541話 自信過剰な冒険者達 その1
次の対戦相手は一人だった。
「他のメンバーはどうしました?」
サラの問いにその冒険者は自信ありげに答えた。
「俺一人だ。パーティ組んでも俺の足を引っ張るだけだからな」
その冒険者はFランクであったが、冒険者になる前は傭兵であり、実戦経験が豊富だったらしく、その自信が顔にはっきりと表れていた。
「そうですか。ではこの試合結果がどうあれ、私達と依頼を受けることは出来ませんね」
「ちょっと待ってくれ」
「はい?」
「リオに勝っても依頼を受けられないのはおかしくないか?」
「「「「……」」」」
元傭兵のFランク冒険者はリオに勝つ気満々であった。
彼はリオのことを噂でしか耳にしたことがなかった。
今回、リオの戦いを実際に見て大したことない、強いという噂は大袈裟だと思った。
思ってしまった。
それが態度にもはっきりと表れており、リオの前に立ったとき、見下した目を向けただけでなく、鼻で笑ったのだ。
アリスがむっとするが、当のリオは平然としていた。
「そこで相談なんだけどよ、俺が勝ったらリサヴィに入れてくれ!」
元傭兵のFランク冒険者がサラにキメ顔をして言った。
更に続ける。
「それとも負けてやらないとダメなのか?これ、ヤラセか?」
元傭兵のFランク冒険者がとってもむかつく顔でリオを挑発する。
サラが答える前にリオが口を開いた。
「あ、じゃあ僕も倒そう」
「リオ、あなたはダメです」
「おいおい、俺もなめられたもんだなあ」
そう言った元傭兵のFランク冒険者の顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。
試合開始直後、元傭兵のFランク冒険者は舐めた。
固い訓練場の床を。
今、起きた出来事を説明する。
元傭兵のFランク冒険者は開始の合図と共にリオに突撃した。
「死ねやコラっー!!」
野盗やゴロツキのような叫びを上げてリオに斬りかかるがあっさりとかわされた。
勢い余ってバランスを崩したところにリオの蹴りがその顎を打ち抜く。
「ぐへっ!?」
元傭兵のFランク冒険者は宙をくるくるくる、と三回転してからぼてっと落ち、あほ面晒して気絶した。
そのとき、うつ伏せに倒れ、出した舌が床を舐めたのであった。
サラがため息をつく。
「リオ、相手のレベルに関係なく、どんな相手でも力を出させるという約束でしたよ」
「そうだった」
研修に参加していた者達は二人の会話を聞き、その多くは「やっぱりな」と思った。
実際、今までの試合、相手の強さに関係なく試合時間は同じくらいだった。
今のサラの言葉で研修生達はリオが相手の技量に合わせて戦っていたことを確信した。
しかし、たった今瞬殺された元傭兵のFランク冒険者のような自信過剰な者達は目が曇り、リオが手加減しているのに気づかず、「あの程度の力しかないのか」と自分の都合のいい方に考えていたのである。
あほ面晒して気絶した元傭兵のFランク冒険者はギルド警備員によって引きずられて訓練場から退場した。
今の出来事で訓練場の空気が変わった。
今の元傭兵のFランク冒険者は一度も剣を交えることなく退場した。
試合最短時間を大幅に更新したのである。
しかも怪我を治療するために待機しているアリスとそちらも担当するサラは全く動かなかった。
アリスに至っては、「ざまあみろ」とでも言うような表情を元傭兵のFランク冒険者に向けた。
アリスはリオを馬鹿にしたことに怒って治療しなったがサラは違った。
元傭兵のFランク冒険者は派手に飛んだものの、大怪我はしていなかったので治療しなかったのである。
だが、研修生達はサラもアリスと同じく彼の態度に怒って治療しなかったのだと思っていた。
サラはリオとは違い、空気が読める。
そのため、
「リオさんを怒らせたらボコられて治療もされずに放置される!」
と恐怖を覚えた者が少なからずいることに気づく。
サラが冒険者達に目を向ける。
「変に緊張しないでください。自分達の力を試すチャンスなのですよ。治療が必要と判断すればきちんと治療しますから安心してください」
「はいっ」と冒険者達が返事をするが、まだ緊張がとれない者も何人かいた。
「この研修は強制ではありませんし、リオに勝てると思うのでしたらそもそもこの研修に参加する必要も、私達と一緒に依頼を受ける必要もないでしょう。そう思う者がいましたら今からでも辞退していいですよ」
サラの言葉に一部の者が順番を無視して前に出てきた。
その数は五。
一緒に出てきたとはいえ、彼らはパーティを組んでいるようには見えなかった。
実際、彼らは先に退場した元傭兵のFランク冒険者と同じく、自分の力に絶対の自信を持つ、研修にソロで参加した者達だった。
サラが彼らに目を向ける。
彼らも全員元傭兵なのか、既に実戦経験を十分積んでいるように見えた。
実際、彼らは元兵士、元傭兵であった。
「なにか?」
「サラ、今の言葉はそれっぽく聞こえたがな、本当はリオが負けるのを見せたくないからそんな事言ってんじゃないのか?」
「俺もそう思うぜ」
「ああ、俺もな」
「「だな」」
彼らの自信は先に退場した者と同じく相当なものであった。
サラは「まだこんな自信過剰な者達がいたのね」と思いつつ、その言葉を聞いてもリオが無反応だったのでほっとした。
それよりアリスの方が今にも彼らに向かって行きそうでそっちの方が心配になった。
サラはアリスに落ちつくようにと手で合図しながら彼らに尋ねる。
「つまり、あなた達はリオより強いと言いたいのですか?」
「「「「「おう!」」」」」
五人が元気いっぱいに腕を振り上げて応えた。
サラはその姿を見て一瞬、どっかのクズ冒険者(名前は当然覚えていない)と姿が被った。
彼らからクズ臭はしないが将来、クズ冒険者になるのでは不安になった。
もちろん、顔に出したりはしない。
「ではあなた達はこの研修に参加する必要はないですね」
サラの言葉に彼らは呆れた顔をする。
「おいおい、サラ、逃げるのかよ?」
「はい?」
「俺はリオに勝つ!そんでお前は俺がこれから作るパーティに入れ!」
そう言った冒険者がサラにキメ顔をする。
その冒険者に他の四人が文句を言う。
「何抜け駆けしてんだてめえ!」
五人が言い争いを始める。
「いい加減にしなさい!」
サラの怒声で五人は不満顔をしながらも口を閉じる。
「あなた達は……」
サラが説教を始めようしたところでリオが割って入ってきた。
「いいじゃないか」
「リオ?」
リオが彼らに目を向けて言った。
「五人まとめてかかって来なよ」
「ちょっとリオ……」
リオの挑発に五人は怒りを露わにする。
「言ってくれるじゃないか!」
「だがよ、全員一緒はダメだ!」
「だな!誰がお前を倒したかで揉める!」
「それにお前が負けた時の言い訳に使われても困るぜ!」
「だな!」と彼らが頷く。
全員リオにタイマンで勝つ気満々であった。




