537話 ヴェイグとクズの決闘 その2
二対一で行う変則的な決闘もないわけではないが、当然相手の了承を得る必要がある。
「あれだけC!ラーンク!って叫んどいて情けねえ奴らだな」
「ざけんな!」
「俺らはな!Cランクのなかでも頭脳派なんだ!」
「だな!」
「いや、“無脳”派だろ」
「「ざけんな!!」」
クズ達はヴェイグにバカにされても二対一での決闘を強引に進めようとする。
「今更逃げんなよ!」
「おう!恨むなら俺らを本気にさせたお前自身の愚かさを恨むんだな!」
「いや、愚かはお前らだろ」
「「ざけんな!!」」
ヴェイグはため息をついた。
「まあ、確かにお前達の言うことも一理あるな。俺も暇じゃないし一回で済むならその方がいいか」
ヴェイグの言質を取り、クズ達は勝ちを確信した。
根拠のない自信から来る確信である!
「よし!聞いたなお前ら!」
周りに集まった野次馬共にクズ達が叫ぶ。
「俺らは正々堂々二対一で戦う!」
「こいつの希望通りにな!」
そう言ったクズ達の顔はなんか誇らしげだった。
「……何が正々堂々なんだ?」
「希望はあんた達のでしょ」
ヴェイグとイーダの突っ込みはクズ達の耳に入ったものの、クズフィルターでカットされ、脳に伝わることはなかった。
中央広場にいた冒険者の一人が決闘の立ち合い人になった。
これで街中とはいえ、クズを殺しても、あるいはクズが殺されても罪に問われることはない。
……あ、どっちも同じだった。
ヴェイグも剣を抜いた。
「じゃあさっさと来い、クズども。すぐに終わらせてやる」
「「ざけんなっー!!」」
クズ達が奇声を上げてヴェイグに突撃した。
イーダの元にはヴェイグが決闘で死ぬことを前提に自分のパーティへ誘う無神経な冒険者達が詰めかけていた。
もちろん、彼らもクズである。
「邪魔!見えないでしょ!どっか行って!」
イーダは心からそう叫ぶが、クズがその程度で引き下がるはずはない。
「おいおい、そんな事言っていいのか?困るのはお前だぞ」
「はあ?」
「何平気な顔してんだ?Cランク冒険者二人にEランク冒険者が勝てるわけないだろうが」
「だな!お前の前でカッコつけて墓穴を掘りやがったぜ」
「ああ。間違いなくお前の男、死ぬぜ」
「……」
「でもよ、お前の男を殺したパーティなんかには入りたくないだろ?だから俺らのパーティに入れてやるぜ」
「だな!」
「はあ?誰が死ぬって?」
「お前、魔術士の癖に頭悪いな。お前の男だって……へ?」
話していたクズが決闘しているヴェイグを指差そうとするが、その先では今まさにクズ二人の首が宙を舞っているところだった。
「……あれ?」
クズが指差したままあほ面を晒して固まる。
そのクズだけでなく、イーダを勧誘していた者達全員があほ面を晒して固まった。
ヴェイグとクズ二人の決闘だが、特筆すべきことは何もない。
ヴェイグがクズ二人の剣をかわし、剣を一振りした。
それだけだ。
クズ達に二振り目はなかった。
ヴェイグにも二振り目はなかった。
ヴェイグは一振りでクズ二人の首を斬り飛ばしたのだ。
イーダを勧誘していたクズの一人が我に返る。
高速で“ク頭脳”を働かせると大声で叫んだ。
「おっ、お前らー!!」
そのクズがクズ二人の死体に駆け寄ると服が血で汚れるのも構わず二人の体を抱きしめる。
そして何度も「お前らー!」と叫ぶ。
そのクズは死んだクズ二人の仲間で、その死を悲しんでいるように見える。
だが、ヴェイグはそのクズは二人とは全く無関係だと思っていた。
何故なら、そのクズは先ほどから「お前らー!」と喚くだけで一度も彼らの名前を呼んでいないのだ。
赤の他人だから名前を知らないのだろう、ヴェイグはそう思っていた。
そのクズがヴェイグに顔を向けて言った。
「決闘の結果だから俺はお前に復讐はしない!だがな!こいつらは大親友である俺が引き取る!お前には指一本触らせんぞ!文句は言わせねえ!」
そう叫んだクズだが、本心が表情にしっかりと表れていた。
言葉とは裏腹に満面の笑みを浮かべており、その両腕が死体を弄り、サイフのようなものを懐に入れるのが見えたのだ。
(やはりこいつはあのクズ達の友達でもなんでもない、ただの死体漁りのクズだ)
「……勝手にしろ」
クズの持ち物に全く興味ないヴェイグはそう吐き捨てるとイーダの元へ向かう。
ヴェイグが死ぬことを前提にイーダを勧誘していたクズ達はヴェイグが生きて戻ってきたことに焦った、
かと思えば全くそんなことはなく、彼らクズの関心は既にイーダからクズ二人の死体に変わっていた。
それを証明するかのように「お前らっー!」と叫んだかと思うと死体に向かって全力疾走する。
死んだクズ二人には大親友がたくさんいたようだ。
進路上にクズ二人の頭が転がっていたが、彼らは気にとめることなく素通りする。
中には邪魔だとばかりに頭を蹴り飛ばす者もいた。
こうして新たな大親友達がクズ二人の死体に駆け寄ったのである。
その姿はまるで死肉に群がるハイエナのようであった。
「……クズどもが」
ヴェイグがそう吐き捨てるとイーダもハイエナに冷めた目を向けながら同意する。
「ほんと最低」
彼らは早々にその場を後にした。




