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悪夢を振り払え〜あなたを魔王にはさせません!〜  作者: ねこおう
第4部 クズ達のレクイエム編(タイトル変更)
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538話 ヴェイグとリサヴィ派

「待ってくれ!」


 ヴェイグ達が振り返るとひと組のパーティが追いかけてきた。

 ヴェイグ達は一瞬、「またクズが来たのか」と思ったが、彼らからクズ臭がしないのでどうやらそうではないと察した。

 しかし、警戒を怠ることはない。

 彼らは確かにクズ臭を発してはいなかったが、どこか普通の冒険者とは異なった雰囲気を持っていたからだ。



 彼らはヴェイグ達に追いつくと予想外のことを口にした。


「お前らリサヴィ派だろ?」

「……何?」


 ヴェイグ達が首を傾げるのに構わず彼らは話し始める。


「見事だったぜ。お前達の“誘い殺し”」

「え?誘い殺し?」

「なんだそれ?」


 イーダとヴェイグが怪訝な顔をするのを見て彼らは笑い出す。

 それを見てイーダが不機嫌そうな顔をして言った。


「あたい達はリサヴィ派じゃないよ」

「いや、俺達に隠さなくてもいいぜ。実は俺達もリサヴィ派だ」


 そう言った彼らの顔は誇らしげだった。

 リサヴィ派であることに誇りを持っているようだった。


「だから違うって言ってんだろう」


 ヴェイグは否定するが、彼らはヴェイグ達がリサヴィ派だと信じて疑わない。


「まあ、それぐらい慎重なほうがいいけどな。最近ギルドも俺らを警戒してるからな」

「……話が通じないのはクズ達と同じね」


 イーダがため息混じりに言った言葉に彼らがむっとする。


「俺達をクズと一緒にするなよ!」


 ヴェイグが話を戻す。


「そんで、誘い殺し、ってなんだよ?」

「……ほんとにお前達はリサヴィ派じゃないのか?」

「そう言ってんだろ」

「そっか。じゃあ説明するぜ。“誘い殺し”っていうのはな、俺達がクズ達のクズスキルに対抗して作ったスキルっていうか作戦のことだ」

「クズ達の前で目立つように依頼を受けてクズスキル、“ごっつあんです”や“コバンザメ”を使える相手と思わせて誘い出し……始末することだ」


 「始末する」と言った冒険者はどこかうっとりした表情をしていた。

 いや、他のメンバーもだ。


(……こいつらヤバイな。依頼を達成することよりクズを抹殺することを優先しているようだ)


 ヴェイグがそんな事を考えている間もリサヴィ派の説明は続く。


「今回のお前達の行動は誘い殺しの応用だと思ったんだ」

「冗談じゃねえ。あいつらから絡んできて決闘だとか喚いてきたから相手してやっただけだ。ルールの“デッドオアアライブ”も奴らが言ってきたことだ」

「でもよ、ランクは嘘ついただろ?」


 リサヴィ派の一人がそう言うと他の者が頷いた。


「だな。お前のあの剣技、どう見てもあれはEランクじゃない」


 ヴェイグはため息をつくと、面倒臭そうに冒険者カードを取り出して彼らに見せた。

 彼らはヴェイグが確かにEランク冒険者であることを知り、驚きの表情を見せる。


「お前、ホントにEランクだったのか。あの腕で……てことは冒険者になる前は傭兵か何かか?」

「俺はずっと冒険者だ」

「ユダスのね」


 イーダがそう付け加えることで彼らはやっと納得した。


「そうか。お前ら、あの戦バカが集まるユダスの冒険者だったのか」

「なら納得だ」

「まあ、そういう奴らが多いのは確かだが、俺らは戦バカじゃねえぞ」


 イーダがヴェイグに訝しげな顔を向ける。

 ヴェイグはその視線に気づいたが気づかない振りをした。

 リサヴィ派の者達がヴェイグに頭を下げた。


「俺達の勘違いだったようだ。済まなかったな」

「いや、わかってくれればそれでいい」

「だが、意図的ではないとはいえ、参考になったぜ」

「ああ。決闘に持ち込んで堂々と殺す方法があるなんてな」


 リサヴィ派が自分達だけで盛り上がる。


「俺達もやるか!」

「だな!」

「落ち着けって。相当腕に差がないと返り討ちにあうぞ」

「ああ、さっきみたいに強引に多対一でやろうとする奴とかいるしな」


 クズが決闘を多対一に持ち込むのは珍しくない。

 いや、むしろ一対一で行う方が少数派であった。

 ヴェイグは楽しそうにクズをどうやって殺すかで話し合う彼らを冷めた目で見ながら尋ねる。


「今までのやり方に飽きたのか?」


 彼らは話し合いを中断してヴェイグの問いに答える。


「そうじゃない。最近、クズ達も“誘い殺し”に気づいて警戒してるんだ」

「なるほど。クズにも学習能力がある奴もいるか」

「奴らは基本バカだ。だが、知恵がまわる奴だっている」

「ああ、奴らの仲間には魔術士や神官だっているからな」

「なるほどな」


 ヴェイグはリサヴィ派についてもう少し踏み込んでみる。


「ところで、お前らリサヴィ派は人殺しが好きなのか?」


 ヴェイグの問いにリサヴィ派の者達がムッとして反論する。

 

