542話 自信過剰な冒険者達 その2
リオが自信過剰な冒険者達に言った。
「じゃあ、順番決めて来なよ。あ、でもやっぱりハンディつけた方がいいか。そうだね、十秒ごとに一人追加でいいよ」
それは「全員十秒以内に倒してやるよ」と言っているようにもとれた。
リオの更なる挑発(本人にその意思があるのか不明だが)に五人は激怒する。
「ちょっといい気になり過ぎだぜリオ!」
「「「「だな!」」」」
サラはため息をつく。
「リオ、まったくあなたは……」
「リオさんっ、やっちゃって下さいっ!」
サラはアリスの声援の「やっちゃって」が「殺っちゃって」に聞こえた。
実際、アリスはそういう意味で言っていた。
(なんでこう私以外、血の気が多いのかしら)
サラは口に出していたら間違いなくヴィヴィが突っ込むであろう事を思った。
他の審査員達から異論が出なかったのでリオの提案が採用され、当初の順番を変更して彼らと先に試合する事になった。
順番を飛ばされる事になった者達だが、元傭兵のFランク冒険者が退場した直後だったこともあり、抗議するどころか心の準備が出来ると安堵していた。
自信過剰な冒険者は五人とも一番手をやりたがり、誰も譲らなかったのでジャンケンで順番を決めた。
一番手になった冒険者が勝ち誇った顔を四人に向ける。
「俺がリオを倒しても文句言うなよ」
「はっ、せいぜいがんばんな」
結果は説明するまでもないがリオが勝った。
五人と実際に戦っている時間は一分もかからなかった。
彼らが順番を決めるのにかけた時間のほうが長かったくらいである。
リオは一人目を最初の一振りで体勢を崩させ、立て直す隙を与えずに一方的に攻める。
そして十振り目で剣を弾き飛ばし、地に落ちる前に蹴りを放つ。
「ぐへっ!?」
相手は顎を打ち抜かれ、宙をくるくるくる、と三回転してからぽてっと落ち、あほ面晒して気絶した。
一方的とはいえ、相手と十回剣を交えたのは先の元傭兵のFランク冒険者を一発退場させたことの反省からか。
今回はサラは注意しなかったし、他の審査員達も何も言わなかった。
ギルド警備員が先ほどと同じようにあほ面晒して気絶した冒険者を無言で乱暴に引きずっていく。
残り四人となった自信過剰な冒険者達はリオの考えを悟った。
あほ面晒させて気絶させる気だ、
と。
だが、それだけだ。
リオが何をするかわかることと防ぐことが出来るかは別問題である。
こうして更に二人が何もさせてもらえず同じ運命を辿った。
三人目をギルド警備員が引きずって行くのを見送った残り二人は完全に戦意も自信も喪失していた。
ここまで来れば流石に彼らもリオとの間に圧倒的な力の差がある事を理解していた。
ケンカを売った相手が悪かったが、幸いにもこれは研修であり、大怪我を負ったとしても優れた神官のサラとアリスが控えているので死ぬ事はないだろう。(アリスについてはリオをバカにした彼らを治療するかは大いに疑問が残るが)
だが、あほ面晒して気絶し、引きずられて退場するのだけは嫌だった。
先に退場した者達は他の冒険者達の見下した視線を一身に浴びていた。
今まで見下しバカにしていた相手に今度は自分達がバカにされることになる。
ただ、負けるだけならともかく、あんな醜態を晒したくなかったのだ。
だが、リオが手を緩めないだろうことはわかっていた。
というのも三人目も残り二人と同じことを考えており、なんとかあほ面気絶を回避しようと卑屈な笑みを浮かべながらリオに交渉を持ち掛けていたが完全スルーされて同じ運命を辿ったのだ。
「次」
サラの冷めた言葉を受け、残り二人が卑屈な笑みを浮かべながら交渉を始める。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺は後回しにしてくれないか!?そ、その間にパーティを組んで対策練るからよ!」
「お、俺もだ!」
彼らの都合のいい提案にサラは首を横に振る。
「な、なんでだよ!?」
「ケチくさいこと言うなよ!」
「や、やっぱリオが俺らに負けるところを見たくないんだな!?」
「違いない!」
まだ強気の発言をする彼らにサラはため息をついて言った。
「あなた達は、例えば、ダンジョンで勝てそうもない強い魔物に出会った時にも、『やっぱり出直してくる』とでも言うつもりですか?」
「そっ、それは……」
「今回は相手がリオだと最初からわかっていたはずです。それまでの戦いを見ていて尚、あなた達はソロでリオに勝てると判断して出て来たのです」
「そ、そりゃそうだけどよ……」
ヴィヴィが冷たく言い放つ。
「ぐふ、依頼は受けた時から始まっているのだ。目的地へ向かう準備段階からな」
「う……」
「今更変更は認めません」
サラの後にアリスが続く。
「さっさとっリオさんにボコられてっ、あほ面晒してっ、気絶して退場しなさいっ」
アリスはリオを馬鹿にされて激怒していた。
激おこだったので言葉も容赦なかった。
リオは彼らとサラ達のやり取りを聞いていなかった。
三人目が退場してから二十秒以上経過した事を確認して動いた。
ゆっくりと二人に近づいていく。
それに気づいて二人は慌てる。
「ちょ、ちょ待てよ!?」
もちろん、リオは待たない。
四人目の剣を一方的に十回弾くと蹴りを放つ。
四人目が「ぐへっ」を叫んで宙を舞い、あほ面晒して気絶した。
「ちょ待てって!話し合おうぜ!なっ?」
最後の一人は両手を上げ、卑屈な笑みを浮かべながら戦う意志がない事をアピールする。
しかし、リオは歩みを止めない。
彼は降参とも言ってないし、剣も持ったままだ。
その事に彼は気づいて慌てて剣を手放した。
更に降参するため口を開こうとするが既に手遅れだった。
リオは彼の剣が地に落ちる前に、「降参」の言葉が出る前に蹴り飛ばした。
「こ……ぐへっ!?」
くるくるくる、と宙を舞う自信過剰の冒険者。
こうして最後の一人はリオと一度も剣を交えることなく、他の者達同様にあほ面晒して気絶した。
サラが順番待ちしている冒険者達に向かって言った。
「力を過信するとああなります」
研修生達はあほ面晒して気絶した冒険者が退場していくのを目で追うのやめてサラに注目する。
「彼ら以外にもリオに勝てると思っている人がまだこの中にいるかもしれません」
そんな者はもう一人もいなかった。
サラはその事を知っていてわざと言ったのである。
サラは続ける。
「しかし、その者達がすべき事は彼らのように無駄口を叩くことではありません。実際に戦って力で証明しなさい」
「はい!」と元気のいい返事が聞こえた。
「では、次のパーティ」
「「「は、はいっ」」」
その後、サラはぶっ続けに試合をしていたリオと交代した。




