533話 待ち人、来たらず
ハモリクズが村の入り口で仁王立ちして腕を組み、リオ達が帰ってくるのを待ち構えていた。
リオ達と別れてから今日で二日目になる。
彼らはリオ達がデスヴァイパーに負けることは全く考えていなかった。
彼らの素晴らしい指揮があったのだから当然である!(彼らの妄想)
更に彼らの活躍はそれだけではない。
今に至るまでこの村をたった二人で守っているのだ!(そんな依頼はないし、魔物の襲撃もない)
彼らは今回の依頼報酬を受け取るのは当然であり、揉めるとしたら配分だけだと考えていた。
当初から宣言していた通り五割から譲歩する気はない。
もし、サラ達が文句を言うようなら逆に自分達の取り分を増やす気満々であった!!
そんなハモリクズに村人が声をかける。
「ちょっとあんた達、通行の邪魔だよ」
何もせず、ただ村の入り口に突っ立っている彼らハモリクズは村人達にとって邪魔以外の何物でもない。
彼らは村を守っているつもりのようであったが、村人達は誰もそんなふうには考えていなかった。
そもそも村には自警団がある。
今は非常時ということで自警団が昼夜問わず交代で村の周囲の見回りをしている。
一方、ハモリクズは夕方になると早々に宿屋に引き上げて一階の酒場で騒ぎ、朝までしっかり寝ているのだ。
そんな彼らが「「村の警備をしている」」と言っても信じるわけがない。
彼らが村人から邪魔者扱いされる理由は他にもある。
村に戻ってきた(逃げ帰ってきた)彼らはサラ達が戻るまでの間の宿代及び食事の無償提供を要求したのだ。
彼らもサラ達と同じ依頼を受けていると嘘をついてである。
当然却下された。
彼らの嘘を見抜いたこともあるが、そもそもサラ達の受けた依頼は村が依頼したものではないのである。
要求が却下されると今度はサラ達にその代金をつけろと言い出した。
「「安心しろ!サラ達が間違いなく払う!俺らが保証するぜ!」」
そう言ったハモリクズの顔は自信満々だった。
「そうか、なら安心だな!」
と宿屋のおっちゃんは思わなかった。
ハモリクズの言う事を全く信じていなかったからである。
宿屋のおっちゃんは彼らがサラ達と話しているのを見たことがないし、村からサラ達の跡をこっそりつけていく怪しい姿を目撃していたのだ。
サラ達が彼らの事を知っているとしてもそれは友人としてとは思わなかった。
更に付け加えるとずっとハモり続ける彼らは不気味で仕方がない。
さっさと村を出ていって欲しいと思っていた。
それでもハモリクズはしぶとく粘ったが、騒ぎを聞きつけ自警団がやって来ると「「後で後悔するからな!」」と叫んでやっと渋々だが宿代を支払ったのであった。
その話はあっという間に村中に広がった。
そんな経緯もあり、ハモリクズの信用はゼロだったのである。
だが、彼らは気にしなかった。
何故なら彼らはクズだからである。
ハモリクズだからである!
……ハモるのは関係ないか。
しかし、いくら待ってもサラ達が村に戻ってくることはなかった。
それは当然だった。
サラ達は別荘周辺の魔物退治を終えてマルコへの帰路についていたのだ。
今回の依頼はこの村で受けたものではないのでデスヴァイパーの討伐結果を村へ報告する義務はない。
もちろん、報告するに越した事はないのだが、クズ専門家?であるサラ達はハモリクズの次の行動を読んでいたのだ。
ハモリクズが村で待ち構えていることを確信し、クズに関わるのはゴメンだと村へ寄らなかったのである。
クズ専門家?リサヴィの読み勝ちであった!
そんなこととは知らず、ハモリクズは日中は村の入り口に立ち、あるいは寝転がって昼寝をし、夜は酒場で騒いで過ごした。
とても警備をしているは思えない態度でサラ達の帰りを待ち続けた。
サラ達が既にマルコに戻っていることをハモリクズが知ったのは村の警備ごっこを始めて三日目だった。
サラ達の戻りがあまりに遅いので、デスヴァイパーに敗れたとの考えが頭を過ったが、決して自分達で様子を見に行こうとはしなかった。
サラ達が勝てない相手に自分達が勝てるわけがない、
と思ったからではない。
村を守るのが自分達の役目だからである!(そんな依頼はないが)
しかし、実際にデスヴァイパーが村に攻めてきたら真っ先に逃げる気満々であった。
村長が自警団を連れてハモリクズの前にやって来た。
村長は嫌そうな顔を隠しもせずにハモリクズに尋ねる。
「あなた達はいつまでここにいるつもりですか?」
「「愚問だ!サラ達が帰って来るまでに決まってるだろう!」」
「「だな!!」」
同時に叫んで同時に同意する。
ハモリクズは今日も通常運転だった。
その様子に引きながら村長は話を続ける。
「やはり何も知らないのですね」
「「何?それはどういう意味だ?」」
「先程、冒険者がマルコギルドからの手紙を届けに来たのですよ。その手紙によるとデスヴァイパー退治が終わり、皆さんはマルコに戻っているそうです」
村長の話を聞き、ハモリクズは大笑いする。
「「嘘つけ!俺達を騙そうったってそうはいかんぞ!」」
「嘘ではありません」
ハモリクズは村長がまだ騙そうとしていると思い怒鳴りつける。
「「ざけんな!俺らはな、朝からずっとここにいるがその手紙を届けに来たっていう冒険者を見てねーぞ!!」」
「「だな!」」
ハモリクズは自信を持って断言する。
そんな彼らに村長は冷めた目を向けて言った。
「そうでしょうね。その時、あなた達はそこに転がって寝ていたそうですから」
「「な……」」
ハモリクズが全く役に立っていないことを自らの言葉で証明した瞬間であった。
ハモリクズは相方を責め始めるが、同じことしか言わないので永遠に決着はつかないだろう。
村長は彼らの遊びに付き合っているほど暇ではないので話を進める。
「ともかく、あなた方がここにいる理由はなくなったのではないですか?」
村長の言葉を聞き、ハモリクズは醜い罵り合いをやめる。
「「くそ!!サラ達は今回の依頼のMVPである俺達を蔑ろにし、報酬を独り占めしたってことか!!」」
「「こうしちゃいられねえ!!俺らの報酬を取り戻すぞ!!」」
ハモリクズは怒りの形相で宿屋に向かうと荷物をまとめて村を出て行った。
「ああ、やっと出て行ってくれたよ」
ハモリクズの後ろ姿を村長達が嬉しそうな顔で見送った。




