535話 マルコの気になる噂
ヴェイグとイーダはマルコへと向かっていた。
その途中にある街に夜に着いた事もあり、今夜はこの街で一泊することにした。
二人は適当に宿屋を決め、その一階の酒場で食事をしながら何か面白い話はないかと他の客の話に耳を傾けているとちょうどリサヴィの話を始めた冒険者達がいた。
話題を振ったのは装備から見て盗賊クラスらしい冒険者だ。
「どうやらまたリサヴィが新米冒険者の研修をするらしいぞ」
話相手の戦士がちょっと驚いた顔をする。
「ホントかよ?あいつら後輩育成に熱心だな。で、場所は?」
「マルコだってよ」
「またマルコかよ。あいつら別にマルコ所属じゃないんだろう?なんでマルコばっかでやるんだ?」
そう思っているのは彼だけでなく、他のギルド、そしてそのギルド所属の新米冒険者もそう思っていた。
新米冒険者達の中には自分達が所属するギルドにリサヴィに研修をしてもらえないかと相談をしている者もいた。
「なんでもそこのギルド職員とサラが親しいからみたいだ」
サラが聞いたら激怒しそうな事を盗賊は自信を持って言った。
「そんなに仲いいならマルコ所属になればいいんじゃないか?」
「なんか理由あるんじゃないか。他のメンバーが乗り気じゃないとか」
「なるほどな」
イーダがヴェイグに顔を向ける。
「リサヴィはまだマルコにいるみたいね」
「そのようだな」
「もうすぐそこだし、行き違いにならなくて済みそうでよかったわ」
「ああ」
盗賊が気になる発言をした。
「リサヴィに会おうとは考えるなよ」
「「!?」」
それはヴェイグ達に言ったわけではない。
話相手の戦士に向かって言った言葉だ。
盗賊の真意を知るためにヴェイグ達はその話を聞くのに集中する。
戦士が納得できないという表情で盗賊に理由を尋ねる。
「どうしたんだ?お前も興味持ってたじゃないか。サラだけでなく、もう一人の神官、アリエッタだったか、そいつも美人で一目見たいって言ってただろ。それともお前はリサヴィにクズ判定されて消されるってか?」
戦士は笑いながら冗談で言ったつもりだったが、盗賊が笑わなかったのを見て真剣な表情になる。
「お、おい?」
盗賊が厳しい顔をして言った。
「……今、マルコには各地からクズが集結しているらしい」
「なに!?」
ヴェイグはその言葉を聞いて飲みかけていたエールを吹いた。
「ちょ、ちょっとヴェイグ!」
「悪い悪い。」
ヴェイグは袖で口を拭う。
その冒険者達は話を続ける。
「なんでそんな事になってるんだ!?って、ギルドがクズスキル対策したり、リサヴィだけでなく、リサヴィ派って奴らもクズを抹殺して減ってんだろう!?実際、少なくなったと実感してたんだが……」
リサヴィ派はともかく、リサヴィはクズ抹殺などしていないのだが、ほとんどの者達がギルド公認で行っていると信じていた。
そう思われてしまうのはリサヴィに絡むクズの死亡率が非常に高いこともあるが、サラの師で六英雄の一人でもあるナナルが冒険者として世界を旅しているとき、そのような事をしていたことも関係している。
サラがナナルの意思を受け継いでいると信じている者も決して少なくないのだ。
盗賊もリサヴィがクズ抹殺を行なっていると信じているようで戦士の言葉を否定しない。
「そんだけクズが多いって事だ」
「そ、そうか」
戦士は納得いかず盗賊に尋ねる。
「でもよ、なんでよりにもよってマルコなんだ?あそこが先頭切ってクズ対策始めたんだろうが」
「クズを大量生産してばら撒いたのもマルコだけどな」
盗賊は容赦なかった。
「そりゃ無能のギルマスの野郎だろ。それによ、リサヴィはクズの天敵じゃないのか?自殺願望でもあるのか?」
戦士の言葉を聞いて盗賊がふっと笑った。