「俺らは殺人狂じゃないぞ!」

「ああ、俺達が殺すのはクズだけだ!」

「クズだけねえ」

「人の事を人殺しと言うが、お前だってさっき平然とクズ二人を殺しただろうが!」

「向こうが絡んできたからだ」

「俺達もだ!」

「いや、お前達の“誘い殺し”は言葉通りお前達が誘ってんだろうが」

「「「……」」」


 ヴェイグとリサヴィ派との間に険悪な雰囲気が流れる。


「ストーップ!」


 イーダが彼らの間に割って入った。


「あたいらは別にあんた達と争う気はないよ。ねっ、ヴェイグ」

「ああ、そうだな。悪かったな、余計な事言ってよ」


 ヴェイグが謝ると彼らも冷静さを取り戻す。

 

「いや、俺達も悪かった。確かに彼女の言う通り、俺達もお前達と争う気はない」

「だな。俺達が争って得するのはクズだからな」

「確かにそうだな」



 イーダが話を変える。


「ところでさ、マルコにクズが集まってるって噂を聞いたんだけど何か知ってる?あたいらさ、これからマルコに向かうとこなんだけど、さっきみたいに絡まれたら嫌なんで知ってたら教えて欲しいんだけど」

「ああ、その事か」

「知ってるのか?」

「リサヴィがマルコの有力者のナントカって奴の護衛の依頼を受けたらしいんだが、」

「え?依頼?」

「新米冒険者の研修じゃなかったのか?」

「それもある。なんでもその研修でいい成績をとったパーティがその依頼をリサヴィと一緒に受けられるらしい」

「それでその依頼だが、それとは別枠があって、リサヴィに認められたパーティが一組参加できるらしいんだ。クズ達はその枠を狙っているみたいだ」

「……その話本当か?」

「そうだよね。その別枠があるとしてもさ、普通に考えたらリサヴィがクズパーティを選ぶわけないじゃない」


 それにそれだけならあの酒場にいた盗賊が声を潜めて話す必要は無い。

 

(……その話には何か裏があるな)


 とヴェイグとイーダは確信した。

 そう思っていたのはヴェイグ達だけだでなく、リサヴィ派の者達もだった。

 

「俺達も怪しいと思っている」

「ああ、これはたぶんリサヴィの罠だ」

「リサヴィの罠?」

「ああ。サラのクズコレクター能力の範囲外にいるクズを呼び寄せるためのな!」


 リサヴィ派はサラが聞いたら激怒しそうなことを事実のように語る。

 

「おいおい、アリスも使えるぜ、クズコレクター能力!」


 彼らはリサヴィ派を名乗るだけあってアリスの名前を正しく覚えていた。

 それはともかく、これまたアリスが聞いたら激怒しそうなことを事実のように語る。


「リオさん達はクズを誘き寄せて一掃する気なんだ!」

「ああ、間違いない!」

「いやっ、流石にそれは無理があるんじゃない?」


 イーダの言葉は興奮している彼らの耳には入らなかったようだ。


「くそっ!俺らもサラやアリスのようにクズコレクター能力が使えればな!」


 しつこく何度もクズコレクター能力を連呼するリサヴィ派の面々。

 この場にサラとアリスがいれば間違いなくボコられていただろう。



 ヴェイグは自分達の行いを正義だと信じきっている彼らに非常に危険なものを感じた。

 更に彼らはリオを神か何かのように崇める、狂信者のようであった。

 そう思ったものの、そのことをヴェイグは口にしなかった。

 これ以上、ゴタゴタに巻き込まれるのはごめんだったからだ。



 別れる際にリサヴィ派の者達がヴェイグ達を勧誘してきた。


「お前達もリサヴィ派にならないか?」

「俺らと一緒にクズを一掃しようぜ!」

「いや、全く興味ねーな」

「そうね。あたい達にはやることがあるから」


 彼らはクズとは違い、しつこく誘うことはなかった。


「だが、気が変わったら連絡してくれ。いつでも歓迎するぜ」

「ああ、そんな時が来たらな」



 こうしてヴェイグ達はリサヴィ派の冒険者達と別れた。


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