530話 デスヴァイパーとの戦い
リオ達( とハモリクズ)はお婆さんの私有地に入った。
リオ達は了承を得ているから問題ないがハモリクズは不法侵入だ。
サラが私有地に入る前にハモリクズに警告するが、彼らクズが人の言う事を聞くわけがない。
満面の笑みで
「「安心しろ!俺らはリーダーだ!」」
と訳のわからないことを言う。
ヴィヴィがリムーバルバインダーで脅すと足を止めたものの、リオ達が私有地に入るのを見届けると警告など最初から受けなかったとでもいうように堂々とその後に続いたのである。
サラとヴィヴィはもう警告はしなかった。
当然、後日、お婆さんにチクる気でいた。
別荘へ続く道は手入れされていたが、道から少し外れると大人の腰ほどもある雑草が覆い茂っていた。
デスヴァイパーなら容易に身を隠せるだろう。
先頭を歩くリオをはじめリサヴィのメンバーは平然とした顔をしていたが、ニューズは緊張した面持ちで周囲を警戒しながら進む。
盗賊のリイは特に周囲に気を配り、メンバーに注意を促す。
「気をつけろよ。近くじゃないが魔物の気配を感じる!」
「「お、おう」」
そこへハモリクズが割り込む。
「「安心しろ!!俺らがついてんだからよ!!」」
そう言ったハモリクズの顔は根拠のない自信に満ち溢れていた。
が、誰もハモリクズを相手にしなかった。
少し開けたところに出た時だった。
目の前にデスヴァイパーが出現した。
視界に入るものだけでざっと十。中央奥に一際大きい赤いデスヴァイパーがいた。
更に茂みの中からも複数気配を感じる。
「ぐふ、予想以上に多いな」
「そうですね、隠れているのを含めてざっと二十くらいでしょうか」
「ですねっ」
ヴィヴィ達は大したことないとでもいうように平然と会話をしていたが、他の者達はそうではなかった。
Cランク冒険者の魔術士と神官は平静を装っていたが内心では酷く動揺していた。
彼らでさえそうなのだ。
Cランクに近い実力を持つとはいえ、Dランクの、まだまだ経験不足が否めないニューズのメンバーは皆、表情を強張らせていた。
だが、泣き言は言わない。
が、誰も泣き言を言わなかったわけではない。
「「ざ、ざけんなっー!!」」
「「なんだよこの数はよ!こんなん聞いてねえぞ!!」」
ハモリクズはデスヴァイパーの多さと赤いデスヴァイパーの威圧に簡単に屈した。
二人が喚いて周りに恐怖の感情を撒き散らす。
それが必死に恐怖に耐えていたニューズに感染し、体が震え出す。
「く、くそっ、落ち着け俺!」
ニューズが必死に恐怖に打ち勝とうとしているところにまたもハモリクズが水を差す。
「「リ、リーダー命令だ!!ここはお前らに任せる!!」」
「「お、俺らは先に戻って村を守るぜ!」」
ハモリクズは一方的に叫ぶと逃げ出した。
ハモリクズに続いて逃げたい、という衝動がニューズの心を支配しかけた時だった。
「……なんだ、ただのリバース体か」
リオがそう呟くのが聞こえた。
大きな声ではない。
ハモリクズの喚き声にかき消されてもおかしくない大きさだった。
しかし、ニューズのメンバーの耳にその声がしっかりと届いた。
盗賊のリイだけでなく、ヤックとソウオンにもだ。
それはとても不思議な事であったが、誰も疑問に思わなかった。
(リオは全く恐怖を感じていない?って、当たり前だ!)
(リオはこの状況を楽しんでいるんだ!)
(リオにとってこの状況は窮地でもなんでもないんだ!)
ハモリクズが撒き散らした恐怖がニューズの中から消えた。
その代わりに勇気が湧き上がる。
早く戦いを始めたい、リオの前で活躍したい、と心踊る。
「リオ!さっさと片付けちゃおうぜ!」
サラは声をかけて来たヤックを見て驚く。
その顔に恐怖はない。
それどころかワクワク興奮していた。
彼らの実力からしたらこの数の相手をするのは無謀で、絶望しかない状況にも拘らずだ。
だが、サラが驚いたのはそこではない。
ヤックを始め、ソウオン、そしてリイの目が微かにだが赤く染まっていたのだ。
ヤックの言葉にリオが応える。
「じゃあ、始めようか」
リオの発した言葉で戦いが始まった。
リオが赤いデスヴァイパーに向かって走り出す。
立ち塞がるように向かって来たデスヴァイパーにリオは短剣を放つ。
適当に放ったようにしか見えなかったが、短剣は正確にデスヴァイパーの頭を貫いた。
即死だった。
リオは更に短剣を放つ。
あっという間に四体のデスヴァイパーが散った。
リオに続いて突撃したのはアリスだった。
アリスに二体のデスヴァイパーが襲いかかる。
アリスは片方に左腕に装備した盾を叩きつけ、もう片方のデスヴァイパーの頭を手にしたメイスで叩き潰した。
そして、盾を叩きつけられてフラついていたデスヴァイパーの頭にメイスをお見舞いした。
ヴィヴィがリムーバルバインダーを飛ばした。
迫るデスヴァイパーをその重さで押し潰す。
更にもう一体をリムーバルバインダーをバットのように振り回してぶっ飛ばした。
サラはリサヴィのメンバーに手助けは不要と判断し、迫るデスヴァイパーを排除しながら苦戦しているニューズのサポートに回った。
ニューズのメンバーは連携を活かして格上の、しかも複数のデスヴァイパーと互角に戦っていた。
もちろん、魔術士と神官のサポートがあってのことだ。
魔術士はニューズに攻撃強化と防御魔法をかけた後は、攻撃魔法アイススピアを使ってデスヴァイパーを仕留めたり、牽制した。
サラが駆けつけ神官と共に怪我したニューズの治療をする。
サラが加わった事で神官が一瞬安堵した表情を見せるがすぐに気を引き締める。
まだ戦いは終わっていないのだ。
サラ自身が戦えばこの戦いはあっという間にケリがつく。
それをしないのはニューズの経験にならないからだ。