「クズの天敵か」
「なんだよ?違うか?」
「いや、合ってる。だがな、クズの多くは自分達がクズである自覚がない」
「あっ……」
盗賊の言葉にヴェイグとイーダは「確かに」と頷く。
「そして、クズの自覚がないからリサヴィを利用できる、サラやアリエッタの勇者になれると思い込んでいる者が今だにいるんだ」
「なるほどな。まあ、サラやアリエッタの勇者は自分だと思ってるのはクズだけじゃないけどな」
「更に言うとだな、今回マルコに集結しているクズは元マルコ所属ばかりだ」
「なに?」
元マルコ所属という事はマルコギルドが実施したクズ一掃作戦に引っかかりマルコ所属を解約した(実際はさせられた)者達だろう。
クズ認定された彼らがマルコに戻ったところでマルコ所属に復帰出来るわけがない。
「なんでなんだ?」
戦士に問いに盗賊が笑みを浮かべながら戦士に逆に問いかける。
「なんでだと思う?」
戦士だけでなく、ヴェイグとイーダも一緒に考える。
ヴェイグは思いついた事をイーダに言った。
「アイツら馬鹿だから時間が経って、追放された事を忘れたんじゃないか?」
「……確かにあり得るけど、一斉に?」
「別におかしくはないだろ。アイツらって、同じような思考や行動するだろ。まるでクズ養成学校でそう学んだみたいによ」
ヴェイグは以前、ヴィヴィが言ったような事を口にする。
「確かにそうね……あ、向こうも何か思いついたみたい」
ヴェイグとイーダが彼らの話に耳を傾ける。
戦士が盗賊に自信を持って答えた。
「新米冒険者目当てだ!」
「……ほう。詳しく頼む」
「最近、ギルドが不正合格者摘発をしただろ?」
「ああ、アンケートに見せかけた識字試験な」
「そう、それだ。合格した事に胡座をかいて読み書きを怠っていた奴らが不正合格したとバレて摘発された。それでそいつらが抜けてパーティに欠員が出来たはずだ」
「ああ、確かにな。欠員が出来たパーティが集まって統廃合されたって話もあるが少数派だ。欠員を補充できないパーティの方が多いって話だな」
複数パーティが集まって一つになるのが難しいのは誰がリーダーになるかでモメるからだ。
特にクズ達にとってだが、リーダーとは報酬を自由に決められ、威張れる、こんな美味しい役を失いたくないのだ。
今までリーダーをやっていた者がなんの特権もないただのメンバーに成り下がるのは我慢できないのである!
「だからさ、新米や低ランク冒険者の中から有望そうな者を仲間に引き入れようって考えたんじゃないのか?リサヴィが認めた者なら間違い無いだろ?」
戦士がどうだと胸を張る。
しかし、
「二十点だな」
盗賊の採点は厳しかった。
「何!?違うのか?」
「確かにそれもあるがメインじゃない」
「なんだと?他にもあるのか?ってか、これがメインじゃないだと?」
戦士はしばらく唸ってからお手上げと両手を上げる。
「降参だ。全くわからん」
「だろうな」
「もったいぶらずに教えろよ」
「それはな……」
それは秘密だったらしく盗賊は声を潜めて戦士に囁く。
盗賊でもないヴェイグとイーダはその言葉を聞き取ることが出来なかった。
盗賊の話を聞いて戦士が驚いた顔をする。
「……ほんとか、それ?」
「ああ。間違いない」
「そうか。なら今回、リサヴィに会うのはやめとこう。“間違われたら”かなわん」
「ああ、それがいいと思う」
そこからその冒険者達はリサヴィの話から別の話題に移った。
「なんか、すっごく気になるわね」
「ああ、肝心なところが聞けなかったからな」
「ダメ元で聞いてみる?」
「盗み聞きしてたんだけど、って言ってか?」
「あ、あはは、そうね……一応確認だけど、アタイらは?」
「愚問だ。行く以外の選択肢はない」
「だよね」




