)
(だが!今の俺はあのときの俺じゃない!今の俺ならやれる!あの時見つけたリオンの弱点をつける!)
ヴェイグが心の中で笑う。
(リオ!お前がいたお陰で必死に練ったリオン対策が無駄にならずに済んだぜ。お前が実験台だ!お前を倒して、その次はリオン!お前だぜ!)
そしてその時が来た。
ヴェイグは心の中で叫ぶ。
(リオンと同じ癖、それがお前の敗因だぜリオ!)
しかし、
リオの癖を見抜いた上でのヴェイグの一撃はリオにあっさりとかわされた。
ヴェイグの狙いを読んでいたかのようにリオは今までとは違う動きをしたのだ。
「な!?」
動揺したヴェイグは次の瞬、剣を弾き飛ばされていた。
「勝負あったね」
「お前、さっきの……」
「うん、わざとだよ」
「な……」
「まだまだだね、ヴェイグ」
「……」
リオがイーダに顔を向ける。
「“イーダ”もやる?」
「ええ!?あたい!?」
「そう。勝ったらヴェイグの負けを帳消しにしてあげるよ。もちろん、負けたら君も僕のいうことを聞くことになるけどね」
「あ、あたいはいいよ!遠慮しとくよ!」
「そうなんだ」
リオが不機嫌そうな顔をしたヴェイグに顔を向ける。
「ヴェイグ」
「何だよ」
「今、Eランクなんだよね」
「ああ」
「じゃあ、Cランクに上がりな。それが僕の要求だよ」
「……」
「あ、無理?」
リオが挑発するように笑顔で言った。
「ふざけんな!そんなの余裕だぜ!」
「そう。じゃあ頑張って。Cランクに上がったらまた相手してあげるよ」
「くそっ!絶対だからな!今度は負けねえ!」
ヴェイグは足早に訓練場の出口へ向かう。
「こらっ!あたいを置いてくな!」
イーダはリオに頭を下げるとヴェイグの後を追った。
「待ちなさいよヴェイグ!」
「……」
ヴェイグが立ち止まり、イーダが追いつく。
再び歩みを再開する。
「ねえ、エルフのこと聞かなくてよかったの?」
「負けて聞けるかよ!カッコ悪い!」
「それはそうかもしれないけどさ……」
「それにな!あいつ、絶対嫌味を言うに決まってる!」
「まあ、確かにね。でも、なんか聞いてた話と違ったね」
「何が?」
ヴェイグはリオに負けて不機嫌なまま尋ねる。
「リオの性格だよ。なんか飄々としてるって話だったけど、あんたにはすごい挑発的だったじゃない」
「確かに生意気だったな」
見た目はヴェイグの方が年上だし、冒険者経験もヴェイグの方が上だ。
そう思うとまた怒りが込み上げてくる。
そんなヴェイグをイーダは呆れた顔で見つめる。
「そうだけど、あんたがそれ言う?」
「うるせい」
「ったく、あんたは……あれ?」
ヴェイグは突然沈黙したイーダを怪訝に思い、顔を見ると何か考え事をしていた。
「どうした?」
イーダがヴェイグの言葉に反応して顔を上げた。
「ヴェイグ」
「なんだよ、そんな真剣な顔して」
「あたい、さっきからずっと引っかかってることがあったんだ」
「何だよそれは?」
「実はあたいもそれが何かわからなくて気持ち悪かったんだけどやっとわかった気がする」
「勿体ぶらずにさっさと言えよ」
「リオだけどさ、あたいの事を“イーダ”って呼んだんだ」
ヴェイグが首を傾げる。
「お前、イーダだろ。いつの間にか名前変えてたのか?」
「そうじゃないんだよ。あたいは名乗ってないんだよ」
「!!」
ヴェイグの顔から不機嫌な表情が消えた。
「ヴェイグ、あんたもあそこであたいの名前を呼んでなかったと思うんだ」
「……つまり、リオの野郎はお前のことを最初から知ってたってことか?」
「恐らくね。そしてヴェイグ、あんたのこともだよ」
「……確かにな。なんかあいつ馴れ馴れしかったしな」
「それはあんたもだよ」
「俺はいいんだよ!」
イーダはため息をついてから続けた。
「絶対にリオはリオンと何か関係があるよ。なんでそれを隠してるのか知らないけどさ」
ヴェイグは以前、輸送隊がガル・ウォルーに襲われたとき、イーダを守っていた弓使いの事を思い出していた。
そして確信する。
その弓使いがリオであると。
(くそっ、俺がリオに勝ってればな……)
「絶対聞き出してやるぜ!次は負けねえ!」
「ヴェイグ、嬉しそうね」
「はあ?何言ってんだ?負けて嬉しいわけねえだろ」
「でも笑ってるよ」
イーダの指摘でヴェイグは笑みを浮かべていることに気づく。
「まあ、再戦の前にCランクに上がらないとね」
「そうだな。だが……」
「グルタね」
「ああ」
ヴェイグとイーダの依頼達成ポイントはCランクに上がるのに十分足りる。
Dランクは申請さえすれば無条件で上がれるし、Cランク昇格試験も二人とも受かる事を疑っていない。
ユダスに残して来たウッドもCランクに容易に上がるだろう。
だが、グルタは未だEランク昇格試験に受かっていないのだ。
少なくとも合格したという連絡は来ていない。
「俺らがCに上がったらあいつもっと焦るだろうな」
「そうね」




